40年以上前からカオス混合は知られていたらしい。この呼び名がいつから使われたのか知らないが、餅つきやパイ生地練りで行われている混練方法である。
弊社にご相談いただければ、二軸混練機の先に取り付けるカオス混合装置を提供できる。二軸混練機1台ごとにその性能に合わせて設計している。
ところで、ブリードアウトについてカオス混合に変更して改良された時にびっくりした。LED用熱伝導樹脂を開発していた時の体験である。
10年近く前に熱伝導樹脂のブリードアウトの相談を受けて、カオス混合装置を二軸混練機に取り付けることを提案している。
この方法で改良されるかどうかは、提案してみたものの不安があった。ただ、ブリードアウトの発生状況から混練で改良される可能性がいくつか市場情報として存在した。
ただし、実験データがあったわけではなく、市場における現象と当方の経験知から、コンパウンドの混練ばらつきを疑った。
そして見事に解決したのだ。そもそもブリードアウトしにくい添加剤であったが、促進試験において稀に短時間でブリードアウトが発生する成形体が見つかっていた。
おそらく添加量がばらついているのだろうと考え、添加方法とかいろいろな対策を提案し、その中の一つとしてカオス混合装置があったのだが、促進試験でカオス混合装置の有無の差が出た。
ブリードアウトという現象は、べとつくような現象とか結晶化して表面に析出したりするような目に見える現象でない限り、それが起きていても市場で問題となっていない場合が多い。
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ブリードアウト現象と同様に悩ましいのがケミカルアタックという品質問題である。ケミカルアタックとはものすごい呼び名で学術用語ではなく俗称である。
当方が子供の頃よりこの言葉は存在した。今井模型が牽引したプラモデルブームの時に、ギアボックスを取り付けたプラモデルでケミカルアタックが多発した。
小学校低学年の時に突然壊れたギアボックス部分を購入した店に持って行ったところ、ケミカルアタックと言われ、グリースのつけすぎの注意を受けた。
すなわち、グリースはほんの少しだけつけなければだめで、ギアボックスにたくさんつけた当方のミスと言われたのだ。FDを壊された時よりも悲しかったのでよく覚えている。
さて、ケミカルアタックとは油成分が樹脂に付着した時に、その樹脂の力学物性を著しく低下させる現象である。ケミカルアタックについては、油成分のSPと樹脂の破壊強度との関係を示すデータが公開されている。
それによると、油成分と樹脂のSPが一致した時に発生することになっている。しかし、ブリードアウトと同様で、SPが大きくずれていても発生する時がある。
例えばポリマーアロイでは射出成型時に密度ムラが発生すると、密度の低いところでケミカルアタックがSPに依存せず発生する場合がある。
これを一度経験すると、ケミカルアタックは油成分と樹脂とのSPをずらせばよい、などと軽々しく言えない。一度評価試験をやってください、というのが正しい。
ケミカルアタックの評価方法は、各社各様である。痛い目に遭ったところは関門を2つ3つ設けたりしている。そのくらい慎重になったほうが良い問題である。
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最近昔ながらの加硫ゴム製の消しゴムを見かけなくなった。紙のケースに入ったTPE製の消しゴムばかりだ。この消しゴムのケースには、紙製のケースを取り外さないようにとの注意書きが小さく書いてある。
誤ってこの紙ケースを取り外して使用し、その後放置して事務机の引き出しのポリスチレン製(PS製)のトレイに消しゴムをくっつけた経験はないだろうか。
これは、PSと消しゴムが界面で混ざり合って完璧な接着状態になったためだが、この観察を行うとブリードアウトという現象が添加剤の溶解と添加剤の拡散速度の問題だけで考えていてはいけないことに気がつくはずだ。
高分子は室温に相当するエネルギー状態で様々な運動を行っている。Tgが室温以上の高分子でも自由体積部分では高分子の一部が運動状態であり、さらに全体にわたって一次構造の方向にレピュテーション運動が行われている。
そのため俗称樹脂消しゴムと呼ばれている消しゴムはPSと接着したのである。また、カオス混合装置を用い混練りすると、PPSと6ナイロンは相溶して透明なストランドを作ることができる。
ところが、これを室温で放置しておくと失透してきて6年経つと真っ白となる。これはPPSに相溶した6ナイロンがスピノーダル分解を起こし、遊離してくるためである。
PPSや6ナイロンのTgは室温よりも高いし、両者は耐熱用途にも使われたりするエンプラだ。それでも室温でスピノーダル分解を起こすことにびっくりするのだが、レピュテーション運動を理解すれば納得できる。
面白いのは6ナイロンが遊離してきてもストランドの柔軟性が失われないことだが、6ナイロンが10wt%未満であれば、相溶状態で測定された接触角も変化していない。
