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2022.05/20 主成分分析(2)

主成分分析を使用した成果で衝撃的な思い出は、電気粘性流体の耐久性問題を解決した仕事である。この仕事が原因でFDを壊されるような業務妨害を同僚から受け、研究所内で事件は隠蔽化された。


高純度SiCの事業を住友金属工業(当時)とJVとして立ち上げたが、研究開発活動にも障害が生じ諸事情を鑑み転職している。バブル崩壊直前の出来事である。


電気粘性流体をゴム製のケースに入れて使用するデバイスの開発を検討していたチームがあった。社長方針の3つの柱(ファインセラミックスと電池、メカトロニクス)の一つ、メカトロニクスの目玉として高純度SiCの企画と同じころ、電気粘性流体の開発がスタートしている。


しかし、耐久性問題を解決できず性能も低かったので研究段階に留まっていた。新しく着任したゴムのことを知らない研究所出身の本部長が添加剤も何も入っていないゴムを開発せよと、技術者には信じられない指示を出した。


新入社員時代に樹脂補強ゴムを開発した実績から、高純度SiCの事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げた当方にゴムの研究者でも考えないようなテーマが巡ってきたのだ。


なぜこのような馬鹿げたテーマが研究所で企画されたのか。原因は、電気粘性流体の耐久性劣化の原因がゴムに含まれていた添加剤が電気粘性流体に流出して増粘する現象だったからである。


この開発メンバーは界面活性剤を電気粘性流体に添加して解決しようとしたところ、あらゆるHLB値の界面活性剤で問題解決できなかったので、否定証明を用いて電気粘性流体の耐久性問題は界面活性剤で解決できない、という研究論文を本部長に提出していた。


その研究論文は、アカデミアよりもアカデミックな研究所で東大や京大はじめ高偏差値の大学院出身スタッフがまとめた科学的に完璧な論文で、本部長は高く評価した。その結果、添加剤も加硫剤も何も入っていないゴムを開発せよ、という指示になった。


当方は界面活性剤のカタログデータについて主成分分析を行い、界面活性剤の機能がHLB値だけで記述できないことを見出した。


すなわち、第一主成分はHLB値となったが、第二主成分に粘度へ寄与の高い結果が得られた。そこで、第一主成分と第二主成分の象限で界面活性剤の主成分得点を用い、分布を検証した。


驚くべきことに、第一主成分の軸の周りに60%前後の界面活性剤は分布したが、40%は、第一主成分の軸から距離のある所に分布していた。


この40%の界面活性剤を中心にして実験を行い、一晩で耐久性問題を解決できる界面活性剤を見出すことができた。ところが、上司はこれは界面活性剤と表現するな、とアドバイスしてきた。


アカデミックな研究を進め、界面活性剤とは異なる界面活性効果を持つ物質第三成分である、というのだ。新しい学問を創り出すことはアカデミアの重要な活動だが、これはいかがなものだろうか。


首を傾げつつ、第三成分として界面活性剤の見直しが進められることになった。上司は電気粘性流体の粒子についても性能の良いものを開発するように指示してきた。


1週間ほどで傾斜粉体はじめ特殊な3種の粉体を開発し電気粘性効果を測定したところいずれも高く安定な電気粘性効果を発揮した。研究開発の妨害がエスカレートしたのはそれからである。


今マテリアルインフォマティクスはAIを用いて研究が進められている。人間がデータサイエンスで科学により未解明な真実を見出すと研究者から嫉妬などの問題を生じるが、AIならばそのような問題は起きにくいだろう。


ただし、当方の経験ではAIに任せるよりも、人間がデータサイエンスを使いこなし、新たな知識を見出す活動のほうが楽しいように思っている。新しい知識の発見を快楽の一つにできるのは、知的動物である人間の特権である。

カテゴリー : 一般

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