活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2015.06/24 科学と技術(4)

技術が科学の成果だけで成り立っているならば、その伝承は容易である。しかし、実際の現場では技術がうまく伝承されていない状況が存在する。あるいは、現場で行われている科学的に非効率な作業についてそれをやめたとたんに品質問題が多発するというような事件が希に起きる。

 

当方があるラテックスの製造プロセスを立ち上げたときに、ラテックスの合成を完了した後の物上げ前に、ひしゃくで表面を3回なでるようにラテックスをすくい、それをすてること、という怪しいプロセスを入れたことがある。この作業では、人を誤差に見立てて作業を行うと、捨てられるラテックスについてひしゃく一回分の個人差が出る。

 

当方が行えば1回の作業で済むが、それを誤差として見込み、2回ではなく3回としたのである。2回でも良いかもしれないが、このような誤差は万が一を考えて多くしておいた方が良い結果が出るという経験知を用いた結果である。しかし、そもそも計量器ではないひしゃくを使用する時点で非科学的である。

 

また、この作業自体無くてもラテックスの品質に影響しないが、生産スケールで4-5回に一回不良品が製造され、写真用の高価なラテックスを200l廃棄しなくてはいけない事態になる。1lスケールでタグチメソッドを用い最適化した製造条件であり、ロバストは高いはずで、原因が不明だった。また、小スケールで実験を行ったときには20回合成してもエラーは発生しなかった。原料ロットのばらつきでもなく、量産開始後に見つかった原因不明のトラブルだった。

 

ただ、ほかのラテックスの製造規格書を調べたときに、20年近く前に開発されたラテックスのプロセスでこのひしゃく作業が入っているのをみつけ、それを取り入れたところ、ロットアウトが無くなったのだ。おそらく製造後にできそこないのラテックスが表面付近に浮いており、その量がたまたま多くなったときにエラーが起きているのかもしれない。しかし、これを科学的に証明するのは至難の業である。

 

若い技術者が、証明したいと名乗り出てきたので、ひしゃくでくみ上げられたラテックスを集め、分析したことがある。しかし、10ロット分析しても原因物質を見つけることができなかった。挙げ句の果ては、当方の微量成分説を疑いだす始末。ただ、これについては、ひしゃく作業を行わない場合にエラーが希に発生するので誰もが信じたくなる説であり、科学の時代にこれをよりどころとしなければ気持ちの悪い現象である。ひしゃく作業が単なるおまじないでは、現場で採用していただけない。

カテゴリー : 一般

pagetop