2013.10/11 ボーイング787のLiイオン二次電池その後
昨晩高校の同窓生で東京在住者が毎月集まる東京旭丘会月例会(旧東京愛知一中会)の当番だった。そこでボーイング787の機長を務めた同期の小川良君(今年すでにJALを定年退職)に講演をして頂いた。彼はフジテレビの「矛x盾」で放送された飛行機マニアとJALの対戦にJAL代表として美人の客室乗務員町田さんと一緒に出演したTV映えのする二枚目である。
講演内容は同窓生対象なので表題の話題以外に彼の機長として、あるいはJALの元社員としての興味深い飛行機の話が大半であった。ただ、表題の話題については技術という側面を分かりやすくプレゼンテーションしていたことと、以前本欄で紹介したこともあるのでここで話の一部を取り上げた。
ボーイング787が最新鋭機として他の767や777はじめその他の7シリーズと比較しどこが優れているのか、という話の中でバッテリー不具合対策が紹介された。あくまでも同窓生対象なので、プレゼンテーションでは難解な技術用語は飛び出さず分かりやすい説明であったが、ここでは技術的に翻訳して要約する。
バッテリー事故では新聞でも紹介されたように原因解明には時間がかかり終結までの見通しが不明であった。但し、バッテリーそのものは本欄で紹介したようにGSユアサの技術力で、エラーが起きても火災を引き起こすまでに至らなかった(注1)。
そこでバッテリーに予想される不具合108項目(実際に発生するかどうかは別にして科学的に考えられることすべて)を再度見直し、対策が不十分と改めて判定された80項目(すでに対策が取られていてもリスクがあると思われる項目)すべてに新たに3重の対策を施したという。その一例が写真とともに紹介された。
この話は品質工学のFMEAという手法を3重に行っている、という内容である。このFMEAという手法は、科学の時代でも科学で解明されていない現象を含む技術の品質保証ではメーカー各社どこでも行っている“はず”の手法で、経験が積み重ねられれば品質の信頼度を急激に高めることができる。108項目についても初めてのフライト前に当然行われていた。しかし原因不明の事故が起きた、ということで重要な80項目についてさらに3重に対策を行った、という。一例では過剰品質といえるところまで行っていた(注2)。JALの安全に対する厳しさが伺われる説明であった。
電池というものは、イオンの拡散という現象で科学的に説明ができるが、その耐久性も含め、科学的に完全に説明がつかない現象も多数存在する商品である(高度な技術の商品は皆この問題を抱えている)。本欄で科学と技術を科学技術という曖昧な言葉で集約するのではなく、技術開発でそれぞれの目的が異なる点を重視している一因であるが、科学の成果と思われている商品すべてが実は技術の成果で創られており、その中には現代の科学で解明できない現象が商品に含まれている問題に改めてここで取り上げたい。
技術の成果に科学で解明されていない現象が含まれているかもしれないのでFMEAというヒューマンエラーを防止する対策を行うのである。ただ、ここで注意しなければいけないのはFMEAそのものは科学的視点で行われている、ということだ。すなわちFMEAを行っても科学で理解されない現象が起きればせっかくの科学的論理で導かれた対策をくぐり抜けてエラーが発生する。このようなエラーは科学で理解できないので「経験」という行為を積み重ねる以外に防げないのである。
ゆえに市場でエラーが発生する度にFMEAを繰り返しているのがメーカーの品質管理のやりかただが(注3)、それを一気に3重まで一度に行う、というやりかたは初めて聞いた。だからボーイング787は今無事に飛べるのである。
傾斜のある土地にタンクを並べその最上段に1個だけセンサーをつけて安心して汚染水を垂れ流していた東京電力はJALを見習うべきである。科学の初歩的な学力があれば分かる現象でミスが発生する間抜けな状態(注4)というのはFMEAが行われていないことを意味している。
(注1)飛行機には発電装置が8基あり、これがすべて壊れたときにさらに2基あるバッテリーが使われる、という安全に安全を重ねた多重の対策が成されている。ゆえに新聞で報道された事故で飛行機が墜落することは無いそうだ。
(注2)関連メーカー技術者を含めた企業の横断的プロジェクトで推進された、ということでGSユアサの技術者も加わっていたはずである。
(注3)車のリコールは恥ではなく技術を高める活動の一つである。ゆえにそれを隠蔽するのは罪だけでなく技術開発を放棄している行為である。
(注4)今回の汚染水漏洩は、連通管と同じ原理に設計してセンサーを1個にした、というならば間抜けな対策である。傾斜した連通管で一つだけセンサーをつけるならば傾斜した最も低い位置にある管にセンサーを1個取り付けるのが常識である。傾斜した連通管の最も高い位置に取り付けたのは、「間抜け」か「意図的」なのかどちらかである。もし後者ならば犯罪である。永遠に水を貯めることができるタンクと称して汚染水をこっそり垂れ流すことができるので今回の事件は犯罪の可能性もある。犯罪でなければ東電の技術者は中学生レベルと見なすべきである。
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