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2014.03/20 公的機関の研究発表

今回のSTAP細胞について最初の段階における理研の発表には、ややまずい点があった。そのため新聞や週刊紙が今でも騒いでいるのではないか。某週刊紙や*スポの見出しには目を覆った。本人はともかくご家族がご覧になったらどのように感じるだろう。

 

なぜ論文発表の段階において、理研の名前だけで発表しなかったのだろう。研究の内容や社会へ与えるインパクトを考えると、個人を前面に出した発表には意図があると疑われても仕方がないことだろう。

 

30年以上前に有機無機ハイブリッドの発明をゴム会社で行った。まだゾルゲル法さえ一般的に知られていなかったときに、有機高分子と無機高分子のリアクティブブレンドを成功させたのである。ゴム会社から特許が出ているが、これを前駆体にして高純度セラミックスを製造する技術についてゴム会社では意見が二分した。

 

しかし、世間でセラミックスフィーバーが起き、無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学する機会を得た。無機材質研究所へ留学後ゴム会社では、セラミックスの研究をやめた、というような電話が研究所にあり、当時の研究所のI総合研究官が当方のモラールダウンを防ぐために、1週間だけの限定付きで自由な研究時間をくださった。

 

その一週間で有機無機ハイブリッドを用いた高純度SiC新合成法を無事開発した(注1)のだが、その新聞発表は無機材質研究所名で行われた。基本特許も当方が書いたが、無機材質研究所名で出願している。これは、研究の大半を無機材質研究所の設備を使い行ったからである。すなわち国民の税金で行った研究だからである。

 

セラミックスフィーバーのさなか、半導体ウェハーにそのまま用いることができる高純度SiCが簡単に合成できる、という新聞発表は、工業新聞の第Ⅰ面に載り、社会に与えたインパクトはそれなりにあった。しかし、ゴム会社の海外留学を蹴って無機材質研究所に入所したセラミックスの研究未経験者がたった1週間で発明した、などという点は、それなりに面白い話ではあるが世間に出なかった。

 

ただ、それでも当方は大変であった。ヘッドハンティングの会社から転職の勧誘が多数来たのである。企画から実験まですべて当方が行ったことなど表に出ていなかったが、そうしたニュースをリークする人がいるものだ。また、この発明がすぐに国研としてプロジェクトが組まれる話まで進んだら、ゴム会社が騒ぎ出した。

 

昨日までハシゴをはずされたような状況だったのに、すぐに会社に戻ってこい、ということになった。特別昇進のおまけまでついた。STAP細胞ほどではないが、個人名など公になっていないにもかかわらず、それなりの騒ぎであった。

 

やがて日本化学会賞まで受賞するのだが、その受賞まで本件の研究について当方の名前が研究成果とともに載ったのは学位論文だけである。さらにその学位論文の主要部分となる論文については、何も関与していなかった国立T大助教授が当方のデータを用いて勝手に提出した論文(注2)である。さらにその助教授は学位の指導をほとんどしてくださらなかった。自分の研究として発表することを指導と思っていたのだろう。

 

このような経緯も含め、セラミックスフィーバーのさなかに発明された高純度SiCの技術で公的機関や無関係の人の名前で研究が発表されていても、中心人物の周辺では大騒ぎになったのである。今回のSTAP細胞の発表では、発表の初期段階から尋常ではない予感がしていた。最近スタートしたホームページ( www.miragiken.com)は、リケジョを主人公にしているが、この騒ぎに便乗したわけではなく、1年前から準備していた企画である。出だしのストーリーには話題を使わせて頂いたが、便乗商法に誤解されるのではないかと心配している。

 

(注1)現在でもゴム会社は当時実験で見いだした方法とほぼ同様のプロセスで生産を行っている。相違点は触媒に用いた酸が変更になっているぐらいである。

(注2)他人の研究をさも自分の研究のように、論文筆頭者として論文を提出することは研究者の倫理に反しないか。40歳過ぎても”未熟な研究者”がいる。学位審査の過程の一コマである。

 

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