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2013.02/17 弊社の問題解決法について<31>

2012年10月21日の夜、たまたまテレビのスイッチをいれましたところ、地上波のNHKで、今年ノーベル賞を受賞した山中博士のiPS細胞を発明した研究プロセスについて、実験結果のファイルを見せながら解説をしていました。その資料は特許出願をしていた内容とも関係するという理由で、これまで未公開だったとの説明がありました。他の番組を見るつもりでしたが、チャンネルを回すのを忘れ、わくわくしながら話を聞きました。

 

iPS細胞というのはinduced Pluripotent Stem cellの略で、日本語にすると「人工多能性幹細胞」と訳され、通称「万能細胞」とよばれており、体中のあらゆる細胞に変化できる能力を持った細胞のことです。同様の細胞として、ES細胞と呼ばれる万能細胞が先に発明されていました。しかし、こちらは受精卵を用いる必要があり、研究を進める上で倫理上の問題がありました。iPS細胞の技術では、大人の細胞から万能細胞を作ることができますので、倫理上の問題を克服できます。さらに、自分の細胞を用いて体外で人工臓器を作ることが可能になるので免疫拒絶問題も解決されます。このような理由からiPS細胞は、再生医療の分野で画期的技術と言われております。

 

山中博士が研究に着手しました時に、遺伝子がどのように機能してあらゆる細胞に変化できる細胞を作るのか、すなわち受精卵のような初期状態に細胞をどのようにリセットするのかまったく解明されていない状態でした。ゆえに山中博士が最初に行わなければならない研究は、一つ一つ遺伝子を細胞に組み込み、細胞を初期状態にリセットできるのかを調べる作業が中心になります。そしてどのような遺伝子を細胞に組み込めば、うまく機能してiPS細胞となるのかを明らかにすることが、研究のゴールとなります。

 

ところで、マウスやヒトの遺伝子の数は全部で約3万個あると言われており、研究の内容を単純に表現すれば「iPS細胞を生成する機能を持つ遺伝子は3万個の遺伝子のどれか」という問題になりますので、まともに科学的に取り組むならば天文学的な仕事量になります。

 

しかし、山中博士は、理化学研究所が2001年から無料提供を始めたマウスの遺伝子データベースと、それまでの博士の研究経験を基にした知見とを活用し、iPS細胞を生成する機能を持つと予想される遺伝子を二十四個まで絞り込み、遺伝子探索実験を短期間にできる範囲の仕事量にしました。すなわち、答となるiPS細胞を作る遺伝子をとりあえず二十四個と決めたのです。

 

経験知だけで3万個から大胆に二十四個に絞り込む過程や、その後iPS細胞を作る遺伝子の探索作業に移る過程も詳しい説明を聞きたいと思いましたが、それらと同じくらいテレビ解説の中で興味深かったのは、遺伝子を細胞に組み込み、iPS細胞になるかどうかを確認する実験の進め方です。

 

この選ばれた二十四個の遺伝子について、まず1つ1つそれぞれの機能を確認する実験を行うと同時に、選ばれた二十四個の遺伝子すべてをまとめて細胞に入れる大胆な思いつき実験を行っています。そして、1つ1つの遺伝子について科学的プロセスで確認した結果では、期待された現象が観察されなかったのですが、驚くべきことに大胆な思いつきで行った実験で、細胞が初期状態にリセットされたのです。この実験結果から、今度は23個の遺伝子の組を用いる巧みな実験を進め、たった1ケ月でiPS細胞発見にたどりつきました。

カテゴリー : 連載

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