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2017.05/28 仮説で排除されたアイデア(6)

当方の努力で軟質ポリウレタンフォームのような自立できないサンプルまで測定できるように自動酸素指数測定装置を改良できた。その成果を披露したところ、この装置は購入時にもっと便利だった、という意見が出てきた。

 

すなわち、サンプルを取り付ければボタンを押すだけの操作で「誰でも」LOIを計測できたからだそうだ。だから、当方の改造後それが面倒な手順になった、という批判が出てきた。

 

発泡体では燃焼スピードが速くて計測できないので誰も使用しなかったのではないか、とこのような意見に反論してみたが、反論しながら疑問がわいてきた。設備導入直後の頃に、なぜ、この設備が使われていたのか、という疑問である。

 

すなわち、発泡体すべてがこの装置で測定できない燃焼速度ではなく、開発初期には、この装置で測定できる燃焼速度の遅い発泡体が存在したことになる。そして、難燃化技術の開発が進んだ結果、燃焼速度の速いサンプルができるようになって、この装置では測定できなくなった。

 

これは、開発初期に難燃性が高い材料(燃焼速度が遅い材料)だったのが、難燃性が低い材料(燃焼速度が速い材料)へ開発が進められたことを意味する。

 

詳細を省略(注)するが、この疑問から当時建材の難燃試験で採用されていたJIS難燃2級という評価試験法の問題を発見することができ、通産省建築研究所で新たな規格を策定しなおすときに、お手伝いをすることになった。

 

このあたりの状況は以前にも書いているのでそちらを読んでいただきたいが、科学的に決められた評価試験法のおかげで、この時代にとんでもない材料(注)が各社から開発され、高防火性天井材として認可されている。

 

JIS難燃試験法は、科学的に検討され制定されている。その結果、試験法の研究過程で用いられた仮説から排除された現象が生じた場合には、それに対応できない評価法となる。

 

燃焼という現象を防ぐ機能を備えた高分子の難燃化システムは、その評価法を基準に開発されている。しかし、実際の火災では様々な現象が発生しており、それらの現象をすべて包括して評価する方法を科学的に作り出すことができるのだろうか?

 

それが可能となるためには、実火災について生じているすべての現象が不変の真理として解明される必要がある。

 

(注)JIS難燃2級試験法で試験を行ったときに、サンプルが熱変形し試験用の炎から遠ざかると、サンプルに着火せず不燃材という判定になる。この試験法が検討されたときにサンプルが炎から逃げるように変形し、さらにサンプルが爆裂しない状況を想定していなかったためである。天井材の開発過程で、熱で容易に餅のように膨らみ変形するサンプルが、高い難燃性を有している、との評価結果がJIS難燃2級試験法で得られた。そこでプラスチック天井材の業界で変形し安定に炎から逃れるようなサンプルが開発されるようになった。その結果、難燃化技術のあるべき姿である「燃えにくくする」ということが忘れられて、科学的に「うまく炎から逃れるように膨らむ材料」の開発が進められた。「燃えにくくする」開発が進められていた時には、自動酸素指数測定装置を使用できたのだが、「膨らむ材料」の開発を進めるうちにこの自動化装置では測定できないような燃えやすい材料へ退化していった。これは国の研究機関も含めて科学的研究開発が生んだ悲劇の事例である(実際に火事が多発するようになったので、喜劇ではない)。科学のプロセスでは、稀に、このような間抜けなことが起きているのではないか?この事件では偉い大学の先生まで「科学的に正しい論理」だが、「実用上は火災の原因となり、経験から判断して間違っている」とんでもない論理を展開したため業界すべてが間違った方向へ向かった。経験から判断すればおかしい見解でも、アカデミアの科学的な見解であればそれが正しいと判断される科学の時代に改めて疑問を持った。しかし、以前この欄でも書いたが、科学的に正しい、とされた見解について、その間違いを示すには、やはり科学的に示さなければ認めてもらえないのが、科学の時代である。経験上とか感覚的になどと言っていると軽蔑さえされる。しかし、技術者の経験上おかしい、という判断は重視すべきだと思う。STAP細胞では優秀な研究者が自殺する事態にまで至っている。

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