文科省が社会人教育に力を入れ始めた。ネットサーフィンをしていたらW大学で某企業フェローが大学院の学生に向けて送ったメッセージを見つけた。
そのフェローは、その内容から自己の人生には満足しながらも、一方でそれを覆い隠して後悔しているかのような不誠実な語り口であったようだ。
その内容は学生にためになることを話しているようでも、「博士の学位は企業で何の役にも立たない」とか、企業では、「専門能力が秀でていること」よりも、「皆ができることを普通にできる人が良い」とか、誤った組織論を展開していた。
一方で、「ビジョンを持った社会人になってほしい」と当たり前に良いことを発しながらも、「フェローまで昇進した自分は、そのような人生を送ってこなかった反省がある」と、聞きようによっては皮肉になるようなことを語っている。
この人物の公開されたメッセージメモを読むとドラッカーがいうところの誠実とは何か、ということを理解するのに役立つ。なぜなら、部分を見ると誠実そうに語っているようで全体が不誠実なメッセージだからだ。
ところで、このフェローの語った「博士の学位が企業で価値がない」という説だが、これは誤った認識である。「学位を持っていてもそれにふさわしい働きをしなければ、学位をその人物の価値の尺度として評価しない」というのが正しい。
これは、肩書だけあっても実力が無ければ評価されない時代だからである。また、ドラッカーは「頭の良い人が、間違った問題を正しく解いて成果を出せない」組織における悩ましい専門家の存在を指摘している。
大学院まで進学し、高度な教育を受けたならば、それを肩書だけで終わらせるのか、それを組織なり社会で役立てることができるのかどうかは、その個人の努力の問題である。
このフェローは自分の博士という肩書にふさわしい専門性を組織で生かせなかった、と後悔している。そのかわり、運よく組織を泳ぎ切りフェローまで昇進できた満足感を学生に語っている。
ちなみに、当方はゴム会社で博士の学位を取得する機会を設けていただき、転職してもゴム会社およびその関係者のご尽力で学位を取得することができた。もし、企業が博士の学位に意味を見出していないならば従業員に学位取得を促したりしない。
上司の方々に感謝と敬意を表すために、学位を取得してからは学位にふさわしい仕事を目指し、学会活動を転職した写真会社でも積極的に行ってきた。
転職した会社では、単身赴任するまで高分子同友会や日本化学会産学連携懇話会の窓口担当の職に就いている。学位を組織で生かす努力をして、日本化学工業協会や写真学会から賞を頂けたような、学位にふさわしい成果も出してきた。
ただ、成果にふさわしい昇進ができたかと問われると言葉が無いが、その原因が「皆が普通にできること」をできなかった、とは思っていない。
むしろ皆ができない過重労働でもそれが必要ならば、部下にやらせず当方が行ってきた。会社が成長する方向を提案し続け、そのように仕事をした結果である。毎年届く特許報償の通知の封筒が今年も届いた。
組織における昇進は運が大きく左右すると若い人には自信をもって伝えたい。当方の退職日には東日本大震災で退職祝いのパーティーまで吹っ飛び最後まで運が悪かった。しかし、何とか部長までは昇進できたのは、今も継続している多くの学びの結果だろう。
社会に出ても学ぶ努力は大切で、その時学位は学ぶ機会を増やしてくれる。少なくとも社会は高学歴の人にその活躍を期待しているのだ。期待外れとならないように学位にふさわしい知のポテンシャルを維持し高めてゆく日々の努力が大切だ。
学位は高度な学びのスタート地点に立っている証明書ととらえるとよい。スタート地点のままならば評価されないのは当たり前で、その時学位に価値が無いと感じるのだろう。
学位を取得したならば、そこを起点として社会に還元しながら学ぶ努力が求められている。誰でも学位を取得できるわけではないのだ。
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最近話題となっているビッグデータの解析では、必ずしも科学的な解析とは言い難い例も出てきた。そのような例では、解析結果が普遍的真理とはならず、単なるその場限りの現象理解に終わる。
これを科学的ではないから、という理由で否定的に見ていると時代に乗り遅れるか、あるいは間違った情報を形式知としてしまうミスを犯したりする。せめて解析プロセスも含め経験知の一つ程度に考えるとよい。
すなわち、現代のデータ解析事例を眺めるときに、科学的に解析された結果なのか、単なるデータを整理し傾向を記述しただけの結果なのか、あるいは眉唾も含むその他の結果なのか、それを自ら検討する必要がある。
