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2013.10/12 第54回電池討論会で面白かったこと

今週は3連休になり、今日はその初日。今週は久しぶりに刺激の多い1週間だった。特に電池討論会は面白い発表が幾つかあり、楽しむことができた。その中でもJFEテクノリサーチの発表は、半沢直樹の倍返し以上の面白さであった。

 

JFEテクノリサーチの発表のどこが面白かったのか。それはLiイオン二次電池の負極材料として注目を集めているシリコン(Si)を扱っていたからではない。ただそれだけならば、AKB48をゲストに迎えた歌番組と同じで大した魅力は無い。AKB48のセンターがその番組で突然卒業発表するという程度の衝撃も越えた面白さである。

 

Liイオン二次電池でSiを負極に用いた時には、カーボン負極のようなインタカレーションではなく合金化によりLiイオンが安定化する。かつてソニーが「Liイオン二次電池」と「イオン」という言葉をわざわざ用いたのはLi金属を用いていないので安全をアピールするためと言われているが、これは安全で高容量のLi二次電池を設計するときの設計指針でもある。

 

すなわち、Li二次電池では、Li金属の形態で析出しないように設計することが二次電池の安全につながる、という考え方である。Si負極ではインタカレーションではなく、合金化によりLiを安全な形態にでき、さらに高容量化できるので注目を集めている。ちなみに最も高容量化できる負極はLi金属を用いたときであるが、Na金属やLi金属は水分と接触すると発火するので負極に用いることはできない。

 

現在のところLi二次電池を高容量化するのにSiが最も安全な負極材料であるが、Liイオンを合金化すると体積膨張が生じ負極がぼろぼろになる。ゆえにLiイオンを安定に合金にできるSi負極材料はそれなりに工夫した設計が重要になる。この材料設計において、技術的に試行錯誤で有望な材料を試験して見つけてゆく方法とJFEテクノリサーチの発表のように科学的に一歩一歩攻めてゆく方法がある。電極材料は後者の方法が良いように思うが解析技術や装置において一企業では難しくアカデミアの仕事と思っていた。

 

昨今のアカデミアの状況は企業の開発に近いような研究をされている先生が多く、やや残念に思っているが、アカデミアも30年前に比較すると厳しい状況になってきたので仕方がないのかもしれない。しかし、JFEテクノリサーチで行われたような研究はアカデミアから発表があるべき内容と思われる。そのくらい質の高い研究発表であった。

 

その内容については先日書いたが、LiイオンがSi結晶と合金化するときのメカニズムに関わる研究で、Si結晶の特定の面からLiイオンがSi結晶内に拡散するという内容である。充分な分析データを解析して得られた結論であるが、この結論はSi負極の研究が、Si単結晶を用いる半導体分野の研究や有機合成における有機金属であるSi化合物を用いた合成反応とつながってゆく面白さがある。この面白さはAKB48の突然の解散劇(はまだ行われていないが)よりも面白い。

 

すなわちある程度は予想されたが、実際に起きた現象は筋書きからずれていた、という面白さである。LiイオンがSi単結晶と合金化する機構については、Si単結晶のエッチングや、Siの種結晶を用いた結晶成長、あるいはSi基板上におけるGaNの結晶成長などを観劇してきた人には筋書きが見えていた。しかし実際に演じられた結果はむしろ有機金属化合物の反応機構までつながる面白さがあったのである。

 

JFEテクノリサーチの発表は、麻里子様の卒業発表よりも数段おもしろかった。アカデミアではなく企業の研究である点にも注目すべきである。今の日本は産業界がアカデミアに負けないぐらい基礎研究の力をつけているのである。技術が科学を先導する時代なのかもしれない。

 

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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