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2012.09/29 高純度SiC前駆体の発明

硼酸エステル変性ウレタンフォーム(1)は、燃焼時にアモルファスボロンホスフェートを生成し、高分子の難燃化を行うコンセプトで開発しましたが、合成された高分子は、高純度ボロンホスフェートの前駆体高分子とみなすこともできます。

 

1980年頃通産省主導でセラミックスガスタービンを開発目標にしたムーンライト計画というプロジェクトがスタートし、セラミックスフィーバーが始まりました。ファインセラミックスの製造プロセスとして、金属アルコキシドを用いるゾルゲル法は注目を集めておりました。セラミックスは高温でも安定なので、高純度のファインセラミックスを得るためにセラミックスを合成してから高純度化するよりも、原料段階で高純度化できるゾルゲル法が有利だからです。しかし、アルコキシドの安定性や反応バランスから、合成できるセラミックスが制限されておりました。高分子マトリックス中にセラミックスの成分を固定化したゾルゲル法であれば、原料のアルコキシドの制約が無くなります。

 

硼酸エステル変性ウレタンフォームの開発が完了した時に、フェノール樹脂発泡体開発プロジェクトが社内にできました。フェノール樹脂は耐熱性が高い樹脂ですが、当時のフェノール樹脂で発泡体を製造すると難燃性が低下する問題がありました。しかしフェノール樹脂は、燃焼時に炭化物を多く生成する樹脂ですので、リン酸エステル系難燃剤が無くとも難燃性向上ができるのではないかと推定し、硼酸エステル変性ポリウレタンフォームのコンセプトを見直し、シリカゾルだけで難燃性向上を狙ってみました。見事的中し、LOIの向上とJIS規格準不燃レベルも低密度フェノール樹脂発泡体で合格することができました(2)。このフェノール樹脂とシリカゾルの複合材料は、窒素中800℃で炭化(蒸し焼き)しますと、高純度のシリカ(SiO2)と炭素(C)の均一に混合された材料になり、さらに1600℃以上の高温度で反応させますと、高純度SiCが合成されます。すなわち、シリカゾルで難燃性を向上させましたフェノール樹脂発泡体は、高純度SiCの前駆体高分子でもあるのです。

 

1990年代に有機無機ハイブリッドの研究報告が活発化しますが、1980年代に高分子前駆体からセラミックスを合成する研究は、ノーベル賞が噂された故矢島先生のポリジメチルシランのご研究が存在したぐらいで、2種以上の高分子を均一混合し、セラミックス前駆体に用いる研究報告はありませんでした。ホームランを狙い、フェノール樹脂とシリカゾルのハイブリッドポリマーの研究をフェノール樹脂発泡体開発の傍ら続けました。

 

難燃性を向上させたフェノール樹脂発泡体は某大手建築会社の天井材に採用されますが、この天井材開発は成功しても、いろいろなマネジメント上の障害が多数発生し、開発プロジェクトの活動は精神的苦労が大きかったので、良い思い出になっていません。ただ、プロジェクト活動中はストレスの多い毎日でしたので、時間外のテニスを有機無機ハイブリッドポリマーの研究に切り替えて、気分転換し楽しんでおりました。

 

天井材用に開発されたフェノール樹脂とシリカゾルのハイブリッドポリマーでもナノレベルの複合化を達成していました。さらに難易度が高い分子レベルの複合化をめざして、シリカゾルのかわりに、水ガラス(ケイ酸ソーダ)から抽出したケイ酸ポリマーとフェノール樹脂のリアクティブブレンドを研究していましたが、中間処理にジオキサンやTHFを用いますので作業環境の問題を抱えておりました。この研究は、フェノール樹脂とポリエチルシリケート(TEOSなど)とのリアクティブブレンド及びそれを用いた高純度SiCの発明(3)(4)へ発展しますが、難燃剤の研究が、ファインセラミックスフィーバーの影響を受け、ゴム会社の事業とは無関係の新しいアイデアを生み出す原動力になっておりました。

 

この時の思考過程は、コンセプト重視の考え方に思考実験を組み合わせたプロセスでしたが、ソフトウェアー工学のオブジェクト指向やエージェント指向の勉強もしておりましたので逆向きの推論の有効性に着目し始めておりました。「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」や「問題は「結論」から考えろ!セミナー」では、若い時にどのようにアイデアが浮かびそれを実現してきたのか、その方法をまとめています。是非ご一読ください。

 

 

 

<参考文献>

1.特開昭58-1366158

2.特開昭59-100144

3.特開昭60-226406

4.特開昭61-132509(特公平6-2565)

 

カテゴリー : 宣伝 電気/電子材料

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