一方で、科学的ではないデータ解析あるいは手法の中には、技術開発にうまく取り込むと業務を効率化できる可能性もあるので、その手法がどのようなプロセスで行われているのか調べてみると面白い。
よく使われる手法として、多変量解析あるいはマハラビノスのTMがあるが、これは技術開発で集められた大量のデータから、未知の情報を絞り出すときに使える。高分子の難燃化技術セミナーで一例を示す。
15年以上前に歩留まりを10倍近く改善できた中間転写ベルトの技術開発では、それまでの開発で収集されたデータを解析し歩留まり向上のヒントを導き出している。CMCリサーチのセミナーで手法を詳しく説明する。
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科学の時代なので、仮説に基づき実験を行いデータを収集し、仮説との整合性をすなわち仮説が成立するのかどうか確認する。
これは義務教育の理科実験にはじまり大学を卒業するまで指導されてきた方法である。このコロナ禍の感染者報道を見て、データ解析手法には、この学校で習った方法以外にもいろいろあることに気がつかれたのではなかろうか。
すなわち、実験を行うことなく、現象を数値化しそれを解析する手法である。実は実験を行っていなくても現象を数値化するときに仮説を設定しているので、これも学校で習ってきた方法と変わらない。
現象からパターンを抽出する方法もこのように数値化が行われるので何らかの仮説が設定されたうえでの方法と言える。パターンを解析し意味不明であればパターンの数値化方法を変えて自分の意図する結果となるように試行錯誤を繰り返す人もいる。
試行錯誤を繰り返していながら、何か最初に仮説があったかのように説明するので、すごい眼力だと感心させられたりするが、昔ならばともかく今はコンピューターがあるので大したことではない。
科学の便利なところは、データを解析するときに仮説が正しければうまく推論を展開できて答えを出せる点である。データ解析は科学的に行えば誰でもデータが意味している範囲の真理に到達できる。
解析とか分析では科学のありがたみを必ず感じるはずである。それゆえ当方は時間さえ許されれば、すでに完了した仕事でもデータ解析を行って考察したりしている。
この時実際の生データは特に必要は無いのだ。グラフの形さえ再現できれば良い。もっともこのような結果を学会で発表しにくいが、Wパーコレーションという現象については、高分子学会無機高分子研究会で7年ほど前に発表させていただいた。
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表題の組み合わせは、高分子の難燃化技術開発の過程で生まれた技術シーズである。ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の難燃性を評価した時に、その高い難燃性が燃焼時に無機高分子を生成するため、と思われる現象が観察された。
すなわち、リン酸エステル系難燃剤を添加型で用いたときに反応型として用いた時より、同等の難燃性レベルを得るためにリン原子の添加量が多く必要だった。
ところが、この性能差よりもホスファゼンの添加効果が高かったので、燃焼時のリン原子の挙動を研究した。すると、リン酸エステル系難燃剤では燃焼時にオルソリン酸の形態で揮発し、燃焼後の残渣にリン原子の単位が残っていないことがわかった。
それに対し、ホスファゼンを用いたときには燃焼時にオルソリン酸は検出されず、添加されたホスファゼンのリン原子の大半が燃焼後の残渣に残っていることが確認された。
そこで、燃焼時に揮発するオルソリン酸を燃焼時の系内に保持する目的で、リン酸エステルとホウ酸エステルの組み合わせ難燃化システムを検討した。
組み合わせたホウ酸エステルは期待通りに燃焼時にリン酸エステルと反応し、ボロンホスフェートを生成することが確認されただけでなく、この組み合わせ難燃化システムでは、ホスファゼンと同等レベルの難燃性能が発揮されることもわかった。
この成果から、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを組み合わせてSiCを合成するアイデアが苦労なく自然に生まれている。ところが、この組み合わせのχパラメーターは十分に大きく相溶しない問題があり、これをどのように解決するのか、という高い技術の壁が存在した。
しかし、リアクティブブレンド技術を習得していたので、解決手段とその効果はフェルミ推定で予測された。すなわち、未体験の技術について、その技術要素を抽出し、それぞれの機能や役割効果を概略評価することでブレークスルーするための実験計画とその結果を予測したのである。