もっとも接触角の測定誤差は大きいので見かけだけの現象かもしれないが、ストランドの柔軟性が失われていない現象には驚かされる。PPSの球晶もナノオーダーで成長が止まっている可能性がある。
カオス混合で製造されたPPSへ6ナイロンが相溶したストランドはブリードアウトについてもヒントを教えてくれるが、二軸混練機にカオス混合装置を取り付けて混練を行わなくてはいけない。
かつては蘇州ナノポリスで実験を行うサービスを提供していたが、コロナ禍を機会に中国の仕事を整理した。おりしも米中関係が怪しくなり、中国で働く企業技術者やアカデミアの研究者に対する批判が週刊誌に書かれるようになった。
中国軍事産業に直接協力している技術者や研究者はほとんどいないように思っている。当方も民生用樹脂材料の研究開発を指導してきたのだが、民生用の技術が軍事産業へブリードアウトすると言われても責任を持てない。
しかしそこを問題としたならば国際協力などできないし、中国人を雇用したり、中国で生産すること自体も軍事協力しているようなものだ。
ある週刊誌が実名入りと称し、中国の科学技術に協力する日本の研究者の記事を掲載していたが、その意図がよくわからない。
国際協力の問題はブリードアウトより難しいので中国の業務を当面中断するが、どこかでカオス混合の研究の場を提供してくれるところがないのか探している。
国の補助金でも頂ければどこかに試作場所を確保するのだが、3回も提案して採用されなかったので蘇州で研究開発をしてきたのだ。7年研究してきていろいろわかってきたことがある。カオス混合は単なる伸長流動ではない。
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ブリードアウト対策として、高分子に対する添加剤の溶解度を調べたりする。これは間違っていないが、SPも適合させて添加量も最適化しても市場で品質問題を引き起こすのがブリードアウトという現象である。
もし、開発が終了し数年たってから問題が起きると大変である。すでに開発チームは解散しており製造部門で対策しなければいけなくなって技術課が途端に忙しくなる。
ブリードアウトの問題解決が難しいと理解できている経営者ならば改めて開発チームを編成するが、そうでない場合には、販売を担当しているチームで対策している場合もある。
ブリードアウトの問題は、科学的に対策すると大変な工数が要求される。その昔、電気粘性流体をゴムケースに封入して使用する製品を開発していたらゴムから添加剤がブリードアウトして、電気粘性流体の寿命を短くすることが分かった。
すぐに高偏差値の大学を卒業した博士2名を中心に高学歴メンバーを集め1年間投入して華々しい科学的研究成果を出した。「電気粘性流体の耐久性問題は、界面活性剤で解決できない」という科学的に完璧な否定証明の成果だった。
そして、高純度SiCの事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げたばかりの当方に、開発チームから添加剤が入ってないゴム開発をしてくれないか、ととんでもない依頼をしてきたので、当方は一晩でこの耐久性問題を解決した。
ゴムから添加剤がブリードアウトする問題を解決するために、添加剤の入っていないゴムを開発しようという素晴らしい発想が、いかにナンセンスであるのかはゴム技術を知っている技術者ならばすぐに理解できる。
しかし、ブリードアウトの問題を純粋に科学的に解決できると信じている科学者には、そのナンセンスな発想が科学的にイノベーションを引き起こす素晴らしいアイデアに思われたらしい。
セラミックスの高純度SiC開発をしていた当方にアイデアの具体化を依頼してきたのもイノベーションを期待してのことだったと思いたいが、単なる工数として考えているとの噂が耳に入ったので、異なる方法(増粘した電気粘性流体を回復する界面活性剤をマテリアルインフォマティクスを活用し一晩かけて探したのだ。30年前の話。)で問題解決したのだ。
ブリードアウトの問題について、純粋に科学として捉え問題解決しようとするととんでもない問題を解決しなくてはならないケースも出てくる。
頭の良い人がなかなか成果を出せない、とドラッカーは嘆き、問題解決法の重要性を著書の行間で述べているが、頭の良い人が常識はずれの問題を起こすとは述べていない。これがきっかけで起きた問題解決のために当方は転職している。
当時は問題解決策として本当に正しかったのか検証できなかったが、高純度SiCの事業はその後30年続いているので、この事業を守るために転職した判断は正しかったのだろう。
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昨日ブリードアウトに関して無料セミナーを実施した。通常1日コースで行っているものを2時間に圧縮してご理解いただけるのか心配だったが、実務で困っている方から質問もあり、2時間のところ15分もオーバーした。
ブリードアウトの問題は、科学的には高分子に添加剤がどれだけ溶解できるか、という問題と高分子の添加剤がどれだけの速度で拡散するのか研究すれば対策可能と思われている方が多い。
