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2020.03/12 物質を溶媒に分散

物質を溶媒に分散するときに発生する現象は奥が深い。例えば水に砂糖を溶かしたり、塩を溶かしたりして観察される現象は同じように見えても、かたや高分子が低分子に分散している現象であり、かたや結晶が溶解しイオン化している現象である。

 

いずれも水分子が、イオンなり高分子の周りにくっついて(これを溶媒和という)塩なり砂糖を水に分散してゆくのだが、あるときは塩が溶けにくく、ある時は砂糖の方が溶けにくかったりする。

 

溶解度曲線や結晶の融解エンタルピーなど知っておれば理解できる現象であるが、高分子を高分子に溶かし、分散するという話になると途端に難しくなる。

 

この現象を考察するときにフローリー・ハギンズ理論が用いられるのだが、この理論が大学でまともに教えられるようになったのは30年ほど前からだ(福井大学の客員教授時代に1時間この説明に費やしてから、SiC前駆体合成法の説明をしている)。少なくとも40年以上前、当方の学生時代に化学を専攻している学生に対してこの理論がまともに講義で扱われていない。

 

ただ試験に20点の配点でいきなりフローリー・ハギンズ理論を説明せよ、という出題があった。何か一言書いてあれば10点はもらえたサービス問題だった。

 

若いころ試験に対して真摯さが無く、無駄な抵抗をしなかった。あえなく追試を受けることになったのだが、おかげでトラウマの如く仕事の現場で高分子のブレンドを行うたびにフローリー・ハギンズ理論を思い出す(注)。

 

樹脂補強ゴムや高純度SiCの前駆体合成技術を開発した時もΧが頭をちらついた。「先ず隗より始めよ」と聞くと、「まずΧより始めよ」と頭に出てくる。ちなみに先に述べた高分子の試験ではこの一言を書いて追試を免れた学生もいた。

 

樹脂補強ゴムを開発していた時に指導社員からΧよりも実際にSP値が既知の溶媒へ高分子を溶解してSP値を求め配合設計した方が良い、と教えられた。高分子のブレンド設計の実務では、まずSP値より始めよ、が正しいのだが、それでもΧがちらついた。

 

溶媒へ高分子を溶解しSP値を決める手法は、高分子だけでなくフィラーにも応用でき、すなわち無機微粒子の表面のSP値という概念まで拡張可能で、配合設計では有効な方法だ。

 

しかし、高分子のブレンドではΧで考察するのが正しいようなことが最近の教科書に書かれている。物質を分散するという実務において、SP値が既知の低分子溶媒に溶解してみてその物質のSP値を決定して配合設計したほうが良いことを経験知から推奨したい。

 

ちなみにSmallの方法で簡便にSP値を計算できるが、当たる確率は60-70%程度である。ひどい時には溶媒から求めた場合と大きく異なる時もあるので、大切な配合設計を行う時には手間がかかるが溶媒に溶解してSP値を決定した方が良い。

 

(注)PPSと6ナイロンの相溶した中間転写ベルトの開発では、フローリー・ハギンズ理論に対するトラウマが役立っている。人生では失敗を後悔するよりもその後に役立てる心がけが重要である。長い人生では失敗がその後の人生に良い影響を与えていることを味わうことができる。

カテゴリー : 一般

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