合成された高分子をそのまま使用するケースは少ない。ほとんどの応用分野では添加剤も含め何らかの化合物と混合して用いる。高分子と添加剤、あるいは他の高分子との混合では、合成時に添加したり合成後でも均一混合が可能な場合、例えばラテックス以外では混練機を用いる場合が多い。
混練技術についてアカデミアの研究者が少ないため実技経験者の知恵に頼らなければいけない分野である。このような技術で困るのは、混練した材料の経験が異なると考え方が異なる場合だ。例えば樹脂技術者とゴム技術者では水と油ぐらいに考え方が異なっている部分もある。退職5年間のわずかな経験でこのようなことを書くと叱られるかもしれないが、一流樹脂企業の技術サービスと激論した経験(注)からこの結論に至った。
混練時に働く力で重要なのは伸張流動と剪断流動であり、このあたりまでは意見の相違が無いが、ガラス繊維補強樹脂を混練した技術者はじめフィラーを分散した技術者と動的加硫や特殊な分散を行っている技術者、そしてゴム材料技術者ではプロセス設計の考え方になると様々な見解が出てくる。聞いていると、それぞれの材料がうまくいったときの経験を話しているに過ぎない。
ゴムや樹脂、あるいは射出成形用セラミックス前駆体を混練した経験から、ゴム材料技術者の考え方に軍配を上げたくなる。他の混練技術者が間違ったことを言っているわけではない。根底に混練がうまくいっていないときに配合を検討しても無駄であるという認識があるのかどうか、ということである。換言すれば樹脂の混練を行っている人で、混練に疑いを持っている人は少ない。しかし、ゴムの材料技術者はロール混練条件に不安を感じている人が多い。話していて分かるのである。
退職後の2年前たまたま学会でT社の樹脂技術者と話す機会があった。カオス混合を研究しているという。混練技術を検討するとこの技術にたどり着くのではないかと、初めて意見が一致した。写真会社に勤務しているときに出会っておれば、無理をして混練プラントを作ることもなかった、と悔しい思いをした。
話して気がついたことだが樹脂技術者の間で混練技術が見直されている気配を感じた。起業後しばらくは電池やミドリムシに注力しようとしたが、うまくゆかなかった。急遽混練技術に力を入れ始めたが、小さな仕事がいくつか舞い込むようになった。樹脂材料のプロセシングで困っている方は弊社へ相談されますとすっきりします。
(注)写真会社に在職中、ケミカルアタックが原因ではなく混練プロセスに問題がある、という指摘をケミカルアタックによる破壊ではない証拠とスの入ったペレットとともに示しても、D社の技術サービスはケミカルアタック説を主張し続けた。議論が平行線になったので、中国までD社の現場を見に行った。
案の定混練プロセスは管理されておらず、混練機の制御盤の温度が設定値を20℃以上はずれていても生産を行っていた。ペレットのスの原因は混練時の温度が高すぎたためと推定されそれをD社に説明したが、20℃程度は大丈夫、と混練の問題を認めない。そもそもペレットにスが入っていたりDSCに一部分解が進んでいるような兆候が見られても混練温度に疑問を持たないというのはおかしいと思うのだが。
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32年間の材料開発で、セラミックスや金属、高分子材料まで担当し、金属以外の2つの材料分野で日本化学会や写真学会、化学工業協会、印刷学会などから賞を頂ける技術を研究開発成果として出すことができた。学位論文にはセラミックスと高分子材料のプロセシングがまとめられており、審査してくださる大学を探すのに苦労した。その過程で学位取得の裏側事情も知ることになり、学位というものが世間で評価されない理由も理解できた。
30歳を過ぎるまで物事の裏側事情など考えずに純粋に生きてきたが、学位取得の苦労で学問というものにも裏があるという現実に愕然とした。今は年を重ね、世間の多少のことには驚かなくなったが、当時はその裏側事情に接する度に驚きが新鮮な興味に変わっていった。