たしかにこの現象を科学的に確認するための実験を行うと、論理的に納得のできる実験結果が得られたりする。また、その研究成果も学会で発表されたりしている。
しかし、現実は科学的な解と異なる現象が起きたりして、市場で発生すると慌てる厄介な問題である。だから技術セミナーでこのテーマは昔から比較的人気がある。
今回問題解決法の事例にも使えそうなので無料セミナーとして実施してみたが、講義する側の感想として、時間が少なくて苦労した、というのが実態である。
昨日の参加者に限り、メールによる質問を1件のみ受け付けようと思っています。無料セミナーと言っても当方の技量不足でせっかくの内容が伝わらなかったならご迷惑をおかけしたように感じています。
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問題解決法の無料セミナーについて開催してほしいとの問い合わせがあった。来月も都合がつけば月末の週に予定を組んでみようと考えている。
もし来月の希望があれば、弊社へ申し出ていただきたい。11月20日以降に予定を入れたいと思っている。
今回は、2時間という短時間に習得できるテーマを一つ決めて講義する形式にしたいと考えている。
あるいは、3回以上セミナーを連続開催して、理解を深める工夫とかしてみたい。これまでの無料セミナーの受講者がどこまで習得できているのか不明だが、おそらく「最初によく問題について考える」ことの重要性は伝わっているかと思う。
しかし、アイデア創出法については今月説明した内容では、実務に具体的に生かしにくいような気がしているので、もう少し内容を絞りテーマを決めて説明するようなことを考えている。
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県の魅力度ランキングというものがあり、長年最下位だった茨城県が脱出したと話題である。このランキングがどのように作成されているのか知らないが、茨城県が最下位だったと聞いて驚いている。
それでは今回最下位になった県は、というと栃木県だそうである。これにも驚いた。栃木と言えば日光東照宮に鬼怒川温泉と観光資源が豊かな県である。
また、東京工場のタイヤ生産を終えたブリヂストンの栃木工場があり、今タイヤ工場を見学しようとするとこの工場へ行かなければ見学できない。
栃木工場の近くには、那須塩原温泉や那須高原がある。華厳の滝は崩れたために少し魅力は下がったが、それでも最下位になる理由が見当たらない。
もっとも全国で最も魅力の乏しい県を挙げよ、と言われても、すぐに思いつかないが、栃木県ではないことは確かである。当方の故郷愛知県あたりが観光資源が乏しいので危ないか、と思ったりするが、愛知県は堂々の16位で、これにもびっくりした。
ただ、カミナリは茨城県出身でU字工事は栃木県出身であり、若い人には受けない漫才師であったり、観光資源が高齢者向けが多い点を考慮すると、若い人の意見が反映されたランキングの可能性がある。
このランキングがどのように決められているのか詳細を知らないが、最下位脱出のための問題解決は、それほど難しくない。ご相談があれば対応したい。
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正しい問題設定が如何に難しい作業であるのかはドラッカーが指摘している。そもそも問題とは何か、という問いも重要で、問題と課題の定義もドラッカーはその著の中で行っている。
すなわち、「問題」とは「あるべき姿」と「現実」との乖離であり、「課題」とは、問題を解決するためにしなければならない「こと」である。
何か問題が発生すると、すぐにホワイトボードに向かい、「さあ、課題の整理だ」と、元気よく課題と問題をごちゃ混ぜにして書いて、したり顔になっている人をよく見てきた。
確かに問題の中に問題が含まれてくるような構造の問題も存在するかもしれない。しかし、問題の構造をすべて課題で整理していかなければ、問題を解くことができなくなる。
問題の構造を決めるのは、問題を解く人でもある。問題の構造を、問題で組み立てたなら、その問題を解くことができる人はいないだろう。課題を用いて組み上げて初めて解ける問題となる。
PPS/6ナイロン/カーボンの配合の半導体ベルトでは、カーボンの分散がパーコレーション転移の影響をうけて大きくばらつくのが問題だった。
この問題では、6ナイロンはPPSに相溶しないので島相となっており、この島相も量の変化により、あるいは島相の大きさによりパーコレーション転移を生じる。
それぞれのパーコレーションの問題を放置していては解決できない、とすぐに気がつかなければいけない。
このような現象を前にしたときにすぐに「解決できない」とヒューリスティックに解を出せる習慣を身に着けたい。そうすると無駄な開発をしなくても済むので開発資金を節約できる。
難しいことではない。難しい問題を解くことはだれでも難しい、問題は易しくなるように正しい問題を見出す、と理解するだけである。