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弊社ホームページ新着情報にご案内しておりますが、テキストが出来上がりましたので見本としてテキストの一部を貼り付けました。
セミナー会社が主催する難燃化技術セミナーには20代からご招待いただき講演をしてきましたが、ポリウレタンの難燃化部分は、今回も昔発表した内容と同じです。科学でまとめられた実験結果は形式知として不変です。
20年ほど前からタグチメソッドの項目を加え、最近はマテリアルインフォマティクスも取り入れた内容で講演しております。
また、20年ほど前に高分子同友会で環境問題と高分子について開発部会で議論されましたが、今回の無料セミナーではこの辺りはご紹介程度の説明になっています。環境問題につきましてこの数年大きな変化がありました。
3年前に皮革の難燃化処方を開発しました時には、ノンハロゲンで技術を完成いたしましたが、プロセスもオイル分散を用いず、すべて水系の環境対応技術として完成しています。
水に不溶な物質を水に分散してコロイドとして仕上げるには、これまでオイル分散が唯一の方法だったのですが、最近新たな技術を開発し、ただいま特許の審査請求中です。詳細は弊社出願の特許をご覧ください。
高純度SiCの製造技術開発からカオス混合プロセス開発まで様々な技術開発を50年以上続けていますが、高分子の難燃化技術開発はライフワークのひとつになっています。
難燃化技術論文資料
セミナーテキストサンプル
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ロジカルシンキングの研修では、易しく身に着けるために様々な例題が用意される。しかし、ドラッカーの「問題解決では、何が問題かを常に問い、正しい問題を見つけ出すことができれば、80%問題解決できたようなものだ」という言葉を聞くと空しく感じるはずだ。
正しい問題を見出すことが問題解決では一番重要なのだが、過去の問題解決法ではこれを扱っていない。「間違った問題の正しい答えにどれだけの意味があるのか」はドラッカーの有名な言葉である。
この言葉はさらに続く。「優秀な人がしばしば成果をあげられないのは、間違った問題を正しく解いて満足しているからだ」と厳しい。
当方は高校時代からドラッカーを読んできたので、常に目の前の問題が正しい問題なのか考えてきた。その結果、ゴム会社では上司とたびたびぶつかった。上司が間違った問題を設定し、その答えを求めてきたからだが、始末書もその一つだった。
だいたい入社1年目の新入社員に工場試作をたった6か月で成果を出したからと言って始末書を書かせる会社などおかしいのである。成果を出して始末書などありえないので、当方は新しい企画提案を始末書に添付して提出している。
その結果、始末書の処理が終わった頃には当方の提案したテーマが当方の仕事になっていた。しかし、そのような事態になっても上司の謝罪は無かった。
工場試作を成功させて問題になった時に、何が問題かを上司は考えず、製造部門の部長が始末書問題と言った一言に敏感に反応したとのうわさを聞いている。
新入社員だった当方が同席できるような会議ではなかったので詳細は想像になるのだが、工場試作に成功したならば商品化計画が求められることは入社一年目の当方にも想像ができた。ゆえに商品化可能な低コストの難燃化システムの企画を提案したかったのである。
高分子の難燃化技術無料WEBセミナーでは、低コストの難燃化システムについて、最近話題となっているマテリアルインフォマティクスを40年以上前にIBM3033を用いて研究した成果も説明する。
情報活用は問題解決法の一つである。高分子の品質問題に関する無料WEBセミナーでは、マイコンが登場した40年以上前から実践してきたマテリアルインフォマティクスの他の事例についても説明する。マテリアルインフォマティクスは人間の頭でもできるのだ。
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20世紀にロジカルシンキングが流行し、会社でも係長になるまでに一度はそのような研修を受講したという人は50代以上に多いと思う。しかし、ロジカルシンキングでも解けない問題が多いのが実務である。
例えば高分子材料の品質問題では、科学的に未解明な部分が多いだけでなく、そもそも高分子材料の体系ができていない。その証拠に高分子の分類法について統一された分類法が存在しない。
