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2016.01/16 21世紀の開発プロセス(4)

形式知が整備されていない分野で、科学的プロセスによる技術開発を行うと効率が悪くなる(注1)。その技術開発に必要なすべての真理が解明されていない状況では、自然現象から機能を取り出そうとする時に、解明されている真理だけを用いる実験に制限されるためだ。
 
その時の実験結果によっては、否定証明へ進まなければいけない場合も出てくる。こうなるとモノはできない。そして科学的プロセスでモノができない結果については、科学的と言う理由でそれが当たり前と考え、別の手段で機能を取り出そうと考えるようになる。
 
抽象的な説明になったが、数日前書いた電気粘性流体(ERF)の耐久性劣化問題の話を思い出していただきたい。ゴムからERFへ抽出されたゴムの添加剤が原因で増粘したERFの、機能が失われた話である。
 
科学的な仮説を立てて界面活性剤を検討するが、それに支持された界面活性剤だけ検討して問題を解決できないという結論が出るや否や、その他の界面活性剤については否定証明の事例として使い問題解決できなかった。それだけでなく、ERFに耐えうるゴムの配合設計というテーマやゴムの表面処理の検討などの方向へ開発が進んだ。
 
このような問題解決の方向へ進んだのは、担当者が無能だったからではない。博士が2名と他は修士の布陣である。しかも東大はじめ高偏差値卒業者ばかりで、科学の分野では高い能力を発揮していた人材ばかりが業務を担当していた。そして、界面活性剤では電気粘性流体の増粘の問題を解決できない、という結論は科学的に正しい緻密な実験と論理で導かれ、それだけを読めば何も間違っていない論文である。
 
このような効率の悪い方向へ開発が進んだのは、形式知が十分に整備されていない分野における問題について科学的プロセスで解決しようとしたためである。科学的に導かれたテーマ、ERFに耐えうるゴムの配合設計やその表面処理技術は、問題解決のための一つの技術手段となるかもしれないが、それで実用的なデバイスができるという保証はない。新しく開発されたゴムの耐久性がわるければ、実用化できなくなる。
 
しかし、ERFの耐久性劣化問題では、実践知を用いた非科学的問題解決プロセスで見出された技術を用いて問題解決がなされた。ちなみに、科学的プロセスではHLB値を頼りに導かれた結論を一般化すなわち普遍の真理として採用し、界面活性剤では問題解決できない、という結論を出したが、非科学的プロセスでは、実践知により市販で入手可能な「すべての」(注2)界面活性剤を検討して問題解決している。形式知の不足している領域の問題を解く時には、このようにすべての条件あるいはすべての因子、すべての範囲を検討する必要がある。
 
(注1)例えば以前この活動報告で簡単に紹介した中間転写ベルトでは、コンパウンドに問題があったが、コンパウンドメーカーが科学に関係の深い機関が関わって成立した会社なので、高い技術があるとされ、科学的に後工程の押出成形に原因があるとされた。そのため当方が担当するまで長い期間問題解決できなかった。当方が担当したとたんに半年で問題解決され、その後コンパウンド生産工場まで建った。このあたりも機会があれば紹介したい。中間転写ベルト以外にも大手でスのはいったコンパウンドを平気で技術に問題の無いコンパウンドと押しつけていたところもある。科学を前面に出し技術をおろそかにしている張り子の虎を見破る見識も持ちたい。
(注2)実際には、市販品の一部であるが、多変量解析の結果をもとに「すべて」の界面活性剤を検討したのと同等の方法と思っている。これはラテン方格を用いる実験でも同様の考え方である。

カテゴリー : 一般

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