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2013.07/22 科学と技術(1)

科学的方法については小学校の算数に始まり、高校を卒業するまで全員がトレーニングを受ける。理系の大学に進学すれば科学的方法をさらに専門として4年間学ぶ。しかし、技術については会社に入り、技術開発を担当するか製造現場に配属されて初めて学ぶことになる。

 

会社の方針で大学の研究室と同じくらいに科学的な姿勢を大切にしているところもある。一方でメーカーでありながら、若い技術担当者にマネージャー指向の指導をしている会社も有り、次の配属先は、と尋ねると企画をやりたい、という答えが返ってくるような状態をかつて体験したこともある。このような専門の技術者を育成しない会社でも、製造現場では技術が生きているので何らかの形で技術を学べる。すなわち、現在の日本では、メーカーは技術を学ぶための場所である。

 

科学は知識としてその内容、方法論を伝承できる。論理的に曖昧な事柄は科学の教科書には書かれないので、一応誰でも教科書からその時代の標準的な水準の科学を学べるようになっている。だから科学はこれだけ急速に発展することができた。またそれに支えられて技術も科学技術として急速に発展することができた。

 

しかし、技術の中には科学技術と呼べないカテゴリーの技術が存在する。例えば加硫ゴムの世界はその典型例だと思う。いまだに数多くのノウハウがゴム工業の参入障壁として存在する。界面活性剤にしても高度な応用技術が必要な領域になってくると、科学的方法では対応できず、非科学的な方法で最適化する作業が求められる場合がある。例えば体験談で紹介した電気粘性流体の耐久性向上技術やリアクティブブレンドを自由自在に使いこなす時にも非科学的世界が存在する。このような世界はその伝承が難しく、それなりの対策を行わなければやがては企業の中から技術が消えてゆく運命をたどる。

 

企業から消滅した技術の例として酸化スズゾルを用いた帯電防止層がある。「写真工業と静電気」という社内の古い技術資料が出てきても、科学的に読み解けない部分が存在した。学力の問題ではなく、日本語で書かれた技術の説明を理解できないのだ。どのように実現したのか大切なところが書かれていない。その機能を実現した技術が存在することを前提にした説明が絵とともにされていた。恐らく言葉による説明が難しかったのだろう。このように理解できない技術ではあるが、カラーフィルム事業をやめるまでその技術を搭載した商品は残っていた。

 

残念ながらシミが多く臭い本だったので図書室に置いたままにしていたが、今ではその本は図書室ごと無くなっている(リストラが行われていたときであり気がついたときには図書室までも無くなっていた。)。パーコレーション転移の制御をコンセプトにした帯電防止技術でその部分を置き換えたのだが、昔の技術では異なるコンセプトで商品に必要な帯電防止機能を実現していたように思われる。

 

悔しい思いをしたのは、退職前カラー電子写真用部材を担当した時で、ある部材の問題で昔の技術を理解できておれば早期に解決できた可能性があると感じたことである。問題解決してできあがった姿は同一だった。しかし機能を実現した技術まで同じかどうか不明である。

 

カテゴリー : 一般

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