凡人は、その正しい問題を簡単な構造にする習慣を身に着ければよいだけだ。正しい問題について、簡単な課題で簡単な構造として問題を表すことができたなら問題は解けたことになる。
例えば、半導体ベルトではカーボンのパーコレーション転移を制御することだけを課題にすれば簡単に科学の世界で解決できる。
ただし、この時6ナイロンをどうするのかという問題についてはカオス混合というヒューリスティックな解で解決済みであることを前提としているので混練の経験知が無い人には、コンサルタントに相談するという意思決定が重要である。
当方に依頼していただければ低コストで正解がすぐに出てくるので、経済的である。知が不足して解けない問題を無駄に時間を費やすぐらいならば、有料でも誰かに相談した方が良い。時は金なりである。
少しカーボン分散の経験知があれば、問題の構造をカーボンの分散に関わる課題だけで整理できて、カーボンの凝集体のパーコレーション転移を制御すればよい、という解を当方ならば提案する。
カーボンの凝集体は、その凝集構造を変化させて抵抗を10の6乗Ωから10の4乗Ωまで制御することは可能であり、この程度の抵抗体のパーコレーション転移であれば、ばらついてもその偏差は小さくなる、という経験知もある。
その他詳細は当方の著書「混練り活用ハンドブック」の中に書いてあるが、問題を具体的な課題として見える化し、その後は課題を解決する具体的なアクションを書き上げるのである。このあたりは1日のセミナーの時には演習を行っている。
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昨日の無料セミナーでは、アイデアの出し方に重点を置き講義を行ったが、演習も無く、二時間という短い時間では十分な理解ができていないように思う。
やはり、問題解決法のセミナーでは実際に演習を行いながら進めたほうが理解を深めるために好ましい。
しかし、二時間という短時間では講義する方も少し大変である。ゆえに次回のために、弊社の問題解決法の要点について少し書いてみる。
まず問題解決手順はそのまま企画書を作成するのに応用可能なので、企画業務を担当されている方には参考になると思っている。
最初に、「何が問題であるか、よく考える事が重要」とはドラッカーの言葉である。そして辛辣な言葉が続く。「誤った問題を正しく解いた回答は正しいのか」は名言である。
「頭の良い人が、間違った問題を正しく解いてしばしば成果を出せない」とも述べている。さらに、正しい問題を設定できれば、問題解決は80%成功したようなものだ、と。
弊社の問題解決法では、このドラッカーの言葉を基本としてヒューリスティックな問題解決法を提案している。(明日に続く)
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昨日競泳日本短水路選手権が終わった。男子200m個人メドレーは萩野公介が優勝した。その後のインタビューが謙虚だ。瀬戸選手の足元にも及ばない、などと言っていた。
よく知られているように萩野公介選手と瀬戸大也選手はライバル同士としてオリンピックや世界選手権、そして週刊誌を十分に賑わしてきた。
萩野公介選手は少し前に女性問題で週刊誌で騒がれスランプに陥った後、結婚で立ち直った。東京オリンピックを控え一時はどうなるかと心配したが、無事持ち直して昨日は当方も熱くなった。
スポーツ観戦の面白さは、選手がその競技に全身全霊を傾けてプレーするところを見て生まれる感動にある。
サラリーマンの日々の仕事で彼らのように一生懸命やっても報われないことが多いが、アマスポーツの世界では不運なことが無い限り昨今は才能と努力で結果を出すスポーツマンには恵まれた環境が用意されている。
萩野公介には世界一のタイヤ会社がスポンサーについている。週刊誌で騒がれてもこの会社はスポンサー契約を切ることは無かった。本来は優しく暖かい会社なのだ。
萩野公介選手は何も心配せずオリンピックまでベストを尽くし是非瀬戸大也選手と感動を呼ぶようなレースを展開してほしい。
純粋に目標に向かってベストを尽くし結果を出す。無条件で一心不乱に努力できるそのようなチャンスを初老の年齢となった今でも欲しいと思っている。
労働人口よりも老人が多くなった時代では、老人でも元気な人は頑張らなくてはいけない。
たった1週間のチャンスをもらい高純度SiCの合成に初めて成功した時の感動は、ただそれだけを念じ集中して仕事を進めた3日間で得られた。
半年後に製品化を控え、崖っぷちの状態で中古機材を集めて3か月でカオス混合プラントを立ち上げた。PPSと6ナイロンの混練物が透明な樹脂液として二軸混練機から吐出された瞬間の感動は、年を重ねていても若い時のそれと変わらないものだった。
無心の成功は何度経験しても興奮する。今は下手な興奮の仕方で命を落とすことを心配しなければいけないので、無条件に感動することができなくなったが。
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