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2012.10/06 SiC(6H)の線膨張率測定

1983年4月1日から無機材質研究所の生活が始まりました。最初に担当しました研究テーマは、1000℃以上の高温度におけるセラミックス単結晶の線膨張率を計測する仕事です。四軸型自動回折計に取り付けたSiC(6H)単結晶をレーザーで加熱し1000℃以上に温め、各温度における回折パターンから、結晶格子定数を求め、各方位別に線膨張率を計測するのです。

 

ところが計測装置はできあがっていたのですが、1000℃以上の高温度で単結晶を固定する方法が見つかっていなかったのです。線膨張率を計測するためには、単結晶を炭素棒に接着する方法を開発しなければなりません。しかしこの方法のアイデアは、「問題は「結論」から考えろ!セミナー」や「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(注)でも紹介している新しい問題解決法ですぐに答えが見つかり、計測することができました。

 

1000℃から2100℃まで6点の温度でx線回折パターンを計測し、格子定数の変化から線膨張率を求めましたところ、a軸方向は4.94x10(-6乗)で、c軸方向は、4.41x10(-6乗)であることがわかり、線膨張率に異方性があり、その差は10%近くにもなることが分かりました。

 

SiCは2000℃前後の温度で焼結させて成形体を製造します。室温では、結晶の異方性による歪みが内在し、何らかのストレスでマイクロ亀裂を誘発する可能性があります。すなわちSiC(6H)の焼結体の靱性が低い原因の一つに、この結晶の異方性の問題も考えなくてはなりません。少しでも歪みを小さくする努力として、結晶をランダムに配向し、可能な限り粗大粒子化しないように焼結条件を制御する必要があります。

 

SiC(6H)単結晶に異方性の存在することは、分子模型を作ってみれば理解できます。ゆえに線膨張率にも異方性が出ることは、測定をしなくても予想できます。しかし、自然科学の世界では、仮説を検証するために、このように当たり前と思われることでも実データを計測し、仮説の正しさを確認する作業が重要です。無駄な作業に見えましても、実データでサポートされた理論と、そうではない理論では信頼度が異なります。

 

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カテゴリー : 電気/電子材料

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