高分子材料技術にも裏側事情があり、例えば成形技術とコンパウンド技術の関係は面白い。前者の学会に参加し、その技術分野の最終ゴールを質問すると「どのようなコンパウンドでも成形できる技術」という回答が返ってくる。もの凄い理想であると同時にこの学問は永遠に完成しない、だから研究者は食いはぐれは無いだろう。学問として正しいゴールかどうかは知らないが、研究テーマに困らないゴールである。
後者は担当している材料により研究者の答は様々で、新材料を追求するというミッションを答える研究者が多い。高分子には多数の種類があるので組み合わせは無限に近く、こちらもテーマに困ることなく永遠に研究開発を継続できる分野である。
ところでタイヤのような高性能なゴム製品のプロセシングには未だに生産性の悪いバンバリーとロールが混練プロセスで用いられている。しかし、樹脂材料やTPEでは生産性の高い二軸混練機が用いられる。高性能ゴムに生産性の悪い混練プロセスが用いられているのは、そのプロセシングを用いなければ性能を出せないからである。すなわち、この事実は混練プロセスがコンパウンドの性能に大きく関わっている、ということを示している。
退職前の5年間外部の樹脂メーカーと性能の悪い樹脂について何度も議論したが、混練技術に問題は無い、と最初に必ず回答が返ってくる。すなわち樹脂の性能品質がお客様のニーズに合わない原因として混練技術は最初に除外事項とされてしまうのである。純粋な若僧であれば樹脂メーカーの技術者をうっかり信じてしまうが、成形技術を担当した時はその様な年齢ではなかった。
納期が目前に迫っていたあるテーマで、混練プロセスの中古機を買いそろえ3ケ月で生産立ち上げを行う、という離れ業をした。その時には同じ材料メーカーの原料を用いながら混練プロセスを変更しただけで、それまで樹脂メーカーが実現できていなかった性能を簡単に実現できた。
混練プロセスの変更に伴うコンパウンドの価格は、内製化のため原料の価格と設備の固定費で決まる。この時、樹脂メーカ-が混練プロセスを変更したくなかったのはコストへの影響のためだが、わずかなコスト上昇を躊躇したために、お客様の内製化という決断を引き出し市場を失うという結果になった。
混練プロセスの変更は利益を圧迫するので対策として採用したくない、というのが裏事情である。お客は混練プロセスなど知らないから問題ないとごまかせば、それで済む、と安直に考えたのか、その樹脂メーカーの技術レベルが低かったのか知らないが、どんなことがあっても混練プロセスを変更したくない、という裏事情が樹脂技術にはあるようだ。
混練プロセスの変更は多くの場合コスト上昇となるが、この時の内製化技術ではコストへの影響を最小限とする方法で対応した。退職した会社から特許がすでに公開されているが、二軸混練機の先に弁当箱のような装置をつけただけである。ゆえに生産性への影響はほとんど無くコスト上昇は弁当箱の固定費分程度である。この弁当箱のような装置にはゴム技術で学んだ知識が詰められている。この弁当箱に興味のある方は問い合わせください。
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昨日まで中国の華南にある某会社に依頼されコンサルティングをしてきた。日本企業とは取引が無く中国国内の市場で成功している樹脂会社だが、そこで生産されている製品品質は日本の100円ショップのそれよりも劣っていた。しかし、それでも中国国内の市場で成功しているので中国のお客様の品質基準を満たしていることになる。
市場で成功していても経営者はそれなりの問題意識を持ち依頼してきたわけだから、向上心は旺盛である。恐らくこのような企業は指導すれば、1年程度でそこそこの品質を作れる会社になる可能性がある。
問題は、中国市場のお客様の品質感覚である。上海のデパートの樹脂製品は、海外製品が多いので品質がそれなりに見えた。しかし華南の市街にある雑貨店に並ぶ樹脂製品の品質は日本の100円ショップよりも明らかに劣っている。それでいて日本の100円ショップよりも値段の高い製品が存在する。このような市場へ同価格で高品質の製品を投入すれば確実に目立ち、さらに売り上げを伸ばすだろうと思った。
