活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2014.03/01 技術の伝承

科学は体系化されているのでその伝承は容易である。また人類の科学の成果は小学校から高校までかけて学ぶことになる。そして大学に進学すればそれぞれ専門の科学を学び、また新たな科学を生み出す研究に携わる。

 

しかし、技術についてその体系を学ぶ機会はメーカーに就職しない限り一般に無い。職能訓練の学校でも技術を学べるが、それは基礎的な技術であり、新たな商品を創り出す技術まで学べない。

 

「現場現物主義」という言葉があるが、ゴム会社に入るまでこの言葉を聞く機会は無かった。ゴム会社では科学よりもこの原理が優先された。まさにこれこそ技術の世界である。技術では、機能が実現されなければ間違っているのである。科学では、論理的に正しければ機能が実現されなくても正しいとされる。

 

また、科学では否定証明を得意とするので機能が実現されていない状態を「だからできないのだ」と証明してみせることは朝飯前である。技術では科学的に正しいのか間違いなのか関係なく、再現よく機能を実現できて初めて正しい技術となる。

 

新入社員の最初のテーマで難しい樹脂補強ゴムの開発を担当して良かった、と思っている。技術とは何か、という問題を体で考えることができたからである。メンターから渡されたのは、一つのゴムサンプルとその配合表及び物性表である。そしてこのサンプルゴムと同一のゴムができるまで新しい実験に進んではいけない、と言われた。

 

最初は2-3回の練習で何とかなるだろうと思っていたら、物性表と同一のデータが得られるまでに、周囲の諸先輩の御指導がありながら1週間かかったのである。頭で考える限り大した作業ではない。またメンターが手順を教えてくださったときにも大した「技」があるようにも見えなかった。しかし、配合物の計量から加硫工程、サンプルのエージングまでのプロセスには様々なノウハウがあり、一つでも手を抜くとメンターから渡されたサンプルゴムと同一のゴムができなかったのである。

 

幾つかのノウハウは反応速度論の観点から科学的な説明を与えることも可能であった。しかし大半はなぜその作業を行わなければならないのか今も不明である。しかし、その作業が行われなければ同一のゴムができなかったのである。

 

メンターは周囲から新入社員のいじめにならないか、とからかわれていたそうだが、技術の伝承という視点では、良い方法だった、と思っている。少なくとも科学で考えても分からない世界が存在することを、そしてその中で技術開発を進めなければならないことを学ぶには大変良いテーマだった。一週間大変だったが。

 

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop