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2013.11/06 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(3)

有機高分子は実火災が発生すれば火元では600℃以上の高温度に曝されるので、空気が存在するところで必ず燃えてしまう。燃焼時の熱でガラスを生成する仕掛けを有機高分子の構造の中に仕込んでおけば、生成したガラスが空気を遮断し、炭化を促進するのではないか、という仮説を立てた。ガラス組成ではないが無機高分子であるアモルファスボロンホスフェートを燃焼時に生成する仕掛けを軟質ポリウレタンフォームの構造に仕込んだ。

 

モデル実験ではすべて仮説を支持する結果が得られていたが、ホウ素原子の難燃効果がリン酸エステルとの組み合わせでどの程度上昇したのか知りたかった。また当時のリン酸エステル系難燃剤には塩素原子が含まれていることが多く、塩素原子の効果との比較もしたかった。

 

ホウ酸エステルとリン酸エステルを組み合わせて添加した難燃性軟質ウレタンフォームは自己消化性を示した。商品として最適化するために市販されているリン酸エステルを組み合わせコストバランスを検討した。40以上の異なる配合と難燃性試験のデータが得られた。多変量解析を行うのに十分なデータ量である。

 

相関行列を見ると、リン原子と塩素原子の間に軽い相関が見られた。塩素化パラフィンを添加した軟質ポリウレタンフォームを数種合成し、全体のデータにおいてリン原子と塩素原子の間の相関を0.5以下となるようにした。ホウ素原子とリン原子の間の相関はほとんど無い。

 

LOIを目的変数として、リンの含有率(P)と塩素の含有率(Cl)、ホウ素の含有率(B)を説明変数とする重回帰式を組み立てたところ、LOI=2.95xP+15.17xB+0.14xCl+18.3という重回帰式が得られた。重回帰係数は0.84と十分な値である。

 

重回帰式の各係数には原子量の違いが反映されているので、このままでは係数から目的変数に対する寄与を見積もれない。各変数の偏微分である偏回帰係数を求めたところ、Pは0.65、Bは0.4、Clは0.11となった。驚くべきことにホウ素原子の難燃効果の寄与が塩素原子よりも高く、また単相関で求めた相関係数よりも遙かに高かったことである。

 

すなわちリン原子とホウ素原子の組み合わせ効果を重回帰分析を行う事で定量的に示すことができたのである。重回帰分析で得られる偏回帰係数により目的変数に対する説明変数の寄与率を知ることができる。また重回帰式は目的変数の予測式として使うことができるが、この時説明変数に用いたデータの変域に注意を払う必要がある。

カテゴリー : 一般 高分子

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