しかし、朝早く帰路の空港の喫茶店でサンドウィッチを頼んだら、待たされたあげくとんでもない見栄えのサンドウィッチが出てきた。食パンの端部(みみ)が使われているのだ。さらに目玉焼きとハムがはさまれているのだが、それが焦げている。炭にまでなっていないが黒焦げだ。店員にクレームをつけたかったが、複雑な中国語を話せない。
100円ショップの樹脂成型品よりも品質の劣る製品が売れる国である。焦げた目玉焼きやハムなど平気なのだろう。さらに食パンのストックが無かったから昨日の残りのみみでサンドウィッチを作ったのは良いアイデアとでも思ったのかもしれない。毎晩接待されたレストランは日本以上のサービスもあり高品質であった。品質のばらつきの大きな国である。このような国で売れていても自社の品質に問題意識を持った社長は優れた経営者だろう。
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東京モーターショー2013で樹脂製ボールベアリングを見つけた。すでにハンドルの部品として実用化され、軽量化とコストダウンに寄与しているそうである。エンジニアリングプラスチックスの用途として過酷な使用環境である。実用化するためには、それなりの信頼性試験が要求されたと思われる。
樹脂は軽量化とコストダウンを実現する手段として自動車部品に使用されていることは知っていたが、金属部品しか使用できそうもない、と思っていたところにも樹脂が入ってきている。かつてセラミックスフィーバーの時に、自動車部品にセラミックスが普及したが、その置き換わったセラミックス部品の幾つかは、また耐熱合金に市場を奪われている。ファッション機能だけで普及した部品はコストダウンの波に勝てないのである。自動車部品の樹脂化は軽量化とコストダウンの2つの目的でどんどん進んでいるようだ。
国内の汎用樹脂事業は、統合に次ぐ統合で苦戦が続き、エンプラ分野も一部はコモディティー化が進み、コスト競争に移ってきている。素材会社は大変だが、部品メーカーは技術力があればそれなりの商売ができているのかもしれない。
ここで技術力とは評価技術である。すなわち自動車分野では軽量化とコストダウンの目的のため、金属から樹脂に置き換える動きは今後も続くが、その時に金属なみの信頼性を樹脂で確保できるかどうかが鍵になり、そのためには信頼性試験をうまくできなければならない。金属材料と同じ評価試験を行うのは当然だが、樹脂の弱点が信頼性に影響を与えていないかどうかを見るための評価技術が重要となる。
この評価技術は樹脂の問題点をよく理解していなければ構築できない。高分子科学についてはアカデミア以上の経験が要求される難しい分野である。評価技術で悩んだら弊社へご相談ください。自動車部品メーカーと精密機器メーカーで高分子材料の開発から評価技術開発まで多くの実績があります。
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モーターショーの一角で「Smart Mobility City 2013」を開催している。未来の自動車社会の提案コーナーだが、新聞等のニュースに登場した事柄以外に目新しい展示物は無い。車が都市と市民を結ぶ、というのがテーマのようだがすでに描いた夢の焼き直しを見ているようだ。
年をとったせいかもしれないが、わくわく感の少ないショーである。車の自動運転が全面に出てきて今後開発されるであろう技術を見せるような展示を期待していたが、特許の問題もあるのか、自動運転に関しては話題の中心になっていない。
自動車好きにはモーターショーは重要な催し物であるが、自動車も巻き込む大きなイノベーションが社会で起きているときには、それがメインテーマになり、各社そのテーマにちなんだ展示があったが、昨日も書いたように今年はそれがよく見えない。車の自動運転は大きなイノベーションのように思うのだが。
