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2015.09/25 フォルクスワーゲンの不正プログラム問題

昨日フォルクスワーゲンの社長が、ディーゼル車の排ガス不正操作問題の責任を取るため、監査役会に辞意を伝えた。VW創立以来最大級のスキャンダルは、トップの辞任という事態になった。ウィンターコルン社長は、「この規模の不正が社内で行われたことに衝撃を受けている」とした上で、「自身で過ちを犯したとは考えていないが、社の利益のために決断した」と強調している。そして「辞任により、新たなスタートへの道を開きたい」と述べた。
 
答弁で語っているように、恐らく社長は今回の問題にかかわっていないのだろう。事件の内容から、現場の判断で行われた可能性が高い。これは推定になるが、自動車を開発する時に排ガス規制の仕様を目標にちゃっかりと不正プログラムを開発していたと思われる。すなわち技術者の意識として、スペックを満たすことだけが商品開発と勘違いしていたのかもしれない。
 
30年以上前に同様の体験をした。ゴム会社ではタイヤ開発においてスペックを満たしただけでは、それは商品ではない、という意識がトップから担当者まで浸透していたことをこの欄で紹介した。事例として新入社員の体験を二つほど紹介していたが、配属されたコーポレートの研究所ではこの意識が徹底されていなかった。
 
その研究所の当時のアウトプットとして台所の天井材があった。この台所の天井材については、商品として市場に出すには「JIS難燃2級」という通産省の策定した規格に通過しなければならなかった。この規格は、30cm四方程度の板状のサンプルにライン状の炎を当て燃焼する時に発生する熱量と煙量を測定し、その値が一定値以下であれば合格と評価する内容であった。
 
可燃性の材料であれば燃焼熱と煙が発生し、規格に適合しないと評価される。しかし、自己消火性がありライン状の炎が当たっていても一定時間大量に燃焼しなければ、発生熱量と煙量が規格内となり合格と判定される。無機材料の石膏ボードであれば燃焼しないので、もちろんこの規格に合格する。有機材料でこの規格に合格するには、空気中で効率よく炭化し、力学特性の優れた炭化物を生成する材料でなければならないはずだった。例えば分子設計されたフェノール樹脂ならばこの条件を満たし、規格に合格する。
 
ゴム会社の技術者はポリウレタンを変性し、加熱されると餅のように膨らみ炎から逃げるように変形する材料を開発した。この材料はLOIが19以下であり空気中で燃えるが、JIS難燃2級の試験を行うと、ライン状の炎から材料が逃げるように変形し、着火すらしない形状に変化する。そして熱量と煙量ともに0となる。規格ではこのような大変形する材料を想定していなかったので、規格に通過することになる。
 
ゴム会社の少し熟練した技術者ならば、会社の哲学とその良心からこのような材料をエラーとして扱うが、当時の主任研究員は素晴らしい発明として特許出願しこの技術で商品化してしまった。もしゴム会社の哲学を理解し、技術開発に人格としての良心をこの主任研究員が持っていたならば実火災を想定した試験を行ったはずだが、その主任研究員は当方の上司になった時に商品は規格を満たしていたので規格に問題があったのだ、と説明するようないい加減な技術者だった。おそらくフォルクスワーゲンの技術者もこのような技術者だったのだろう。すなわち、規格を評価するモードになると排ガスが少なくなるような仕組みを技術として開発したのである。
 
この技術開発思想を問題とするかどうかは、商品はただ規格を満たせばよい、という思想を正しいとするかどうかという視点で見解は変わる。おそらく技術者には不正の意識がなかったのではないか。ゴム会社の「最高の品質で社会に貢献」という社是にある最高の品質について、ただ規格を満たすだけが商品開発ではない、とゴム会社の役員は新人発表会の席で教えてくださった。
 
その結果、配属先の主任研究員と衝突し恨まれることになったが、これはサラリーマン生活の良い思い出になっている。フォルクスワーゲン社では誰も規格を満たすだけの商品開発について批判をしなっかた、と思われる。インチキプログラムは問題であるが、安全な商品開発の視点から現場で誰も批判しなかったことの方が問題は大きい。当時のゴム会社では餅のように大変形するインチキ材料から、まともな不燃材開発へすぐに方針転換されている(注)。
 
(注)難燃2級の規格はその後見直され、1981年ごろこのゴム会社は建築研究所と新しい規格策定に協力することになった。当方は筑波にヘルメット持参で通勤した思い出がある。当時出来上がった規格は、簡易耐火試験で、この試験に合格できる可能性のある有機材料はフェノール樹脂以外なかった。そしてフェノール樹脂天井材の開発を行うと同時に、高純度SiCの企画を立案した。

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