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2016.01/04 高純度SiCの発明プロセス(5)

フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンドは、フェノール樹脂天井材の開発初期に、技術が成功した、と報告書にまとめていた。この報告書にはシリカ超微粒子をフェノール樹脂マトリックスにナノ分散するための技術として書かれている。
 
ここに書かれた材料でも1000℃まで焼成すれば高純度のシリカと炭素の均一混合物を製造できるので高純度SiCの原料として使えないことはない(注1)。しかし、シリカのナノ粒子と言っても電顕で詳細に調べると粒度分布があり、SiC生成反応が不均一となる心配があった。(注2)
 
フェノール樹脂開発前に担当したポリウレタンの難燃化技術のテーマで、ホウ酸エステルとリン酸エステルとの組み合わせ難燃剤システムを開発していた。この技術は無機高分子のモノマーに相当する成分をポリウレタンに分散し、燃焼時の熱でこれらを反応させて無機高分子を合成するという画期的な方法である。この時に得られた実践知からも、ナノレベルの微粒子分散系と分子レベルで分散した系とは反応の均一性に差が現れることが予想できた(注3)。
 
実践知をもとに、いろいろ技術イメージを展開すると副生成物による弊害について思考実験で確認できた。すなわち、微粒子や分子状態の難燃剤を添加した様々な難燃性高分子をTGAで解析した経験から、理想と異なる微粒子を分散したSiC前駆体で生じる弊害を予想したのである。恐らくこれはファーガソンの著書「技術者の心眼」に書かれた心眼の使い方と同様と思われる。
 
そして、シリカと炭素が均一な反応で進行し、生成するβSiCの粒度が揃うためには、シリカが分子レベルで炭素に分散している構造が不可欠という結論が思考実験から導き出された。このような構造が得られるためには、フェノール樹脂とエチルシリケートとのリアクティブブレンドの段階で両者の高分子が相容し,コポリマーが生成しなければならない。
 
フェノール樹脂天井材の開発で行った実験では、形式知を動員してもイメージ通りにうまくゆかなかった(注4)。しかし、天井材の開発を完了後、技術の見直しを行ってみると、なぜか頭の中でうまく反応が進行してゆき、理想の技術を実現できそうな気がしてきた。すなわち、天井材の開発過程で遭遇した新たな現象から利用できそうな機能を取り込み思考実験を繰り返すことにより、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを反応させた時に生成する、透明な液体が、中間体として合成されるイメージが具体化された。
 
しかしこの結論は、形式知から見出されたわけではなく、実践知の組み合わせによる思考実験から導かれたものであり、非科学的な見通しだった(妄想と言う人もいる)。
 
(注1)シリカ還元法によるSiC合成法では、シリカ微粒子とカーボン粉体を樹脂で固めてペレット化した原料が使用されている。あるいは、シリカ微粒子とカーボン粉末の流動層で反応を行っている場合もあるが、反応に必要なカーボン量の2倍から3倍の量のカーボン粉末を使用している。そしてSiC化の反応終了後、カーボンを燃焼させて除去しSiCを取り出しているが、その結果、シリカ不純物が生成するという問題を抱えている。ポリエチルシリケートとフェノール樹脂のリアクティブブレンドで生成したコポリマーを使用した場合にはほとんどカーボンを残さないようにしたSiC化の反応を行うことが可能である。2%前後カーボンが残っていても助剤として使用可能なので問題ではない。また、SiCウェハー生成用に用いる場合でも問題とならない。
(注2)この1年半後、無機材質研究所の留学から戻り、自作の熱天秤を用いて研究したシリカ還元法の速度論で見出された結果では、この前駆体を用いるとSiOガスが生成し、炉内を汚染するという可能性が示された。
(注3)燃焼している材料では急激に酸化が進んでいる部分とそうではない部分との界面が存在する。あるいは、あくまでも燃焼は気相で進み、燃焼が進んでいないところとの界面を仮定する場合がある。この界面で無機高分子が生成するとそれが耐熱層となり、酸化の進行を止める。この界面に無機高分子相が生成する現象は科学的に確認され実証実験にも成功している。高度な難燃性を実現するためには発泡断熱層の生成が重要と言われているが、発泡断熱層でなくても火を消す作用はある。
(注4)山中先生も、当初実験がうまくゆかず、悩んでいたが、学生の形式知からずれた思い切った実験で突破口ができた、と語られている。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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