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2012.10/08 超高温熱重量天秤

加熱しながら物質の重量変化をモニターする分析装置を熱重量天秤あるいは熱天秤(TGA)と言います。TGAでは、一定速度で昇温しながら物質の重量減少を測定したり、一定温度における物質の重量減少を測定したりできる。また、コンピューター制御できるTGAであれば、この両者を組み合わせた複雑な温度パターンにおける重量減少を測定することも可能となる。

 

物質は高い温度に曝せば分解する。その分解速度を計測することで物質が高温度でどのような変化をしているのか推定することが可能である。熱分解で発生してくる物質までモニターできれば便利で、そのようなTGAも開発されている。例えば炭素と二酸化珪素(シリカあるいは石英などで、以下シリカで代用)を用いて還元反応を1600℃以上で行いSiCを合成するシリカ還元法では、固相反応だけで進行するならばCOガスを発生しSiC化する。しかし、固相反応以外に気相反応も経由すると、COガス以外にSiOガスも発生する。すなわち、シリカ還元法で重量減少をモニタリングすることにより、発生ガスがCOだけなのかSiOガスの発生もあるのか、など重量減少から予測でき、さらにその反応速度を解析することにより、反応機構までわかる。

 

反応機構を調べ論じるだけならば、これは科学の研究であり、りっぱな学位論文となる。しかし、この研究結果は技術開発において次の2点で重要な意味を持つ。一つは、SiC化の反応を高分子前駆体を用いたならば固相反応だけでSiC化できる、ということと、もう一つは、SiC化の反応機構が反応温度でどのように変化するのか、という2点を明らかにできる。

 

当時報告されていたシリカ還元法の反応機構は、気相反応経由と気相反応と固相反応の両方を経由する反応が知られており、固相反応だけでSiC化の反応が進行する系は知られていなかった。気相反応を伴うので、還元剤である炭素をシリカ還元法では大過剰に用いる必要があり、SiC合成後炭素を燃焼により除去する必要があった。その結果SiCの一部が酸化され、シリカ不純物として生成物に含まれていた。また、SiOガスがSiC内部に閉じ込められる場合も報告されており、シリカ還元法では酸素不純物を完全に取り除くことができない、とされていた。

 

もしSiC化の反応が有機物の反応のように、均一相で単純な反応で進行したならば、酸素不純物までも残らない100%高純度のSiCを合成できるはずである。すなわち均一固相反応でSiC化できる前駆体を発明できれば、半導体分野に使用可能な100%純度のSiCを大量合成できるプロセスを開発できる。また、この均一固相反応で進行する温度領域が明確になれば、プロセス設計も容易になり、そのロバストネスも予想できる。

 

すなわち、SiC化の反応機構を調べる研究は、科学の研究であると同時に技術開発にも重要な研究で、もし数ミリグラムの試料でプラント建設の情報が得られるならば、数千万円かけてでも実施する価値のある研究である。もし高分子前駆体を用いる反応が均一固相反応で進行する系であることが証明されれば、高純度SiC合成プロセスの本命であることもわかり、事業の未来も明るくなる。無機材質研究所へ留学する前にTGAについて調査しましたが、SiC化の反応をモニター可能なTGAは市販されていませんでした。しかし赤外線イメージ炉が微小領域ならば2000℃前後まで加熱可能な熱源として知られていました。超高温熱重量天秤の開発は、逆向きの推論(1)から導き出された企画です。

 

<参考情報>

(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。

 

 

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カテゴリー : 高分子

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