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2015.07/27 未だ科学は発展途上(6)

業務において科学で未解明の現象を扱わなければいけないときに、科学的な問題解決法だけで取り組んでいるとおかしなことが起きる例を述べてみたい。これは実際に体験したことである。少し長い話になるので、数日に分けて書きたい。

 

20年以上前に実用化した酸化スズゾルは、その性質が科学で未解明の材料の一つだ。高純度の結晶性酸化スズについては、セラミックスフィーバーのさなかに無機材質研究所でそのすべてが解明された。その結果、高純度酸化スズの単結晶は絶縁体であることがわかり、インジウムやアンチモンをドープしなければ導電性が発現しないこと、そしてその導電機構について、この時に世界で初めて科学的な説明がなされた。

 

実は1960年前後にインジウムをドープした酸化スズが高い導電性を持つことは発見されていた。そして、物理蒸着プロセスによる透明導電膜が実用化された。その頃日本の老舗フィルム会社で(この会社は日本で初めて写真事業をスタートした会社だが)世界初の塗布方式による透明導電膜の発明に成功している。

 

特公昭35-6616がその発明による特許だが、これが公開されるとアメリカの写真会社や日本のベンチャーでスタートした写真会社から透明導電膜の特許が大量に出願されるようになった。老舗のフィルム会社は怖気づいたのか、一発花火のようにこの特許を一件出願しただけで、その後10年近く透明導電フィルムの出願をやめてしまった。

 

面白いのはベンチャーのフィルム会社の発明で、結晶化した酸化スズには導電性があって、特公昭35-6616に書かれた非晶性酸化スズには導電性が無く、自分たちが初めて塗布による透明導電膜の製造に成功したと特許で主張していたことである。科学的に酸化スズの物性が解明されていなかった時代の出来事であり、技術の発明として特許出願され公告となった。もちろん現代の科学の視点から見れば正しくない内容の発明である。

 

その後、本来は特公昭35―6616の改良特許の位置づけであったにも関わらず、この分野の特許出願状況は、ベンチャーの写真会社が酸化スズを用いた帯電防止技術の本家であるような展開になっていった。今の科学の常識から考えると特許の主張は間違っていたのだが、酸化スズについて科学で未解明の時代には、言ったもの勝ちとなる。(続く)

カテゴリー : 一般

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