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2016.04/09 高分子の融点(1)

物質の熱的変化については、材料を実用化する上で重要な情報なので古くから研究されてきた。今でも研究テーマとして存在し、アカデミアで研究される永遠のテーマのように思われる。
 
金属材料についてはほとんど解明されているが、高分子についてはまだ科学的に解明されていない部分が存在し、高分子学会の年会でも必ずこのテーマの発表がある。
 
ところが、高分子の熱的変化を考えるときに、まずその状態変化を正しく認識することが必要だが、科学的に解明されていない部分も存在するので大学の先生に説明を伺うと歯切れの悪い答えが返ってくる。
 
学生時代にびっくりしたのは、ガラス転移点(Tg)の説明を授業で聞いたときに、高分子だけではなく物質すべてに存在する、と教えられた。この先生はおそらくガラスの定義をご存じなかったのだろう。
 
物質の固体状態には、結晶と非晶の二つの状態が存在し、非晶状態にガラス状態とそうでない状態が存在する。ガラス状態で観察されるのがガラス転移点であり、ガラス状態ではない非晶状態では、ガラス転移点が存在しない。
 
だから、無機物質でガラス状態をとらない、あるいはとることが出来ない材料(注)にはガラス転移点が観察されない。高分子の先生だから無機材料のことをご存じなくても良い、という話にはならないだろう。
 
技術者なら知らなくてもアイデアが出にくくなる程度で済まされるが、高分子科学の研究者ならば、なぜ高分子にはすべてガラス転移点が存在するのか、という疑問を持つ必要がある。
 
(注)例えば非晶質酸化第二スズにはTgが存在しない。ちなみに高純度二酸化スズ単結晶は絶縁体であるが非晶質酸化第二スズは半導体から導体までの様々な電気特性を有する。また、ATOやITOと異なる導電準位も見出された。DSCとTGA、ガスクロによる解析から微量の水分が効いている。またインピーダンスや活性化エネルギーの考察から、電子とプロトンの両者がキャリアであることも実験で見出したが、データの信頼性に問題があったので発表していない。非晶質の研究は難しい。しかし、帯電防止剤として実用化している。ロバストを確保できれば科学で信頼性が乏しくても実用化できるのである。科学と技術の相違点である。

カテゴリー : 高分子

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