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2015.02/15 イノベーション(6)

特公昭35-6616特許に書かれた実施例の内容は、透明導電性微粒子と高分子バインダーを組み合わせて透明導電性薄膜を製造した、当時では世界初の技術である。今となっては昔の話になるが、かつて写真業界では現像処理後も安定である透明導電性薄膜の技術が、帯電防止技術の目標となっていた。

 

その目標はATO(アンチモンドープの酸化第二錫)を用いて、ライバル会社から最初に商品化されたが、やや青みがかっている問題があった。この技術が発表される20年以上前に、完璧に透明な帯電防止層ができていたにもかかわらず、その技術を再現することができなかったので、問題を抱えたまま商品化されたのだ。

 

もっともライバル会社の特許にはやや青みがかった問題など書かれていない。また多少青みがかっていてもその色味を消すこともできたので問題は無いともいえるが、昭和35年の技術を再現し、その透明度に接すると、ライバル会社の技術とはいえため息が出た。

 

ATOを用いた帯電防止層の特許は100件以上出願されていた。関係特許も含めると1000件近くに上る。しかし昭和35年の特許のおかげで、ライバルのATOを用いた技術に抵触しない優れた技術で透明帯電防止層を実用化することができたので、これもイノベーションの一つである。

 

ライバル会社の多数の特許を読みながら、パーコレーション転移という現象が理解されていなかっただけで技術開発に膨大な時間がかかっていた現実と不易流行という言葉の妙を味わっていた。

 

昭和35年の技術では非晶質導電体が帯電防止層に使われていた。しかし、パーコレーション転移の制御方法が書かれていなかったために未完成の技術と決めつけられ、ライバル会社では結晶質の導電体を用いてその実用化の努力が20年以上行われた。

 

ライバル会社の膨大な特許は、さすがにトップ企業なので優秀な技術陣によりうまく書かれており、それらを読むとその長い開発の努力の中でパーコレーション転移を制御する技術の開発を意識せず長く不変に続けられてきた様子がよくわかる。まさに不易流行の世界である。

カテゴリー : 一般

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