その中で燃料電池車の説明に小便小僧を用いて、排出されるのは水だけ、とこの先は説明の必要がないアクションを見せられたのには驚いた。やや***である。かわいい小便小僧ならばまだ良いが、スクリーンも兼ねているので3m以上もある巨大な「小便怪物」である。それが水を排出する前に不気味に目を光らせる。この展示の評価については意見が分かれるかもしれない。
自動車にあまり興味が無い当方にとっては、感動が少ないモーターショーだが、部品メーカーの展示に面白い提案が幾つかあった。例えば西館のデンソーのブースである(注)。電気自動車が普及したときの街の様子を展示し、非接触による給電方式などすでに公開された技術以外に全てが電気自動車となったときに生じる問題のソリューションを提案していた。
詳細は足を運んで見て頂きたいが、車のエネルギー源をガソリンから電気に置き換えたときに充電時間の問題以外に、様々な問題があり、その解決に幾つか細かいインフラが必要になる。それを模型でうまく説明していた。地味な内容だが、この展示を見に行くだけでも勉強になる。さすが自動車部品大手のデンソーである。社会的使命を心得ている。
車好きならスバルのブースが面白い。新車レヴォーグのデザインとそのスペックを見るとすぐに買いたくなるかもしれない。また、エクシーガはクロスオーバーSUVとして置き換わる。そのデザインが運転したくなるかっこよさだ。昔スバルのデザインや内装は今ひとつだったが、最近のスバルは別会社のようだ。
(注)デンソーは東館にもブースを構えている。
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弊社は電子出版社として東京モーターショーのプレス発表に参加した。プレス発表初日は布をかぶっている新車も多い。それぞれプレス発表の時間になるまで隠されているのだ。
かつてセラミックスフィーバーの時には、あらゆるメーカーがこぞってセラミックス部品を展示し先進性をアピールしていた。いすゞ自動車は、セラミックスエンジンを搭載し公道を世界で初めて走行したセラミックスアスカを展示していた。環境問題が話題になったときには、環境対応が各社の目玉になっていた。
今年は、統一テーマになるような話題がなく、メーカーによりアピールポイントが異なるが、自動車に移動手段以外の付加価値をつけたことや、日本車ではターボチャージャーによる燃費改善や、気筒数を減らして燃費改善を行ったりした欧州車と同じような燃費改善技術の発表があった。ハイブリッド車一色のトヨタのレクサスにもターボ車が登場した。自動走行の話題を期待して参加したのだが自動走行については、大きなテーマにはなっていない。
恐らく未来も自動車は移動手段の道具として活用され、無くなることはないだろう。だから移動手段以外の付加価値の提案、というのは納得できるが、各社アイデアが陳腐である。思わず吹き出しそうになったのは、トヨタ自動車の運転者と自動車が対話をしている映像。助手席には誰も乗っていない。
確かに独身者が増えているので、一人で車を運転する人が増えるだろう。しかしその寂しさを解消するために車との対話というのはあまりにも悲しい未来のような気がする。お友達のような車というのは人口減少や高齢化、独身の増加という社会現象を考えたときに時代の流れに沿った提案であるが、何か寂しくそして笑える複雑な提案だ。
10年以上前には家族の時代、というメッセージを発信していたメーカーがあり、家族のために車を中心に楽しさを提案していた。これにはほほえましさがあったが、一人で運転し、車と対話を行っている映像には、未来に対する夢というよりも暗さがある。助手席にパートナーを乗せて欲しかった。
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ポリアセチレンが発見されるまで、有機半導体の研究は、どこまで導電性が上がるのかが興味の関心だった。「有機半導体」という教科書を購入して間もなくポリアセチレン発見のニュースを聞き、高価な教科書がゴミになった悲しい思い出がある。
