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2015.07/17 技術者の能力(6)

担当者が失敗しているときに、成功体験を話す上司が写真会社にいたが、これは失敗のさなかにいる担当者には嫌み以外にどのような理解をしたらよいのか考える余裕がないので、悪い印象しか残らない。成功体験というものは業務がうまくいっていないときに話すべきではない。成功体験はゴム会社のように研修の場で話すだけが良い。

 

例えばゴム会社の新入社員の研修の場面で、このようなことがあった。講師から質問を求められたときに、同期の友人が、「研修で講師から成功体験ばかり聞いてきたが、失敗談は無いのか」と質問した。講師は「失敗事例は失敗する当然の理由があったので失敗しており、参考にならない」と答えていたが、これは研修の目的から至言である。

 

野村監督の「勝ちに不思議な勝ちあり」という名言があるが、成功事例もそのような側面を持っており、それを語り継ぎ、成功のノウハウを共有することで、成功するための度胸を持った技術者が育つのである。

 

科学的に不明な現象を扱う技術の成功には、必ず運もあるはずで、運をどのように成功へ結びつけたのかは実際に体験させるのが難しく、語り継ぐ以外に伝えることができない。

 

しかし、失敗事例にはその原因をいくつあげても底なしとなる場合が多い。さらに、失敗となるような状況に遭遇しても成功できる不思議さを学ぶことが技術者として重要である。

 

新入社員研修で聞いたいくつかの成功事例には、ほとんどが失敗したかもしれないミスがあったそうである。成功事例にはそれを語る効用があるが、実験に失敗しているときには、同様の失敗事例を語り、どのように問題解決したら良いのか一緒に考えてくれる上司こそ尊敬される上司である。

 

失敗している最中にどや顔をされたら泣きっ面に蜂となる。それでもめげず開発をしなければいけないのが技術開発の現場である。ゴム会社に入社して間もない頃、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームを工場試作まで半年で完成させたが、これはその後営業会議で大失敗とされた。

 

ホスファゼンがまだ市販されていない材料でありすぐに商品化できない技術だったからである。上司はその会議で新入社員の責任と語ったそうで、そのため始末書を当方は書かされた。ただ始末書には、リベンジを決意したことを書いた。そして半年後に燃焼時にガラスを生成する低コストの難燃化技術を実用化しリベンジに成功した。上司は運営委員を務められていた高分子の崩壊と安定化研究会へ報告するように当方へ指示されたが、これは技術者としての学会デビューの機会になった。この失敗体験は30年以上前の出来事だが、リーダーのあり方も含め今でも忘れられない思い出である。

 

カテゴリー : 一般

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