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2016.01/20 21世紀の開発プロセス(8)

科学と技術の関係について問題意識を持つようになったのは、ゴム会社でタイヤ開発実習を体験し、その成果発表会でプレゼンテーションを行った時に頂いたS専務の辛辣な言葉がきっかけだった。新入社員の立場としてその一言はショックだった。
 
しかし、直後の人事部の激励で深く考えるまでには至らなかったが、その2ケ月後の配属の日の朝、同期が会社をやめて故郷である長野に帰ると伝えてきた出来事で、その言葉を深く考えるきっかけとなった。そのような心理状態で出会った、レオロジーの問題について電卓で常微分方程式を解くほどの有能な指導社員の言葉は、一つの解答のように思われた。
 
タイヤ開発実習は、オイルショック後という状況を如実に表していたテーマで、「タイヤの軽量化設計に必要な因子探索」という課題だった。但し、実習期間である2ヶ月で一つの結論を出さなければいけないという厳しいテーマに思われた。それは、世界12社のタイヤを解剖してデータを収集し、軽量化因子を探すという作業である。早い話が、新入社員6人の人海戦術で行えるように考えられたリバースエンジニアリングである。
 
しかし、実際にタイヤを解剖しデータを収集してみたところ、これが大変なことになった。同じサイズでありながら、重量が重いタイヤから軽いタイヤまで800g(1本のタイヤ重量の約10%に当たる)ほどの分布があり、さらに各社タイヤの構造がばらばらで、これをどのようにまとめるのかデータを集めた後で問題になった。
 
テーマを指導してくださった方も予想外の技術のばらつきにびっくりしており、新入社員技術発表会をどのように乗り切るのか頭を抱えていた。この時調査した乗用車用タイヤ1本の重量は8kg前後であり、40以上の部材で構成され、この部材の個数も各社ばらばらならば形状も様々で、軽量化傾向をどのようにまとめるのか誰もアイデアが無かった。
 
そのとき、統計学に強い同期が多変量解析を提案してくれた。データは12組であるが、多変量解析でデータを整理したら何か傾向が出るかもしれない、と言うことになり、多変量解析できるようにデータを整理しなおした。ゴム会社には当時IBM3033という大型コンピューターが開発部門に解放されていた。
 
そのパッケージに多変量解析パッケージがあったので、1000ページ近くあった英文のマニュアルを皆で分担して理解し、何とか3日で多変量解析パッケージを使えるようになった。メンバーには生まれて初めて真剣に勉強をした(注)、という不心得者もいたが、この作業は、専門の異なるメンバーがお互い先生になり自分の割り当てられたところをわかりやすく他のメンバーに説明しなければならなかったのでそれぞれの個性がわかり面白かった。(22日へ続く)
 
(注)英文のテキストをただ翻訳するのではなく、それを理解し、他人に説明するという一連の作業を短期間に行う課題は、専門外には地獄の作業となる。しかし、メンバー全員大学院まで修了していたので、それができるはずだ、という意気込みで取り組んだが、ほとんど徹夜作業になった。おそらく学生時代ならば適当にやっていたかもしれないが、初めて担当した責任ある仕事として、皆一生懸命取り組んだ。残業代も無ければ深夜勤務手当も無い仕事であったが、楽しい思い出である。
 

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