このような材料で引き起こされた問題では、ロジカルシンキングを持ち出しても解が見つからないのはまだいい方で、おかしな答えを導き出して隘路にはまることがある。
弊社では研究開発必勝法という問題解決セミナーの教材を用意しているが、2月には高分子の品質問題の解き方でその一部を紹介予定である。
そもそも問題には構造がつきものだが、体系の無い材料の問題でそのような構造を見出すのは至難の業である。しかし、弊社の問題解決法ではこのような問題でも大丈夫だ。
そのためのツールを用意している。21世紀に入り、企業の新入社員面接試験でフェルミ推定を試す会社が多くなったようだ。ようだ、と言うのは人から聞いた話だからである。
フェルミ推定などと言うと馴染みが無いかもしれないが、問題の構造を見出し、構造因子について数値化できるものについて数値化するとともに概数との掛け算でおおよその規模を導き出す方法である。
趣味で多くの問題解決法の本を読んできたが、このようなフェルミ推定を用いてヒューリスティックな解を導いたりする方法などをあまり扱っていない。実務ではこのような方法を駆使して問題の一次回答を迅速に導くことが重要であるのに、である。
理由のひとつに問題の構造を考えるプロセス、数学でいえば因数分解のようなプロセスをどのように行うのかうまく説明している本に出合ったことが無い。問題を課題の構造としてとらえることができるかどうかは問題解決の第一歩である。課題の構造にできれば数値化なり、それを目標としたアクションの具体化なりができる。
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昨年12月に予定が取れなかったので今年の2月に無料WEBセミナーを開催することにしました。テキストは有料ですが、セミナー受講につきましては無料ですのでお申し込みください。テキストをセミナー終了後購入することも可能です。時間があれば質問も受け付けます。また、時間内に対応できないご質問につきましては、セミナー終了時に回答手順をお知らせいたします。
セミナー内容につきましては、これまで講師を勤めた資料を基に再度構成しなおし新しい情報を取り入れています。例えば、高分子の品質問題の事例では、マテリアルインフォマティクスを使い、フェルミ推定する手法を説明いたします。
問題解決では、「何が問題であるか」を問うことはいつでも重要で、正しい問題を探すことで80%問題解決できたことになる、というドラッカーの考え方を取り入れています。
目前の問題についてヒューリスティックな解で不自然さを感じたならば、問題を再度見直すことは大切です。高分子材料の品質問題では、コンパウンドのプロセシングまでさかのぼって問題設定する必要があるかもしれません。
そのような場合には、混練技術の無料WEBセミナーが役立ちます。高分子材料に関わる実務を担当されている方で高分子の基礎知識を整理されたい場合には高分子のツボが便利です。
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親が「子供の科学」はじめ科学系の本をよく買ってくれたので、自然科学に対する興味は子供のころから強かったが、小学校5年のころには、近所の化学機器卸店に出入りしていたので、化学が趣味になっていた。中学校では化学クラブに入っている。
小学校ですでに進学塾に通う友人もいたが、何故かテスト結果は彼らよりもよく勉強は好きだった。高校は県でトップの進学校であり、スポーツにも力を入れていたので、テニスクラブに入り夢中になった。当然中学までの成績トップの立場ではなくビリに近かったと思う。
ありがたいことに3年生まで成績の順位が発表されないのでテニスに打ち込むことができ、この成果は無機材研のテニス大会で優勝する成果として残っている。
最近故郷の私立高二年生が問題を起こしている。昔は県立高が東大や医学部合格率県内トップだったが、今はこの高校らしい。まだ取り調べの最中なので詳細は不明だが、成績が下がったことが一因としてあることは確かである。
勉強の成績が下がった時のショックは大きい。当方も3年生になって初めての序列が出る実力テストでとんでもない番号を見てびっくりしたので理解できる。1週間ほど何もやる気がなかったことを覚えている。
ただ両親は「あたりまえだろう」と言ってくれて、不思議にも叱られることはなかった。むしろ将来どうするのか考えろ、とアドバイスしてくれた。高校卒業して就職する進路も考えておくようにと、今から考えると厳しかった。
