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2015.05/05 問題解決(4)

企業の研究開発において問題を日々チェックできない管理職は失格である。科学では真理を追究するのが唯一の目的なのでおいそれとゴールは変化しない。しかし、企業の研究開発は技術を完成させて商品に搭載するまでがミッションである。例えば、研究開発を推進している途中で商品開発そのものが見送りになれば、それも終了するのが常である。そして途中まで投入した開発資源をどう処理するかを考えるのは、研究開発管理者の重要な仕事となる。

 

中間転写ベルトの開発では、当方の処遇は退職まで数年の身であったので、コンパウンドメーカーから協力が得られなくなった時点で責任をとり、開発失敗として処理した方がサラリーマンという立場では手軽な問題解決法であった。ここで開発に成功しても役員になれるわけではないので給料のみならず退職金も変わらないのである。人事部に早期退職者優遇制度を使った場合のシミュレーションをお願いしたところ、2年我慢して勤務すれば満期で退職したときと変わらない退職金になるとの情報を頂いていた。

 

さらに外部のコンパウンダーも一流だったので、PPSという材料は高級機種の中間転写ベルトに使えない、という結論を出しても皆が納得しただろう。しかし、前任者により設備投資がなされ充実した豊川のパイロットプラントや現場で働く人数を見て、必ず成功させなくてはいけないテーマであることを理解できた。給料も退職金も増えるわけではないが、ドラッカーの「働く」意味を思いだし、自己実現の目標を新たに設定しなおした。すなわち問題を会社の問題としてとらえただけでなく、責任ある技術者として生きる自分の問題に設定しなおして、必ず成功させるための意思決定をしたのである。

 

これは公私混同では無い。退職前でサラリーマンとして報われないことを承知しての無欲の企業への貢献である。負けには必然性があるが、勝ちはせいぜい予測できるだけというのは兵法に書かれた名言だが、このテーマが成功しても「不思議な勝ち」となるだけである。「不思議な勝ち」とは野村克也氏のマネだが、そもそも意思決定は、100%の保証が無い勝ちを予測し行うものである。その勝ちを予測することで目標が明確になり、戦略立案が可能となる。

 

意思決定されると見えてくる問題があるという話は先日書いた。それは、目標が明確になるからである。企業の研究開発では、限られた資源の中で成果を出さなければならない。すなわち企業の研究開発では、真理の追究をする前に、研究開発における制約を明確にしなければならない。それは経営者の仕事ではなく現場にいる技術者の責任である。研究開発の制約は技術者の意志決定により取り除かれる(注)。そしてその意志決定により真の問題が見えてくる。問題が明確になれば、あとはそれを解決するだけである。

 

(注)技術者にマネージメント能力を期待していない企業もあるが、少なくとも管理職群に処遇された技術者は、マネージメント能力を発揮しなければいけない。日本の企業において技術者の処遇はライン管理者よりも低く位置づけられたりするがこれは間違っている。給与をライン管理者よりも多く与えることでマネジメント能力は発揮される。管理職群以上では給与の意味は理解されているはずである。給与を上げずにフェローなどの特別な名称の処遇で対応している企業もあるが、スキルの高い技術者について、若手社員に技術を大切にしていることを経営方針として示すために本来は給与を高くするべきだろう。逆に担当部長とか担当課長というありきたりで中途半端な肩書きは技術者のモチベーションにマイナスとなる。権限も何も無い、と誤解してやる気がなくなる技術者もいるかもしれない。しかし、担当部長や担当課長でも現場における戦術展開の権限は「与えられなくても」存在するのである。ここで意志決定が重要になってくる。

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