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2016.01/03 高純度SiC発明プロセス(昨年末まで)における知

高純度SiC発明の基になった天井材開発について、当時を思い出しながら昨年末まで書いてきたが、フェノール樹脂の重合機構やポリエチルシリケートの加水分解速度に関する形式知は、当時の先端情報だった。それらの情報は高分子学会の年会でも、有機高分子と無機高分子として別々のセッションで議論されていた。しかし、この両者のポリマーアロイをπーπ相互作用の活用により完成された形式知としてアカデミアから発表されたのは、当方が技術開発に成功してから約10年後の1990年代のことである。
 
ゴム会社でCIが導入され会社創立50周年記念論文が募集されたとき、有機高分子と無機高分子の均一混合で実現された高純度セラミックスを武器に、ゴム会社が電子セラミックス分野に進出するシナリオを投稿していた。そのシナリオでは、フェノール樹脂とポリエチルシリケートから製造されたポリマーアロイが事業成功のためのキー材料という位置づけだった。
 
そしてこの製造プロセスとしてイメージしていたのは、ポリウレタンRIMで実用化され、その後研究が進み一部形式知がまとまっていたリアクティブブレンドである。この手法については特殊な事例の形式知が知られていただけだったので、その一般化は科学として完成していない状態であり、有機高分子と無機高分子のリアクティブブレンドは、まさに夢の技術だった。
 
しかし、50周年記念論文のシナリオ投稿後、運よくフェノール樹脂天井材の開発を担当することができ、このテーマでそのリアクティブブレンドに挑戦できる機会を得た。ただし、この時の実験結果は、シリカナノ粒子が均一分散した構造の材料となったが、実践知の蓄積を十分にすることができた。その結果、目標としていた有機高分子と無機高分子が反応し、均一なマトリックスを実現した有機無機ハイブリッドポリマーを思考実験で製造できるまでになった。
 
この思考実験は妄想に近い内容だったが、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを混合した時に単一相の状態を作りだせれば、それが突破口になり、有機高分子と無機高分子のポリマーアロイを創りだすことができる、という明確なイメージをもつことができていた。
 
ところが天井材開発で最初に取り組んだのは、水ガラスからケイ酸ポリマーを抽出し、それをフェノール樹脂と混合して有機高分子と無機高分子の均一状態を作り出す作業である。そして、そのコストダウンの位置づけで、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂のリアクティブブレンドを検討している。これは思考実験と異なるプロセスであるが、その理由は企業で行う研究開発という制約に配慮したためである。
 
形式知が乏しい分野のテーマを推進する時に、効率を優先すると非科学的な業務プロセス(注)となるが、それを企業の研究所で真正面から扱うことは困難である(ヤミ研であれば許される)。少しでも科学的な香りの漂う実験を心がけなければ研究所では評価されない。それゆえ、形式知として公開されていたケイ酸ポリマーの抽出実験とそれを用いたフェノール樹脂とのポリマーアロイ合成という、周囲が科学的プロセスとして納得がゆく取組をおこなったのである。
 
天井材の開発では、有機高分子と無機高分子のリアクティブブレンド技術を頭に描きながら、それを実現するために必要な機能を商品開発で遭遇する現象の中で探索していた。断片的に公開されていた形式知をうまく利用しつつ、実践知の蓄積を行っていったのである。高純度SiC発明プロセスの後半ではフェノール樹脂の廃棄処理の仕事でさらに実践知を蓄積していった様子を書く。
 

形式知が乏しい分野では、管理された実験で新しい現象を作り出し、その注意深い観察により機能を取り出す努力が不可欠である。その過程で実践知の蓄積がなされる。
 
(注)iPS細胞の研究では、ヤマナカファクター発見のために堂々と非科学的プロセスが採用されている。
 

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