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2026.04/23 研究開発プロセス(5)

1年間の予定で担当したテーマを3カ月でまとめ上げた。これは、学生時代に鍛えた肉体の賜物だった。指導社員により、1年間やるべきことが明確に記され、それに必要な材料がすべて準備されていただけでなく、粘弾性シミュレーションで、代表的な樹脂とゴムとのブレンド系についてふるまいが明らかにされていた。


当方は、コンビナトリアルケミストリーの手法で配合システムをマトリックスに整理し、詳細なシミュレーションデータの得られている組み合わせにマーカーを入れ、それらについては丁寧に粘弾性データを採取した。しかし、それ以外については、シミュレーション結果を参考に、特定周波数についてのみ粘弾性データを測定している。


こうした工夫により、樹脂とゴムの最適組み合わせを短期間に見出すことができ、それらの耐久データを除く基礎物性が指導社員の予備実験で得られていたサンプルと一致したので、耐久性向上を目指した改良のための配合量最適化実験だけを行えばよかった。


その耐久性実験についても指導社員から短期間でスクリーニングを行う秘伝の方法を教えられていたので1日で耐久性改良結果を得ることができた。この秘伝は、20年以上経過してから当方のセミナーで公開している。


このような実験の工夫で1年間のテーマを3カ月でまとめることができたのだが、実験室では指導社員の業務の進め方に対する批判的陰口がささやかれていた。それらの共通していた批判は、非科学的方法という視点だった。


例えば、樹脂とゴムとをブレンドして仮説通りのサンプルが得られるかどうか、シミュレーションを行う前に実験データで示すべきだ、とか、シミュレーション結果から1点の組み合わせを導き出し、その実験結果から技術ができたというのは非科学的だ、という現代から見ればやや的外れに思われる批判だった。


1970年代は、1960年代に始まった研究所設立ブームが実を結び、アカデミアよりもアカデミックな研究を行う企業の研究所が多かった。企業からの学会発表が多かった時代である。


ゆえに仮説を設定し、その真偽を確認するプロセスで研究開発を行うことが躾として厳しく指導されていた。当方の指導社員は、そのような研究所風土の中で自己流のプロセスで研究開発を行っていたので評価されず、主任研究員に近い年齢でありながら当方が初めての部下となるような処遇だった。


しかし、たった3カ月の指導で混練技術初心者に技術のツボを習得させる指導力だけでなく、数理モデルを用いた材料設計手法まで指導できる技術者だった。


非科学的と批判されていたが、シミュレーション技術を駆使し、フロントローディングによりゴールとなる材料を企画段階で創造するアジャイル開発プロセスを仕事のやり方に取り入れていた。


社会に出たばかりの当方にとって、指導社員の研究開発プロセスは刺激的であり、ダッシュポットとバネによる非科学的なシミュレーションから新たな知を見出す手法は、量子化学の授業で習った反応プロセス予測法よりも魅力的に感じた。


すなわち、分子レベルの反応や運動ではなく、マクロで起きている粘弾性のふるまいに着目したシミュレーションは、非科学的ではあるがオブジェクト指向による材料設計そのものであり、科学とは異なる研究開発プロセスを体験できたからである。

カテゴリー : 一般

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