活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2014.03/17 古くて新しいセルロース(7)

20年ほど前に、バクテリアが生産するセルロースを取り出す技術が実用化され、まずスピーカーなどに活用されたが、これらのセルロースは、植物から得られるセルロースよりも2ケタ程度繊維構造が細く、水分散性がよく、細長い繊維状物質として得られる。

 

ゆえに水分散性の高分子用フィラーとして活用しやすい。植物由来のセルロースとこれらバクテリアの生産するセルロースとの最も大きな違いは、その純度で、医療材料のような純度の高い工業材料が要求される分野で期待されている。このようなセルロースからゲルを作ると、そのまま濾過膜として活用できる。

 

例えば酢酸菌などのバクテリアがつくるセルロースは、その繊維幅は植物セルロースに比べて100分の1~1000分の1という細さで、その極細の繊維が複雑に絡み合うことで、アルミニウムシート並の強さの濾過膜を作ることが可能である。また、ココナッツミルクの中で幾多の酢酸菌が縦横無尽に動き回るとセルロースゲルができあがるが、これをシロップ漬けにしたものがナタデココである。糖分を酢酸菌がセルロースに加工している様子を肉眼で見ることはできないが、ナタデココを食べるとその食感からセルロースが多糖類の一種であり繊維素と呼ばれるのもなんとなく理解できる。

 

バクテリアセルロース以外に、ホヤセルロースの研究もおこなわれている。ホヤは、俗に海のパイナップルと呼ばれる海産動物で、古くから食用とされ、養殖も盛んに行われている。現在のところ、ホヤは、体内でセルロースを合成することが確認された唯一の動物である。本来バクテリアが持っているセルロース合成遺伝子が、進化の過程で取り込まれ、セルロース合成のプロセシング機能を獲得できたと言われている。 ゆえにホヤ以外の動物からセルロースが発見される可能性が残っている。

 

バクテリアを含め、生物が生成するセルロースの、夢の活用の仕方として、運動可能な生物の特徴を利用したナノビルダーというアイデアがある。すなわち培地の上に生体高分子でつくったレールを配置し、酢酸菌がそのレール上を行き来すると、そこに排出されたナノ繊維が吸着され繊維が一方向に整列したフィルムができる可能性がある。

 

植物からセルロースを取り出す方法では製造できなかったナノ構造体をバクテリアの運動能力を用いて製造することができる。セルロース結晶の強靭なナノ構造体と他の機能素材とを複合し、ナノ機能材料を開発する分野は、バクテリアの運動制御のアイデアと材料設計技術が必要で、環境技術だけでなく生物材料科学としても期待される分野である。

 

セルロースについて以前「科学と教育」に掲載された内容を連載してきたが、最近はセルロースと同じ多糖類であるパラミロンの研究も行っている。パラミロンはミドリムシから容易に採取できる物質で、セルロースを変性したTACの製造プロセスをそのまま使用可能で、優れた環境樹脂を製造できる。ミドリムシの培養からパラミロンの抽出、アセチル化までは少し努力すれば一般家庭の台所でも実験できる。すでに光学用樹脂として特許を出願したのでご興味のある方は弊社へお問い合わせください。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

pagetop