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2023.06/27 化学反応と数理モデル

現象を数式で表現して数理モデルが得られる。コンピューターの無かった時代には、物理現象を長さや重量でモニターして求めていた。計測されたデータが化学反応と量的に関係していることがわかると化学反応速度論が展開されるが、これが経験知であることをご存知だろうか。


当方は半導体治工具用高純度SiCについてフェノール樹脂とポリエチルシリケートとの均一混合物から世界で初めて合成に成功したのだが、この反応の均一性を証明するために1983年に超高速昇温熱天秤を開発している(注)。


SiCはシリカと炭素との反応で合成されるシリカ還元法が量産プロセスで用いられている。アチソン法もシリカ還元法の一種であるが、シリカ源と炭素源に高純度化合物を用いても高純度SiCを得ることができない場合がある。


副生成物としてSiCウィスカーが得られたり、未反応のシリカが残ったりするからである。分子レベルの均一性が実現されない限り、高純度SiCの合成は難しい、と判断し、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとの反応システムを開発している。


そして、その反応の均一性を証明するために2000℃まで1分以下で昇温可能な超高速昇温熱天秤を開発した。そしてシリカと炭素の反応で生成するCOの量を重量減少としてモニターし、高純度SiC生成の数理モデルを得ることに成功した。


反応は核生成が最初に起きるアブラミ・エロエーフの式と一致し、シリカと炭素が分子レベルで均一に混合されていることが経験知から求められた。


過去の反応速度式も含め、速度論的研究で得られている成果は大半が経験知である。高純度SiCの生成についても核生成の直接の確認は難しく、反応進行とともにモニターされた重量減少曲線を解析し誘導期間の存在を見出すことが精いっぱいできることである。


1650℃で反応している途中の物質を室温まで冷却し、核生成を観察してもわずかなSiCの生成とシリカと炭素の混合物以外を見出すことができなかった。


すなわち化学反応で数理モデルを組み立てたときのその証明が難しいのは、活性化状態の検証である。ゆえに得られた成果は経験知とせざるを得ないのだが、一部の有機化合物の反応では活性化状態で反応を停止させることが可能で、その活性化状態の観察に成功している事例も存在する。


(注)SiCの反応速度論については中部大学でまとめられた当方の学位論文に詳しく解説している。この研究は、ゴム会社で単独で行われたのだが、某国立大学の先生が学位を出すからデータを見せよというので見せたところ、勝手に論文を出されてしまった。一応末席に当方の名前はあるが、研究には全く関与していないこの先生はその後自分の成果の如く学会でも講演された。その後写真会社へ転職した時に他の先生から写真会社から奨学寄付金を、と言われたので丁重に学位の件をお断りした。その後についてはドラマのような話が展開されるのだが、当方はこのような経緯からSTAP細胞の一連の騒動について大変心を痛めている。小保方氏が本当に学位に値しないかどうかは当方の判断するところではないが、小保方氏にはもう一度学位にチャレンジしていただきたいと期待している。学問とは、他人の研究を自分の研究のようにしてしまう優秀な人により進歩しているわけではないのだ。今朝ドラで放送されている小卒の学者や雑草のようなたくましさで現象にチャレンジしている多くの無名の研究者の努力がその裏にあることを知っておくべきである。半導体治工具用高純度SiCの発明では、学位以外の栄誉を当方は受けていないが、この仕事では日本化学会技術賞をはじめセラミックス協会などからも多くの受賞がある。ただし、いずれの受賞にも住友金属工業とのJVについては触れられていない問題がある。日本化学会技術賞においては、当初無機材質研究所も入っていなかった。これも偶然であるが、その時審査委員として当方が自分の発明を評価することになった。省略するが当時審査員を途中で辞退している。この一連のささやかな醜いドラマのように日本における研究成果の扱いはいい加減なところがあり、小保方氏はその犠牲になったのかもしれない、という見方もできる。彼女の発表された著書ではマネジメントの正確な姿が見えにくいが、当方の体験では、マネジメントの視点で幾つか改善すべきところを学んでいるので、いつか体験を基にした研究開発マネジメントについての著書を書きたいと思っている。日本企業でイノベーションが生まれにくい原因の一つに研究の進め方とその成果の扱いにあると思っている。ゴム会社で高純度SiCの事業が30年続いた背景には、CTOらの経営努力がある。30年間進歩しなかった基盤技術フェノール樹脂とポリエチルシリケートの反応で高純度SiCを製造したり、炭素だけを助剤にして高純度SiC治工具をホットプレスで製造する技術は、ゴム会社で企画され無機材質研究所で芽を出した成果だ。当方は当初米国留学の話があったが人事部長のはからいで無機材質研究所留学の承認が得られている。その後研究所トップは「研究開発マネジメント」の著者である浦川卓也氏になり、住友金属工業とのJVとして事業が立ち上がっている。この名伯楽だったCTOが退職して交代後様々な事件が当方にふりかかり写真会社へ転職している。イノベーションにおいてトップリーダーの役割は重要である。当方が退職後は技術が進歩することなく30年間続いた。前駆体の処方は未だにフェノール樹脂とポリエチルシリケートと有機酸の組み合わせである。

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