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2018.05/01 上司からの手紙

ゴールデンウィークで世間が長期休みの間に少し部屋の片づけをしている。今の事務所へ引っ越した時にほとんど整理もしていなかったので1日では終わらない。今日もその続きをしようと思ったら、昔上司から頂いた手紙が本の間から出てきた。

 

無機材質研究所へ留学中に二度目の昇進試験を受けるタイミングで頂いた手紙である。その前年は、無機材質研究所に入所し、昇進試験に落ち、無機材研総合研究官猪股先生から昇進試験に書いた内容を実験してみたらどうだ、但し1週間だけだ、と言われたことを思い出した。

 

そして、その1週間で高純度SiCの製造プロセスを実証でき、数gの高純度SiCが得られた。無機材質研究所で実験をして得られた結果なので、無機材質研究所から基本特許を出願している。この出願については、ゴム会社も合意している。

 

一度目の昇進試験については、事前に留学前の同僚から聞いていた「あなたが推進したい新事業は何か」という問題だったので、あらかじめ作成していた高純度SiCの低コスト製造プロセスを武器に半導体治工具などのエンジニアリングセラミックス開発、将来はSiCウェハーを開発する夢を昇進試験の解答として書いていた。

 

新事業企画として合格点がとれたはずの内容であり、また、その後先行投資で始まった開発は、30年以上経った今も答案に書いたような事業として続いている。

 

ところが当時無機材質研究所で電話越しに人事部長から告げられた結果は0点だった。作文で0点をとったのは、人生でこの時だけである。あまりのショックで電話を受けながら言葉が無かったが、それを猪股先生が察して、1週間ではあるが、小生にチャンスをくださったのだ。

 

小生はそのチャンスを生かし、その2ケ月後には、ゴム会社の社長から2億4千万円の先行投資の決裁書を頂くのだが、この上司の手紙には、二度目の昇進試験を受けてほしい思いが書かれていた。

 

上司はその一年後癌で他界されたが、手紙を読みながら上司の目に映っていた自分の姿が思い描かれた。当時の小生には複数のヘッドハンティングの会社から勧誘が来ていた。

 

留学前生活してた独身寮にその書類が届いていたので、人事部経由でそれらの手紙が届けられ迷惑した思い出がある。宛先から小生から請求したわけではないことは自明だが、上司はおそらく転職を心配されたのではないか。

 

この時は、転職など考えていなかったのだが、昇進試験に落ちた部下の気持ちを察してのことだったのだろう。この上司の数々の心配はありがたかったが、昇進試験の後遺症は猪股先生のご配慮で人事部長から電話を頂いた1週間後には無くなっていた。

 

また、人事部長の0点という粋なメッセージで、昇進試験に落ちたことはショックではあったが、その内容に対する当時の基礎研究部門の評価を推し量ることができた。

 

ただ、経営陣は基礎研究部門に批判的で、基礎研究部門の役員が半年後には交代するのだが、それゆえ当時の小生に期待されている方々を信じ、1週間不眠不休で実験を推進し結果をだしたのだ。

 

若い技術者に伝えたい。組織で働くときに夢がいつも支持されるとは限らないが、もし一人でも経営陣にその夢に期待する人がいたならば、その夢を実現できるよう誠実真摯に直属の上司に語ることである。それが未来を拓く大きな夢であれば社会が必ず応えてくれる。

 

今日はメーデーだが労働者の祭典も労働者の夢を語る祭典にしてはどうか。古いイデオロギーの時代はすでに終わり経営者と労働者が夢を同じにする時代である。

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