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2013.07/23 科学と技術(2)

スクラップアンドビルドで新しい技術開発を促進する、という考え方がある。ゴム会社で6年間一人で高純度SiCの技術開発を担当していた時に、半年ほど上司になった主任研究員が言われた言葉である。

 

その方は当時ポリアニリンLiイオン二次電池の開発を担当しており、そのパイロットプラント建設のためファインセラミックスの研究施設を全部廃棄して場所をあけるように、と指示してきた。当方も電池の開発を一部担当していたので、協力しなければならない立場にあった。しかし、ここで設備をすべて廃棄したら何も残らない、と説明し、セラミックス研究棟を明け渡さなかった。この時の勇気は新入社員の研修時に社長から伺った話が役にたった。

 

その後一担当者の意見が通った結末となり、セラミックスの研究施設を廃棄せよ、という指示が全社方針ではないことを理解できた。しかしこの主任研究員の指示は少し乱暴である。また、その後事業を辞めてしまったテーマのために研究施設を上司の指示という理由で廃棄しなくて良かった、とも思った。もしあの時施設を全部廃棄していたら、住友金属工業とのJVを開始できなかったばかりでなく10数年後の日本化学会技術賞受賞もなかった。

 

技術は人材が残っておれば復元は可能である。しかし、一時期職人も含め20人以上の技術者が関わってできあがったパイロットプラントを廃棄したのなら、無形の技までも捨て去ることになるのである。先端過ぎた技術開発で失敗したのだが世間の技術水準が上がれば今後事業機会がでてくるテーマだったので会社方針が変わらない限り研究施設を廃棄するわけにはいかない、と若く経験の浅い頭で考えた。この事件以後、設備で独自の改良が施されたところを含め、記録として残す作業を始めた。

 

例えばフェノール樹脂をカーボンの代わりに使用するのも重要なノウハウで、当時カーボンだけでSiCをホットプレス焼結できたのは無機材質研究所とゴム会社だけであった。フェノール樹脂でSiC粉体を処理する技術にノウハウが必要だったからである。そのホットプレス装置には焼結過程をモニターする独自の設備が取り付けられ焼結に伴う緻密化を管理できるようになっていた。

 

スクラップアンドビルドで新陳代謝を促し新技術を育てる、という考え方は、合理的でもっともらしく聞こえる。科学技術ではその考え方が正しいのかもしれない。新しい科学的成果に基づき新しい技術を創り出す活動は重要で、この方法による競争が20世紀続けられてきた。しかし人間の「技」から創り出される技術というものも存在する。それでも科学で翻訳し科学技術に書き換えることができればスクラップアンドビルドも良いだろう。

 

ところが、科学で翻訳できない技術については、うまく伝承し発展させる努力をしなければ消えてしまう。消えてしまうような技術であれば不要という判断は少し乱暴で、その技術が重要な差別化ノウハウとなるケースもある。

 

昨日紹介した「写真工業と静電気」には、重要なノウハウと呼べる技術がいくつか記録されていたが、科学で翻訳が不可能のためそのままの再現が難しかった。しかし静電気の考え方には、現代の科学的にまとめられた静電気の教科書には書かれていない独自の内容が展開されていた。しかもその内容で設計された商品が工場で生産されていたのであるが、処方成分以外の情報を誰も詳しく知らない状態であった。転職してきた技術者にできることは、科学的な翻訳だけである。

 

カテゴリー : 一般

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