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2015.05/12 問題解決(10)

PPSを押出成形して中間転写ベルトを製造する技術開発は、環境に有害な溶媒を用いてキャスト成膜するPIを用いる技術開発に比較すると、コストダウンだけでなく環境負荷低減という現代の環境経営に大きく貢献する。

 

しかし、導電性のカーボンを分散してベルトの面内抵抗を均一にする製造技術として、押出成形という手法は適していない。コストや環境負荷を考えなければ、キャスト成膜が精密に抵抗を制御可能で優れている。

 

押出成形は、「行ってこいの世界だ」、とゴム会社で現場の職長から教えてもらった。要するにゴムの配合がうまくできていなければ、良いものができない、あるいは、配合物の問題を押出工程で解決することなどできない、という意味である。しかし、単身赴任した現場では、ものすごい熱気で、この常識にチャレンジしていた。そしてあと少しのところまで来ているという説明を聞き、びっくりした。

 

かつてゴム会社の職長の言っていた言葉が間違っていたのか、あるいは、このあと少しでできるという問題は、永遠に解決できない問題なのか、判断に迷ったが、コンパウンドメーカーの「素人はダマットレ」、と言う言葉が、意志決定をさせた。

 

行ってこいの世界では、配合物が均一にかつ安定にできていることが重要である。これを目標にコンパウンド開発を行う決心をした。この目的は、押出成形でPIベルト並のベルトを製造することである。

 

問題解決のために「コンパウンドの内製化」はテーマ企画の目的として明確であったが、コンパウンドの物性目標は、明確にできなかった。そもそも外部のメーカーにコンパウンド開発を依頼していても、ベルトの抵抗が均一になるという目標を表現したスペックが決められていなかった。この点について誰も疑問を持っていなかったのは不思議であるが、日々の議論の内容から、目的と目標を混同していることは明らかだった。目標は目的ではないのである。

 

統合前の写真会社では、目標管理が厳密に行われていたので、このような状況はみられなかったが、統合したカメラメーカーでは、ヒューマンプロセスが文化の会社だった。ゆえにコンパウンド開発に明確な目標など無くても特に疑問は起きなかったようだ。

 

部下のマネージャーが、内製コンパウンドの目標をどこに置くのか聞いてきた。君は外部のコンパウンドメーカーにどのような目標を設定しているのか、と質問したところ、そこで議論はフリーズした。

 

しかし、今時のビジネスプロセスでは、明確な目標は目的を実現するために不可欠である。コンパウンドの内製化を進めるに当たり、走りながら目標設定するというヒューマンプロセスをとることにした。目的は明確だった。

 

ゆえに目的を実現できたコンパウンドからその目標を設定するという、通常のビジネスプロセスとは逆のやり方で業務を進めた。目的と目標の区別ができていない雰囲気だったのでうまく進めることができた。

 

その結果、電気的特性を粘弾性のパラメーターで品質管理できる独自の手法を開発できた。すなわち強相関ソフトマテリアルでは、材料設計において媒介変数を用いると、事象の異なる変数でも相関するという現象が現れる。その性質を活用した。そして、コンパウンドの開発目標は電気特性ではなく、粘弾性のパラメーターで記述された。ヒューマンプロセスを採用した成果である。

カテゴリー : 一般

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