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2022.12/05 知識不足の技術領域の問題解決

30年以上前に電気粘性流体のテーマを担当させられた時には大変だった。高純度SiCについて住友金属工業とのJVを立ち上げていた時である。社内のプレゼンテーションで技術内容の概略を理解していてもプロジェクトの先端成果情報をまったく知らされていなかった。


リーダーに実験結果等の情報を見せてほしいと言っても社外との秘密保持契約を理由に見せてくれない。それどころか手足として仕事をすればよい、とひどいことを言ってきた。


加硫ゴムについて研究所で一番詳しいのは当方だと持ち上げておきながら、一方で開発したゴムの評価は当方がやらなくてよいとも言った。同じ研究所内でも実験結果を見せてもらえず、それでいて問題解決を目指せ、という無茶苦茶な指示である。


また、高純度SiCの業務を止めてゴム開発に専念するのは、U本部長から交代するI本部長の指示だ、という。1週間ほどI本部長が就任するまでに時間があったので、一晩徹夜して電気粘性流体の耐久性問題を考えることにした。


ただし、情報としてあるのは、リーダーが見本として持ってきた耐久試験を終えてヘドロのように増粘した電気粘性流体だけである。


それを手持ちの300個ほどのサンプルビンをすべて使用し小分けした。タイヤ材料部門の知人にもお願いして社内にある界面活性剤をすべて集め、そこへ添加して一晩おいた。


自宅に帰り、MZ80Kで界面活性剤のカタログデータを主成分分析し、結果をPC9801にパラレルインターフェースを介して送った。ロータス123でグラフ化して驚いた。


界面活性剤がHLB以外の因子でその機能を制御できることが示されていた。ただし、そのような機能を持っているのは20%未満の界面活性剤である。


翌朝、ヘドロのような電気粘性流体と界面活性剤とを混ぜた300個近いサンプル瓶を眺めたところ、サラサラになっていたサンプルがいくつかあった。そのうちの一つは完全にもとの粘度を回復していた。


それらの効果を示した界面活性剤は、主成分分析で予測された界面活性剤だった。このような情報不足の中でデータサイエンスにより問題解決できた体験は、その後の技術者人生に貴重だった。


U本部長からI本部長へ交代する、この空白の1週間に傾斜機能粉体や超微粒子分散粒子、コンデンサー分散粒子の企画立案と実験を行っている。


これらの粒子は、いずれも当時検討されていた粒子よりも高い電気粘性効果が出て特許も出願されている。このように技術情報が乏しくてもデータサイエンスのスキルがあれば問題解可能である。これが科学の方法と異なる長所である。

カテゴリー : 一般

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