ホスファゼン導電体の研究は、プロトン導電体として企画された。大学院の修了式を終えた後、残務整理として10日ほどでまとめた。導電体以外に数種類新規のホスファゼン誘導体を合成して楽しんだ。大学の研究生活が楽しくて上京するまで実験していた。
ポリアセチレンが発見された後だったので、研究の価値はほとんど無かったが、これが電気粘性流体用絶縁オイルの設計やLiイオン電池の電解質用難燃剤へのアイデアにつながってゆく。この経験から研究というものが時代の流れで大きな価値を失ったとしても納得のゆくまでまとめる必要がある、と学んだ。指導してくださった先生に感謝している。
会社を退職して満足な研究環境ではないが、会社で十分にやりきれなかったことについて見直しを進めている。セラミックスから有機高分子まで、タイヤや防振ゴムからSiC半導体や感光体、電子情報機器まで様々な材料や商品の開発を経験した。大学では体験できないことである。企業の研究開発の面白さでもある。
ホスファゼン導電体同様に今では研究開発テーマとして価値の無いものもあるが、少しずつまとめてみると、面白いことにそこから未来が見えてくるのである。これは経験者で無ければ理解できないことかもしれないが、一生懸命開発していたときには気がつかなかった技術の新しい応用方法が見えてくるのである。温故知新という言葉が好きだが不易流行という言葉が合っているのかもしれない。
技術の営みには不易のものがあり、それが新しい技術を生み出す原動力になるのであろう。ホスファゼン導電体を導電体として見ている限りでは、不易はわからない。しかし、PN環の特殊性は不易のものである。その特殊性は時代のニーズの流れの中で新しい発見も加わりいつの時代にも新素材として生まれ変わる原動力になっている。技術も製品化ではそれが具体化された姿しか見えないが、それを概念として眺めなおすと新しい機能を生み出す手段に見えてくる。
本欄ではサラリーマン生活32年間の研究開発生活を中心に書いているが、見えてきた未来について別途HPを立ち上げ未来技術をまとめる企画を検討中。
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「事故が起こるはずがない施設だった」と社長が謝罪したという。「20年間この作業をしているが事故が起こったことはない。なぜ起きたのかと思う」とも。事故は廃油から不純物を取り除く工程で起きたという。
事故原因はまだ明らかにされていないが、可燃性の油を使用しているならば100%事故が起きない、という保証を誰もできない。冒頭の社長の言葉は、福島原発の教訓を学んでいない発言である。
ゴム会社に入社し1年目に、実験室のオートクレーブの爆発事故を目撃したため、32年間研究開発に携わり、一番気をつけてきたことは安全対策である。オートクレーブの事故はもの凄い音だった。幸い安全対策が十分されていたので、操作していた女性は腰を抜かした程度だったが、恐怖感から同一業務を担当できなくなった。
事故原因は不明だった。ただ、圧力がかかりすぎたときに開くはずの安全弁にはゴムが詰まっていた。それが事故で詰まったのか、以前から詰まっていて機能しなかったために爆発したのか納入業者立ち会いのもと調査を進めても解明できなかった。
オートクレーブ中の反応はラジカル反応であり、その制御がうまくゆかなかった時には、爆発する。しかし、責任者は制御した反応条件なのでその可能性は無い、ときっぱり否定したために原因不明となった。ただ、化学をご存じの方は気がつかれたと思われるが、ラジカル反応が暴走したときにはもう手の施しようが無い。ゆえにそのような反応を扱う装置では、二重三重の安全対策が取られなければならない。オートクレーブの爆発事故では、三重の安全対策がとられていたので、音が外に漏れただけで大事故に至らなかった。
福島原発では安全対策が不十分だった上に、補助電源車のコネクターが合わない、とか温度センサーの電源が外れていたとか、工場の配管を詳しく知らない技術陣とかお粗末な事態が重なり、現在制御された状態になっていても怪しい事故(注1)が起きている。
