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2015.02/03 混練プロセス(29)高次構造設計

中間転写ベルトの業務は手の施しようのないテーマに見えたが、コンパウンドメーカーを見学して問題を解決するための方針が得られた。従来の二軸混練機の考え方にイノベーションを行えばよいのである。30年以上前の指導社員から概念を教えられたカオス混合装置を開発するチャンスが左遷で訪れた。

 

人生とは、塞翁が馬の如きといわれるが、最後までわからないものである。夢と希望を死ぬまで持ち続けたほうが良い、と思った。ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げ、志半ばで転職しなければならない事件に巻き込まれた。転職までする必要は無い、という説得もあったが、誠実な視点で判断をすれば、FDを壊した犯人捜しをしなければよかったのだ。あるいは、不誠実であるが事件を隠すことに徹すればよかった。

 

自分で企画し、学位論文までまとめた事業に対する未練があり、転職後も悩んでいた。また、ヘッドハンティングでありながら転職した部署はバブルとともに無くなって約束は満たされず、転職を後悔したりもした。しかし、ブルーレイ用樹脂レンズの開発で、新入社員の時に出された宿題を考える機会ができ、そしてそれを解決するチャンスがサラリーマン生活最後に訪れた。

 

PPSと6ナイロンの二相を単相にできるとしたら、指導社員から教えられたカオス混合しかないのである。ただフローリーハギンズの理論に反する考え方でリスクは高い。リスクは高いが、過去にポリスチレンの一次構造を制御してポリオレフィンに相溶させた実績があった。現代の科学の視点では怪しい解決方法であるが、新しい科学の事例を技術で創りだしてきた自負と豊富な経験があるので、何とかできる可能性は高い、と思った。

 

一方抵抗の安定化については、パーコレーション転移を制御すればよい問題である。目標とするベルトの抵抗は、10の10乗Ωcm前後であり、これを導電性の良いカーボンで実現するためには、カーボンを凝集体で分散し、凝集体の体積固有抵抗を10の4乗Ωcm程度に設計しなければいけないことをシミュレーションで求めた。

 

このように考察を最初に行う習慣やシミュレーションで高分子の高次構造設計を行う材料開発の方法も、3ケ月間親身に指導してくださったゴム会社の混錬のプロである指導社員から学んだことである。混練プロセスでは何が起きているのかわからないので、最初に目標とする材料の構造を設定することが重要である。混練方法をダイナミックに変更し、その構造が得られた混練方法がその材料を製造する条件となる。このような実験を行う場合にはバンバリーやロールは便利な混練装置となる。

 

バンバリーやロールは二軸混練機よりも機構が単純である。しかし使い方で様々な混錬を実現できる。ただ二軸混練機に比較して操作が難しく、数日の訓練が必要である。特に安全面の注意が重要で、ゴム会社の現場で実習をした時に指先のなくなった人を見て、ロール作業の危険性を学んだ。ちなみに根津にある小平製作所は安全なロール混練設備の開発では実績のある会社だ。実技指導もしてくれるなどサービス満点の会社である。

 

二軸混練機でも工夫で高分子の高次構造を制御可能である。但しこの場合も目標とする材料の構造をあらかじめ設計しておく必要がある。材料設計を行わない場合には、混練を繰り返しても何をやっているのか不明になる。実は混練プロセスをAのように行えば必ずBの構造ができる、という学術的な法則はなく、一般に言われているのは経験則である。目標とする高次構造を設定するのは混練プロセスの経験則を獲得するためである。

 

PPS/ナイロン/カーボンからなる中間転写ベルトのコンパウンドでは、2種類の高次構造を設計した。一つはナイロン相にカーボンが分散し、10の4乗Ωcmの体積固有抵抗の島となり、それがPPSに分散している構造である。これはフローリーハギンズ理論に適合した案である。もう一つはフローリーハギンズ理論に反したアイデアで、6ナイロンがPPSに相溶したマトリックスの中にカーボンの凝集体が分散した構造である。この二つの構造を目標に混練プロセスを検討した。

カテゴリー : 高分子

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