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2018.06/22 材料科学

高分子材料の開発過程で観察される現象について金属やセラミックスと比較すると、科学的に説明できる範囲が限られているような気がしている。

 

金属やセラミックスでも経験知や暗黙知に頼らなくてはいけない部分も多いが、昨年末から今年にかけて問題となったようなデータの捏造が科学の進歩で安心してできるレベルになってきた(皮肉ではない。恐らく担当者の気持ちもこのような感覚を持っていたのだろう)。

 

ところが今でも高分子材料では、同様の捏造には高いリスクが伴う。まだ科学でうまく説明できない現象が多いからだ。高分子材料科学は、この40年間にアカデミアの努力もあり大きく進歩した。しかしセラミックス材料をかつて研究した経験から高分子材料を眺めたときに、果てのない世界に見えてくる時が今でもある。

 

高分子材料を真剣に研究した経験がないので、勝手な印象しか表現できないが、セラミックス材料よりも研究者の数が多いにもかかわらず、高分子材料科学の進歩が遅いのは、研究者の問題というよりも非晶質の理解が難しいことによると「感じている」。

 

高分子材料の非晶質部分は、すべてガラスであるが、密度の高いところと低いところがある。密度の低いところでは室温で高分子の枝が分子運動をしている。すなわち、動いている。この部分は部分自由体積と呼ばれているが、この量がばらつくと高分子の密度もばらつくことになる。

 

密度がばらつけば、密度の関数である弾性率や屈折率、誘電率がばらつく。弾性率がばらつけば引張強度もばらつく、といった具合に成形体で要求される高分子物性ばらつきの原因はこの部分自由体積と呼ばれるところにある。

 

また、高分子材料は、目標とする性能を新たなブレンドで実現しようとしたときに、やってみなければわからない点が多い。そのとき、混練のプロセシングでさえ科学で満足な説明ができない状態で、どのように材料開発を進めたらよいかは経験を頼りに工夫も必要になってくる時がある。

 

例えばPPSと6ナイロンを混練で相溶できる、などと教科書には書かれていない。書かれていないだけでなく、そのような現象を否定する説明が書かれている。相溶しないとされるブレンドなので、やがてはスピノーダル分解をして相分離するが、一度相溶してから相分離した材料と一度も相溶しなかった材料では同一組成でも脆さの指標である靭性が異なっている。

 

ゆえに混練プロセスを工夫し、相溶した材料や一度相溶させてから冷却速度を遅くし相分離させた材料、急冷しても相分離している材料をプロセシングで創り出すことが可能である。この3種の材料は、力学物性だけでなく電気特性も異なる全く別の材料となっているが、化学的組成分析では同じものである。

 

このような現象を一度でも体験すると高分子の材料設計では、目標とするブレンド組成について、一度組成を大きく変動させたサンプルを作ってみて自分が必要としている組成の位置づけを見てから開発を進めるといった、泥臭い方法が重要になってくる。

 

当たり前の結果しか出ないかもしれないが、当たり前であることも確認してから進めないと足元をすくわれる可能性があるのが高分子材料の世界である。もしこの実験で当たり前で無い結果が出たならフィーバーするかびっくりして腰を抜かすかすればよい。落胆してはいけない。

 

その後は、ゆっくりと落ち着いて知識の整理を行い、それから研究開発を進める姿勢が大切で、当たり前で無い結果を理解できない結果として捨て去ってはいけない。20年近く前に日本写真学会から賞を頂いた高靭性ゼラチンは捨てられていた実験結果を拾い上げた成果である。

カテゴリー : 一般 高分子

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