事故は起きるものである、あるいは人間はミスをするものである、という前提に立った安全対策がされない限り、事故を防ぐことはできない(注2)。すなわち事故が起きても周囲に影響を及ぼすような大惨事に至らない安全対策が本当の安全対策である。
ちなみに使用済みの天ぷら油でも自然発火する危険性があることは主婦でも知っている知識である。油の中にラジカルを発生しやすい過酸化物ができるためで、昔は天ぷら油を何度も使用したので、それが原因の火災が何件か毎年起きていた、と聞いている。今回の火災原因の解明はこれからだが、可燃性の油を取り扱い、事故が起こるはずがない、と考えるのは危険である。事故は起きるものである、という前提が重要で、安全な作業職場でも必ずKYTは行われている。
(注1)例えば汚染水のタンクを傾斜した土地に設置し、高いタンクから低いところのタンクまで連通管でつなぎ、一番高いタンクだけに1本水位センサーを設置した汚染水漏れ事故は、どのように理解すれば良いのだろうか?汚染水を貯める前に、一番低いタンクから水漏れを起こすであろうことは、高校の物理レベルの知識ですぐに気がつくはずだ。
(注2)ボーイング787の二次電池の事故では、電解質は炭化して外に飛び出したが、飛行機には影響を与えていない。GSユアサの技術の賜物であるが、それでもその後さらに二重三重の安全対策に取り組んだと言うから凄い。確かにその後事故は発生していない。
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昨日高分子同友会講演会で表題の講演を拝聴した。経済産業省化学課長茂木正氏が化学産業の現状と未来についてまとめられた成果の講演である。現状分析についてうまくまとめられており知識の整理に役立った。
このようなうまくまとめられた講演を伺うと、見落としていたところなどが改めてクリアになる。ただ講演者の立場から原発について踏み込んだ内容は当然語られていない。3.11前後で原発政策の見直しが必要になった、という程度である。実は3.11前後で変わったことは多数あり、3.11がサラリーマン最後の日であった当方は身に染みて感じている。
小泉氏が脱原発を叫び始めたが、将来の脱原発についてはもう国民の総意ではないだろうか。原発が一度事故を起こせば経済的な損失は計り知れなく、最終処分場の話も含め本当はエネルギー価格が大きな発電方法ではないかと国民は疑っている。ただ、今どうするか、これが議論の分かれるところで、こわごわ脱原発を達成できるまで原発を使うのか、第二の福島が発生したら日本は終わり、と考え原発をやめるのは「今でしょ」、という判断が難しい。
しかし、この難しい判断について国会で決められるように明快な指針となる情報を経産省は出すべきと思っている。すくなくともこの判断ができる情報だけでも経産省はまとめる義務がある。
化学産業を巡る状況は現在厳しさを増すばかりであるが、経産省がエネルギー自給自足政策の可能性について打ち出せば新しい産業が動き出す下地ができはじめている。すなわちエネルギー自給自足に役立つ産業に対して将来投資を国が行えば、化学産業にもその波及効果が及ぶ。なぜならエネルギー自給自足を推進するためには化学産業が中心にならなくてはいけないからである。
仮にこの4-5年発電コストが急激に上昇したとしても20年先にはそのコストが回収される。しかし、民間ではそのような息の長い投資は不可能で国のレベルでやるべきである。今までの産業は原料を海外から輸入して発電し、その発電エネルギーで付加価値を出した製品を作り輸出するのが20年前まで資源の無い日本の有効な戦術であった。付加価値を出した製品を輸出する戦略そのものは今でも有効で、ただ化学産業はその戦略の中で高度成長期に損な役割に置かれていただけである。
これは、アッセンブリー企業における材料屋は下請けとなり良い処遇を受けられないという経験から出てきた視点である。例えばPPSと6ナイロンを相容させる技術を開発しても評価されず、それを複写機の部材である中間転写ベルトに仕上げて初めて成果として認められる状況は化学産業とよく似ている。
