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2013.07/17 科学と技術(リアクティブブレンド5)

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドで均一なポリマーアロイを製造しようと試行錯誤している姿は、科学者から見ると何をやっているのか分からない作業に見えるらしい。

 

試行錯誤ではあるが、ゴールは透明な樹脂が得られること、と明確であり、必ず到達できる事が分かっている。技術的に必ず到達できることが分かっているならば、何も考えず、全ての組み合わせを実施した方が研究を行うよりも早くゴ-ルにたどり着ける。ノーベル賞の山中博士も同じように考え手元の20個前後の遺伝子を細胞に一度に組み込みヤマナカファクターを発見したのだから、これはバカな考え方ではなく要領の良い方法である。弊社の問題解決法の着眼点の一つにもこの視点が入っている。

 

有機無機ハイブリッド前駆体を用いた高純度SiC合成法として学会で初めて報告したときに会場は満員で廊下まで人があふれていた。一番前の席にはS教授の講座の方々が陣取っておられた。7分の短い発表の後、その最前列から厳しい質問が飛んできた。

 

学会で技術発表は受け入れられないのではないか、と迷って発表したのであったが、学位を取るために学会報告が必要だったので、学位でまとめる速度論の研究の前段階の研究報告として発表した。しかしその結果は散々だった。すなわち高分子前駆体を用いてシリカとカーボンが分子レベルで均一に混合された結果、均一固相反応の解析ができるようになり、シリカ還元法の反応機構が明らかになる、と報告したのだが、議論は高分子前駆体の話に集中したのだ。

 

日本化学会なので反応速度論の研究発表でも良いかと思っていたが、高分子前駆体が本当にできているのか、という失礼な質問が飛んできた。技術という行為を理解していない質問で、さらに速度論の研究そのものまで否定されたので、以後このテーマについて日本化学会での発表は控えた。

 

学会に企業からの研究発表が少ないのは当時からも問題であったが、その原因の一つにこのような無思慮な議論の仕方もあると思う。このような無思慮な議論を展開されたら誰も技術発表などしなくなる。技術開発の中にも新しい現象の発見があるので学会発表を活発に行えるようにすることは大切なことであるが、実際はこのような状況だ。

 

7分間という短時間の発表であった。議論は、テーマの中心に絞るべきで、あげ足取りのような議論をすべきではない。今でも当時の挫折感はトラウマとして残っており、この時の経験は科学と技術の違いを強く意識するきっかけともなった。科学と技術は車の両輪であり、とよくたとえられるが、25年ほど前の学会発表の光景は、科学が技術の足を引っ張るようなお粗末な議論だった。

 

科学が技術をリードしている、とよく言われるが、技術の世界でも科学的な発見が多く成されているのである。学会報告はアカデミアだけでなく企業からも積極的に行われる状態が理想である。この理想を目指している研究会も存在するので企業参加の少ない学会はそれなりの変革努力が必要だと思う。

 

これは座長の努力だけでも改善できる。アカデミアは真理を追究することが目的なので厳しい議論は当たり前である。しかし新しい機能を実現した技術発表であれば、そこに新しい研究テーマが生まれているはずで、アカデミアはそれを褒め称えることが学会の場では自然の流れだと思う。この技術は、苦い思い出から15年以上過ぎてから日本化学会賞を受賞したが複雑な思いがある。

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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