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2012.09/04 温故知新(1)

酸化スズゾルを用いた帯電防止技術の開発事例では、

1.科学の成果が無い時代に、経験知で「モノ」を創れる技術があった。

2.科学の成果が知られていても、経験知が無ければ、「モノ」を創ることはできない。

ということを示しているように思います。

 

1960年頃どのような技術があったかは、特許の実施例を検証すれば理解できます。1990年には、スタウファーらのパーコレーションの研究成果に関する書籍が販売されていましたから公知であったと思います。また、酸化スズゾルも新素材として販売されており、塗布技術も揃っておりました。

 

経験知も技術のカテゴリーにいれれば、1990年に存在した塗布技術は、1960年に存在した塗布技術よりも劣っていることになります。しかし、生産技術として塗布技術を捉えると、30年間の進歩は確かにありました。技術開発は進められたが、経験知は忘れ去られた、あるいは経験知を見ることができなくなった、というのが実態では無いかと思います。このような事例は、他にもあるかもしれません。

 

科学が進歩した時代であっても、技術が無ければ「モノ」を作れません。ゆえに科学と技術は車の両輪にいつも例えられます。科学は学術論文と教育でその成果が未来へ継承されてゆきますが、技術はどのように未来へ伝えられるのでしょうか。

 

どこの企業でも技術開発報告書があります。報告書で技術は未来にうまく伝わるのでしょうか。技術の継承を考慮し、報告書に工夫をしている企業もあるかもしれません。一方ISO9001の普及で、報告書は単なる技術開発の証拠として形だけになっている企業もあります。また、一般に報告書は科学的知識で論理を展開するはずですから、報告書で技術を伝えるのは、結構難しい作業になるかと思います。

 

E.S.ファーガソンは、その著書「技術屋の心眼」の序文で、技術に含まれる知識には科学がもたらしたものと、科学的ではないものが含まれることを指摘しております。1960年に発明された酸化スズゾルを用いた帯電防止技術は、まさにその典型であり、科学的知識など無い時代に、技術で帯電防止薄膜を完成させております。ファーガソンが指摘している、技術には科学的ではないものが含まれる事実は重要で、これをどのように継承してゆくのかというのは、技術開発で重要と思います。また、この要素が多い技術ほど独創性が高く、他社との差別化技術になるのではないかと思います。

 

また、技術には科学的ではないものが含まれる、という認識は重要で、この認識を持つことで、「温故知新」という古人の知恵をうまく生かすことができるように思います。酸化スズゾルの帯電防止層を科学的に技術開発し商品化できましたのは、「温故知新」によるところが大きいです。

カテゴリー : 一般

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