化学産業は素材産業から部材産業へ転換する機能性化学の道をこの20年歩いてきたが、ここへさらに国がエネルギー自給自足政策という方針で投資すれば、化学産業も大きく発展する。エネルギー自給自足が可能か不可能かという議論は無意味で、それを実現しなければ島国日本は生き残れない、と考えている。またそれができる環境と技術の下地がこの2年半の間にできてきたのである。3.11を不幸な出来事のまま終わらせるのではなく、日本のエネルギー政策を大きく舵きるきっかけとして位置づけ、その後の日本が幸せになる、というシナリオを作れるのは経産省である。
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井端選手の話題が連日報道されている。野球には余り興味はないが、中日球団の功労者という表現や8ケ月前はWBCのヒーローとか書かれているので相当の大物選手だったのだろう。前年度の年俸も1億9000万円だった、という数値を見ても中日に不可欠な選手だったことが伺われる。
それが3000万円の年俸提示を受けたので退団する事態になった。落合GMは、「戦力外の選手には金額提示をしない。」と、あたかも中日は慰留に努めた姿を世間に示している。これは大物選手やドラフト1位の選手を軽々しく扱うような球団に見られたくない、という言い訳だろう。落合GMならば言い訳をしないと思っていたら、インタビューを聞く限り何か歯切れが悪い。
本当は辞めて欲しくないのだが契約金を3000万円まで下げたいという事情があるならば、それなりの説明をすれば井端選手も大人げない退団行動を取らなかっただろう。スポーツ紙の記事を見る限り両者にマイナスである。WEBには元高木監督が井端選手を叱っている写真まで掲載されている。このドタバタ劇は、ファンあってのプロ野球という現実を無視している。
プロの世界は厳しい。しかし、その厳しさの中にも夢が欲しい。当方も転職や早期退職を行い、組織から退職を促される前に自ら退く道を選んできた。しかし、転職ではセラミックス開発のキャリアでありながら高分子材料開発の業務を選択し、早期退職では起業を理由にして、すべて円満に収まるように配慮し自ら退く道を選んできた。江端選手も退団の仕方があったのではないか。
いかにも中日は功労者でも冷たく扱う球団、というイメージを社会に発信する辞め方である。一方で落合GMは慰留したが意見を聞いてもらえなかった、という発言をして冷たく扱っていないような弁解をするのでそれがますますクローズアップされる。ここではどのような弁解をしても中日というチームのイメージは向上しない。すでに井端選手が背を向けるような辞め方をしているからである。日本人は判官贔屓なので辞めた方に味方する。
今、社会は成果主義で功労者だろうがなんだろうが組織の都合で追い出される時代である。その一方で、組織が個人に礼節を尽くす出来事を稀に見かける。また逆に公共性の高い組織から追い出されても仕方がない人が庶民感覚からほど遠い退職金をもらって厚遇され退職する記事がニュースになっていたりする。前者はほっとして忘れてしまうが、後者は日本社会の問題としていつまでも記憶しているものである。だから前者のような事例が多くなると勤労意欲が沸く社会になるが、後者のような事例が一つ二つあると社会から夢や希望が萎んでしまう。
プロスポーツの世界は庶民に夢を与えることで成り立っているのである。マイナスイメージを社会に発信するような運営は謹むべきであり、スポーツ選手にもその自覚が求められる。サラリーマンにとって夢のような金額を稼いでいる職業という自覚が欲しい。3000万円の年俸で腐った姿を見せられるサラリーマンは、やりきれない気持ちになる。一方年俸が下がっても笑顔の山本昌投手がさわやかに見える。また巨人の谷は「功労者」として配慮され古巣オリックスに戻るという。本音はどうであれ、社会資本が多く投入されるようになってきたので、スポーツの社会に果たす役割をわきまえた行動がスポーツ選手に求められている時代である。退くときの美学を学んで欲しい。
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