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2014.05/12 フローリー・ハギンズ理論(7)

フローリー・ハギンズ理論(FH理論)は、高分子のモノマーに着目すると低分子の正則溶液に関する考え方と大差ない。だからSP値と相関してもおかしくない。しかし実際の高分子の混合では、高分子特有の「一本のヒモである」分子構造の形が影響するはずである。あるいはスター型や枝分かれした複雑な分子構造の相溶であれば単純にモノマー構造だけで考察しているFH理論とズレが生じるはずである。

 

そのためFH理論の拡張あるいは改良を目的とした研究も行われているが、今ひとつ決定打が無いために、相溶の説明のために一般の教科書ではFH理論が書かれている。確かにFH理論は初学者には理解しやすい考え方であるが、現象に合っていない部分が多いため、単純な考え方でうまく説明されると時として現象を見誤る場合やアイデアを生み出す障害になったりする。

 

例えばSTAP細胞の騒動はその例で、植物細胞ではSTAP現象が生じるが動物の細胞ではSTAP現象が生じない、というのが30年近く定説になっていた。それに対して、生物学について科学に対する意識は低いがやる気満々の研究者がSTAP現象を発見し、理研が揺れ動いている。おそらくハーバード大で実験を行った人物が優秀な研究者であったならSTAP現象を見落としていたに違いない。

 

学位論文の20ページ前後を平気でコピペして仕上げるちゃっかり者の研究者(注1)であったためにそのおかしさに気がつき発見に至り今回の大騒ぎになっている。知識が少ない、ということは先入観にとらわれる危険性が低いことを意味する。

 

当方もFH理論を疑問に感じたのは、ゴム会社に入って樹脂補強ゴムの研究を始めたばかりのかけだしで、専門知識の乏しいときである(注2)。FH理論を疑っていることについて周囲は冷淡であった。馬鹿にする人もいた。唯一指導社員だけは良き理解者で、カオス混合という概念を教えてくれた。但し、「連続生産で誰も実現できていない方法だが君ならできる」とどのように理解したら良いのか分からない激励の言葉が添えられていた。しかし、この言葉を素直に捉えてFH理論が研究開発に重要となる機会がある度にアイデアを考えてきた。

 

リアクティブブレンドによる半導体用高純度SiCの前駆体高分子の開発や、ポリオレフィンとポリスチレン系TPEとの相溶実験、そしてPPSと6ナイロンの相溶を実現するプロセス開発は、知識の乏しいときに素直に疑問に思って出てきたアイデアを32年間忘れずに実験してきた成果である。素人でも真摯に努力を続け年を重ねるとそれなりの成果を出せる。

 

(注1)もっともそのような学位論文に対して平気で学位授与する大学は大問題だが、このような問題は昔から放置されている。ゆえに博士であっても研究開発を満足にできない人が社会に出てきている。

(注2)科学に対する大卒レベルの知識はあった。卒業論文でさえも他人の論文のコピペは悪いことだという意識から実験ノートの書き方の常識だけでなく武谷三男氏やマッハ、湯川秀樹氏の著作物なども読んでいた。

カテゴリー : 連載 高分子

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