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2019.06/25 高分子のプロセシング技術(6)

これは、1980年代に日本で起きたセラミックスフィーバーと呼ばれる無機材料のイノベーションの成果である。

このイノベーションが米国を刺激して、クリントン大統領は国家ナノテクノロジー戦略をスタートする。

こうして始まったナノテクノロジーの世界的潮流に日本も飲み込まれてゆくのだが、材料の構造制御技術を一気にナノ領域まで高め、20世紀末に金属やセラミックスの材料科学が大きく進歩した。

そして、無機材料では結晶構造を基本とした形式知の体系が完成した。バブル経済崩壊の影響もあるが、金属材料やセラミックス材料を冠した研究講座が多くの大学で廃止されたことからもこの状況を理解できる。

その結果、金属やセラミックスのプロセシングでは、仮にその中間がブラックボックスだったとしても、目標となる同一の結晶構造を製造できるプロセシングを見つけさえすれば、類似機能の材料をとりあえず製造することが可能となった。

しかし、高分子では、ミクロ構造の写真が今でも科学の研究対象となったりする。このようなミクロ構造解析の難しさだけでなく、仮に配合組成の分析ができたとしても、同一機能の材料を第三者が製造することができない、といったことが生じる。

あるいは、同一配合組成であっても劇的に機能が向上したコンパウンドを第三者が市場へ突然供給してくるケースもある。

例えば、10年ほど前にレーザープリンターとスキャナー、ファックスが複合化されたカラー複写機(MFP)に用いる機能部品の一つ、中間転写ベルトの開発2)を担当した。

中間転写ベルトは、YMCK別々の感光体ドラムに描かれた4色のカラートナー画像を紙に転写する前に一度この上に完成された画像情報としてまとめる部品である。そのため、ベルトは、表面全体が均一な抵抗値の半導体となっていなければならない。

この開発では、国内一流メーカーの納入していた、ポリフェニレンスルフィド(PPS)と6ナイロン(PA6)、カーボンという配合組成のコンパウンドについて、原材料や配合組成をそのままに、まったく異なる高性能なコンパウンドをカオス混合技術3)4)による混練で短期間に開発している。

このプロセスだけが異なる高性能コンパウンドを用いてベルトを製造したところ、面内の抵抗変動がわずかで靭性も国内一流メーカーのコンパウンドよりもはるかに向上した高性能ベルトを押出成形で製造できた。

この成功要因は、外部の技術がブラックボックス化されていたので、独自のカオス混合技術を開発しなければいけなかった点にある。そして、この技術でPPSとPA6を相溶5)させるというフローリー・ハギンズ理論で否定される現象を活用し、原料や配合組成は同一でもその性能が全く異なる材料を開発できた。

カテゴリー : 高分子

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