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2013.02/19 弊社の問題解決法について<33>

このような独特な問題解決プロセスでiPS細胞を発明できたわけですが、データベースを基に約三万個の遺伝子から二十四個に絞り込む過程において、絞り込む条件の妥当性を実験で確認せず、経験知だけを用いています。また、遺伝子間で働く作用などが不明の段階で、二十四個の遺伝子をすべて細胞に組み込む実験を行ったり、科学的に解明されていない実験結果を活用し、消去法的手順で四個の遺伝子を見出したり、など科学者の研究手順として見た時に、いくつか疑問点が出てきます。このあたりを少し考えてみます。

 

まず、約三万個の中からデータベースを基に研究対象を絞り込むプロセスでは、例えばiPS細胞はこうすればできるという仮説を設定し、その仮説の正しさを証明する実験、もしくは過去の研究結果を揃え検証し、絞り込む条件や手順の科学的妥当性を示して研究を進めるのが一般的な科学的手順です。

 

しかし、当時まだiPS細胞を作った人がいませんから、iPS細胞を生成する遺伝子を絞り込む科学的作業とは、約三万個の遺伝子について実験を行い、その機能や遺伝子間で働く作用を調べる実験をしなければいけません。ところが山中博士は、約三万個の遺伝子を対象にこのような実験を行っていません。ゆえにデータベースから遺伝子を絞り込む作業は、科学的プロセスとして不完全です。科学的プロセスではなく、自らの意志で「答えを決めた」プロセスと本書で説明している理由でもあります。

 

次に、データベースから絞り込まれた二十四個の遺伝子について、一つ一つ細胞に組み込みiPS細胞ができないことを確認したプロセスでは、遺伝子一つ一つの実験結果で何も変化が起きていないことが示されていますので、この実験結果から導き出される「単独で細胞に組み込んだ時に、二十四個の遺伝子の中にiPS細胞を作る遺伝子は存在しない」という結論は、科学的に完璧です。

 

しかし、同時に行った二十四個の遺伝子すべてを細胞に組み込みiPS細胞生成に成功した実験では、二十四個の遺伝子の細胞内における働きについて科学的に確認していません。そのため、それぞれの遺伝子の作用が不明であり何が起きるのか仮説を立てられないだけでなく、実験結果を科学的に説明できないので、科学的に正しいプロセスと言えません。 

 

ただ、この実験に成功した時に得られる、「大人の細胞でiPS細胞ができた。」、という実験結果は科学的に価値があります。すなわち、iPS細胞を発見するまでのプロセスは科学的とは言えませんが、世の中に存在しなかった大人の細胞の初期化手段が、それを発見した方法で繰り返し再現することができますので、科学的に大きな価値があります。山中博士もテレビ番組の中で説明されていたように、答の正しさを確信したプロセスです。

 

iPS細胞発見に至るプロセスが科学的ではなく、運が作用したといわれる点についてもう少し考えてみます。仮に経験知で絞り込み、答と決めた二十四個の遺伝子の組み合わせの中に、iPS細胞を作る機能を持った四個の遺伝子の組と、何らかの作用を起こし負の効果を示す遺伝子が不運にも含まれていたならば、その遺伝子により四個の遺伝子が持つ機能が阻害され、大胆な実験も失敗に終わっていた可能性があります。ちなみに遺伝子間の組み合わせで働くこのような作用は交互作用と呼ばれています。

 

他の因子の作用により本来の因子の機能が隠れたり抑えられたりするのが交互作用あるいは交互効果と呼ばれている現象ですが、ある機能を制御するために使用する因子と交互作用をする因子が同時に存在すると両者のバランスを制御することが難しくなります。自然界にはこのような交互作用で生じる現象が多数存在しています。

 

このようなことを考慮しますと、注意深く科学的に行った実験からは成果が得られず、二十四個の遺伝子すべてを細胞に入れた大胆な実験でiPS細胞の兆候が現れたのは、幸運以外の何物でもないことがわかります。

 

                                 <明日へ続く>

カテゴリー : 連載

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