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2016.09/25 企画を成功させる(9)

写真会社でカオス混合プロセスのプラントを立ち上げた仕事では、高純度SiCの成功体験が生きた。ただひたすら周囲の反感を生まないように努力した。組織に歓迎されない企画ではこれが最も重要である。
 
高純度SiCの仕事では、経営層の支持が得られていたことはわかっていた。職場診断で、必ず社長が当方の仕事ぶりを見に来てくださったからだ。しかし、研究部門ではつぶれても良いテーマだという陰口がささやかれていた。
 
中間転写ベルトのテーマは、単身赴任前に所属していたコーポレートの研究所で評判が悪かった。しかし、開発を推進していた現場では、何とか成功させたいという思いが伝わるほど熱く仕事をしていた。成功させたいという思いから部下の課長は当方が計画外の仕事を推進するのを嫌がった。
 
このような問題では、コミュニケーションを図り組織を動かすマネジメントが理想の解答となる。担当者に成功させたいという意欲があるので、成功しない要因を論理的に説明し、あるべき姿を提示すれば、すぐに方向転換できる組織であることは赴任してすぐにわかった。
 
しかし、PPSと6ナイロンを相溶させる技術は、どこの高分子の教科書を見ても間違い、すなわち科学的に否定される技術だった。さらに世界初のカオス混合プロセスを開発します、という内容を理解してもらうには時間が必要だった。このような場合には「モノ」を示すことが重要で、出来上がった「モノ」を示せば皆がすぐに納得し方向転換する。
 
そのためには、世の中に存在しないカオス混合プロセスを立ち上げる必要があった。ゴム会社でお世話になっていたエンジニアリング会社社長にお願いし、プラントを設置予定の子会社の敷地と同様の広さの場所を用意していただき、そこで中古機を用いて最初のプラントを立ち上げた。
 
子会社の敷地に合わせたのは、プラントが完成したらすぐに移設するためであった。高純度SiCではパイロットプラントをいきなり建設しU本部長に叱られたが、ここでは直接生産プラントを建設するアジャイル開発を行っている。
 
この作業は、土日東京に帰った時に行われた。新幹線代は自腹である。自己責任で推進していた仕事なのであきらめはついていたが、やや懐には痛かった。別荘へ都民の税金を使って出かける前M知事が批判されるのは当たり前である。民間ではこのような仕事でも自腹を切らなくてはいけないのである。
 
このような仕事のやり方は正しくない、とわかっていても、企画を成功させるためにその方法以外に道がないならば、コンプライアンス違反にならない程度にやや非常識な手段もとらざるをえない。ただし、どのような場合でも悪事は禁止である。ゆえにセンター長に予算の手当を赴任早々お願いしたのである。
 
 
<ポイント>
新幹線代を出張旅費として請求する道もあった。しかし、当時東京から豊川へ赴任している管理職が出張と称して帰省している問題が労働組合から指摘されていた。あるいは、月曜日に東京地区で仕事を作り、金曜日夜に出張旅費で帰省する場合も問題視された。民間企業ではこのような厳しい状況であることを公務員は知るべきだろう。そして厳しい状況では、管理職は疑いをもたれぬように誠実真摯に行動しなければいけない。公費による毎週の帰省が許されないことは当時の状況では仕方がないのである。前M知事の感覚が批判されるのは当たり前だが、私費で会社の仕事のために高い新幹線代を払うのも実は問題なのである。当時の職位からそれが問題とならなかっただけである。
会社の企画を成功に導くためにどこまで自己犠牲を強いるのか、という問いはナンセンスである。自己犠牲を強いる組織はそもそも問題なのだ。しかし、自分がここで踏ん張れば企画は成功する、しかし、その方向に組織を動かすためには時間がかかる、という場合にはやはり自己犠牲覚悟で踏ん張る必要がある。本来踏ん張るべき人が踏ん張らなかったためにダメになった企画をゴム会社でいくつか見てきた経験から、企画を成功させるためにいかなる仕事でもやり通す覚悟が無い人は、企画を担当すべきではない、といえる。
少し異なるが、豊洲の移転騒動において地下の空洞問題を部門の管理者が知らなかった、と平気で言っている姿がTVで映し出されている。豊洲移転に関して一生懸命仕事をやっていませんでした、と発言しているような姿である。建築現場を一度でも見に行けば、地下空間の存在を建築途中で見つけることができたはずだ。このような人たちに都民の税金から給与が支払われ、そして都民の税金が人件費として支払われている団体へ当然のように天下りしているのである。貢献と自己実現を働く意味と信じて働いている誠実真摯な知識労働者が報われる世の中に変えてこそ生産性はあがる。真に働き方とその意識を変えなければいけないのは、公務員の管理職だろう。この問題でニュースから判断すると、一部の心ない管理職が原因ではなく、この仕事に関わったほとんどすべての管理職が業務を誠実真摯に遂行していなかった都庁の実体が見えてくる。元都庁の職員で某大学の教授を勤めておられる方が、新宿と豊洲の現場が離れていたから、と解説していたが、豊川と袋井の間を毎日往復して仕事をした経験から、新宿と豊洲は離れている距離とは思えない。都庁の1階と屋上の間の距離程度である。TVによく出てくるこの教授もその考え方が甘過ぎる.
ところで、企画に問題があり推進途中で失敗すると解った時には、踏ん張ってはいけない。できない企画を推進した責任を取り、早めに企画中断を申し出なければいけない。15年ほど前に光学用樹脂レンズの材料開発を依頼された。中間転写ベルト同様に外部に材料開発を依頼して進める企画だった。この企画では早い段階で技術的に不可能と言う結論を出したが受け入れられず、プロジェクトの担当から外され窓際になっている。プロジェクトの結末は当方の結論が正しかったが。周りが竹やりでも戦う勢いで仕事を進めているプロジェクトでは、なかなか悪い情報や悪い結論を提案しずらい。しかし、失敗する可能性を示唆する情報こそ早めにメンバーと共有すべきである。科学の方法論では否定証明は科学で完璧にできる唯一の方法と論じている。否定証明が難しい場合には、とりあえず「モノ」を完成させることである。科学でそれを説明できる必要はない。再現良くモノを作れれば生産はできる。科学で否定されても「モノ」の実体ができる場合はあるが、技術で否定された仮想上の「モノ」は科学的に正しくてもインチキである。実際にできていることが重要である。
  

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