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2015.02/23 イノベーション(14)戦略2と3

フィルムの下引層とは、支持体(たとえばPET)と感光層である乳剤層とを接着するのが役目の層で、この接着層にHという作業環境に悪い物質が使用されていた。このHを使用しない技術開発の努力が長い間繰り返し行われてきたが問題解決できなかった。

 

このような難問について

戦略2:オブジェクトの隠れた機能を探し出す。

戦略3:オブジェクトの特徴となっている機能を無くしてみる。構造は残す。

という二つの戦略を実行した。

 

実はこの戦略で、脱Hの検討を開始して1週間で結果が出た。予想はしていたがあまりにも前任者の努力を小ばかにするような実験結果だった。そこでしばらく結果を公開しなかった。このような配慮は企業の研究開発で重要である。

 

脱Hができるという結果を科学的に示すために、1年間”遊ぶ”ことにした。まず丁寧にデータ収集を行い、架橋剤と言われていたHが単なる可塑剤であり、Hの添加量に依存して下引層の弾性率が変化しているデータを収集する。この結果を実際の薄膜のデータとして示すために使用する薄層の粘弾性測定装置を並行して開発する企画である。

 

物質Hは、エポキシ基が3つついていたので長い間架橋剤の機能がある、と信じられてきた。そこでこのエポキシ基を加水分解してつぶしたり、様々な条件で処理した化合物を添加した実験を行い、その結果隠れた機能である可塑化効果が見えてきた。戦略1も同時に行っていたのだが、この結果が見えたところでHを添加せず、膜厚だけを最適化して脱Hができるという確信を短期間で得た。

 

短期間で得られた物質Hの隠れた機能を改めて研究するという作業は、楽しい作業となった。楽しみついでに有限要素法にも取り組んだ。フィルムは積層体なので各層の弾性率が変化すると各層間に働く応力が変化する。この様子を有限要素法で計算し図示する作業である。これは二次元でもできる解析なので有限要素法など使わなくても結果を見通せるが、いわゆる”遊び”である。

 

ただこの遊びで新たなことも分かってきた。一部ノウハウもあるので詳細を省略させていただくが、戦略3を遂行した時、すなわち物質Hの可塑剤という機能を無くしたときにどのようなことが考えられるか多数のシミュレーションを行っている。このシミュレーション結果には予想していなかった現象も示されていた。

 

例えば、過去のデータを見たときに、可塑剤の域を通り越してHがかなりの量添加されている配合も存在した。そこでこの配合について、Hを可塑剤ではなくポリマーと想定してその配合の弾性率をシミュレーションしたのである。この作業の過程と結果から、ポリマーアロイで下引層を設計すればよい、という結論も出てきた。

カテゴリー : 一般

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