塾に通う相談をしたところ、自分で勉強できないのに無駄だといわれた。ただ2回目の実力試験で順位が半分になり、予備校の模試でも期待できる成績となったら、両親の態度が変わった。母親はへそくりの貯金通帳をくださって、これで頑張れるところまで頑張れと言ってくれた。
子どもの自主性に任せてくれた両親に感謝しているが、趣味の化学実験を高校生になっても自宅で遊んでいたので化学の教師を現実的な目標として設定している。
しかし、大学4年時に学んだ講座の大学内の不当な扱いに義憤を感じ教育界そのものが嫌になっている。大学は研究機関であるとともに教育機関であり、教育業界では特有の権力闘争が発生する。
教育業界をあきらめ企業へ就職したわけだが、企業は企業でそれぞれの風土の権力闘争が存在し、どこの世界でも出世のために手段を選ばない輩がいる。
しかし、好きなことができればそこはパラダイスであり、今の生活も楽しいので「好きなことを学ぶ」ことは自信をもってお勧めできる。「学びたいことが無い」というのは不幸なことなのかもしれない。
音楽は、特に好きな科目ではなかった、という理由でコロナ禍とならない限り学ぶ機会など無かったのだが、暇な時間を埋めるのに役立っただけでなく、「学ぶ」意味や、「体系」、「興味」、「才能」など暗黙知のいくつかを経験知とすることができた。「好きでなくても」「学ぶ意味」はある。
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1970年代塗料にも用いられていたPVAの難燃化を大学院で学んでいた時に実験した。塗料メーカーの方がご指導してくださっていた先生の所へ相談に来られたので研究テーマの中で取り組んだのだが、高分子の難燃化研究の黎明期であり、情報が少なかった。
極限酸素指数法(LOI)についてJIS規格もできていなかった。近くの女子大被服科にLOI評価装置があるという情報を得て挨拶に行った。年上の美人助手が対応してくださったのだが、評価技術についてご存知でも高分子の難燃化技術全体について詳しいわけではなかった。
とりあえず、LOIの評価装置をご指導いただく予定を設定していただき、翌日サンプル作成を開始した。ところが困ったことにPVAへ難燃剤(ホスフォリルトリアミド)の分散が難しいのだ。今ならばすぐに現象を理解でき、対策できるのだが、まだ学生だったので目の前の現象に立ち往生し、2日ほど何もせず文献調査しながら考えていた。
学内の高分子の専門研究者に相談してもフローリー・ハギンズ理論を持ち出されて当たり前で終わった。PVAというポリマーへの添加物の分散性が単純にχやSPだけで定まるわけではない、という情報をくださった人は誰もいなかった。
PVAを実際に扱いよくご存じの方ならば、PVAというポリマーが自己凝集しやすく水に溶かすのもひと工夫必要であることに気がつき、加温しながら攪拌するプロセスに気がつくのだが、無機材料の講座だったのでそのようなテクニックさえ誰も知らない。
驚くべきことに高分子合成の講座の先生さえもご存じなかった。優秀な先生だったが、当時は高分子物性の研究レベルはその程度であり、合成研究が盛んにおこなわれていた時代である。新しい高分子を合成し、その物性について研究するというテーマを扱っている講座もあったが、PVAの特異な性質をご存じなかった。
無駄に4日過ぎ、LOIの装置を借りる日が迫ってきた。年上の美人助手の顔が思い浮かんだ時に突然アイデアがひらめいた。ホスフォリルトリアミドにホルマリンを付加させてメチロール基を生成させればPVAの水酸基と反応するかもしれない、というアイデアである。
PVAと水、ホルマリン、ホスフォリルトリアミドを攪拌しながら加温したところ、均一溶液になった。この先は色材協会誌の論文に記載したとおりだが、問題とは全く無関係のくだらないことを考えてみるとアイデアがひらめくものだと学んだ。
無事PVAの難燃化に成功するのだが、実験に成功したことよりも、アイデアの出し方を体得した成果の方が大きい。すなわち、アイデアというものはそれを深刻に考えていても出てこないが、一瞬その行為を忘れるような思いにふけった時に閃く、ということだ。
この経験知は今も役立っており、良いアイデアが思い浮かばない時にはあっさりと思考をやめて、ギターの練習に励むことにしている。15分も練習していると突然閃くから不思議である。
これゆえ、ギターの練習は15分程度で終わるので、なかなかうまくならない。また、2年前購入したギターはいつの間にか座右に置かれるようになった。ただし、無い袖は振れないのでギターと一緒に今はモーターの専門書が置かれている。
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