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2016.01/17 21世紀の開発プロセス(5)

(注)(本日の内容において重要な点なので冒頭に記載している。)導電性微粒子を絶縁体高分子に分散したときに、「混合則で記述される抵抗変化が生じる」、と当時の教科書にさらりと書いてあった。当方もパーコレーションを勉強するまでは、すなわちゴム会社で指導社員に指導されるまでは、教科書を信じ、混合則で現象を整理するものだと思っていた。ところが微粒子と高分子の間に相互作用が存在しないときに、確率的に現象は変化する、というのが正しい現象のとらえ方であり、現実には相互作用も影響するので現象はさらに複雑になる。混合則は、特定の条件で成立するルールであって一般的なルールではないが、教科書にはそのようなことが書かれていなかった。これを科学の真理と信じて技術開発を行った場合には、モノができない場合も出てくる。科学の真理の中にはこのような不親切な真理が少なからず存在する。

ゆえに、「科学的に開発を行い、モノができないとき」にも「非科学的な開発でモノができる」場合がある。以前紹介したPPS中間転写ベルトでは、その開発プロセスを詳しく書いていないが、「科学的に業務を行わなかったので」効率的に業務を進めることができ、短期間にコンパウンド工場を立ち上げることができた。「科学的に行うこと」と「開発期間の短縮」との関係について詳細は問い合わせていただきたい。
 
<ここから昨日の続き>
ERFの事例は特殊ではない。科学的な否定証明の展開により機能が無い、と結論されていたにも関わらず、それをひっくり返した事例が他にもある。以前この欄で紹介した酸化スズゾル帯電防止技術もこの例である。この例は、数学の分野では形式知として知られていたが、化学分野では他の形式知が存在したために問題解決できなかった、という話である。
 
この事例では科学的に否定証明された結論について、他分野の形式知を導入して科学的に結論をひっくり返しているので、受け入れやすいかもしれない。日本化学会の年会におけるシンポジウム企画でも招待されて発表しているが、その時は温故知新による技術開発としてプレゼンを行っている。
 
酸化スズゾルを用いた帯電防止材の技術内容については、以前の活動報告を読んでいただきたいが、この事例では、1990年頃パーコレーション転移という形式知が化学の分野で普及していなかったために現象のとらえ方が偏り、否定証明に至っている。報告書は科学的に書かれていたが、混合則という形式知がその論理展開で使用されていた。これは複合材料の教科書に書かれていた形式知であり、混合則で議論するのは当時のこの分野では常識だった(注)。
 
但し、この報告書に疑問を持ったのは、ライバルの特許を整理していて、特公昭35-6616という古い特許を見つけたのがきっかけである。この特許の実施例では実用的な帯電防止層ができていたことになっているのだが、この報告書や当時書かれた他社の特許も含め酸化スズゾルを絶縁体としていた。
 
極めつけは、特許の実施例はあてにならない、という報告書の著者の感覚である。特許は技術の権利書であり、仮に実施例が捏造されていたとしても、特許が権利化され年金が支払われているならば、その特許に書かれた実施例の実現可能性は高い。またそのような実施例としなければ特許の価値が無い。
 
また、特許は科学の制約を受けない、ということも知っておかなければならない。自然現象から取り出した「驚くべき」機能であれば、非科学的でも特許として成立するのである。但し、実施例が必ず再現可能という前提があるが。
 
この酸化スズゾルを用いた帯電防止技術では、パーコレーション転移のシミュレーションプログラムと帯電現象に関わる新たな評価技術を開発している。この評価技術については、非科学的方法で技術を作り、大学の客員教授になってアカデミアで研究を行い、その妥当性を検証している。
 
社内で標準評価法として使用するために科学的な意味を正しく調べておいたほうがよいと判断し、少し手間と金をかけた。あらかじめデータを揃えていたので、研究に無駄な投資も時間もかからなかった。これは、大変効率の良い研究だったと思っている。
 
科学の形式知になった評価技術を用いて酸化スズゾルに帯電防止層として使用可能な導電性があることを見出し、その製造条件も技術として創り上げることができた。
 
 

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