推論には、科学で使われる前向きの推論と第一次AIブームで検討された逆向きの推論があり、逆向きの推論では、ゴールとなる結論を満たすケースだけ考えればよい。
この逆向きの推論によるアルゴリズムの効率の良さは、1960年代の受験参考書にも「結論からお迎え」と標語化されており、実務から大学入試まで使える範囲は広い。
難解なAIであるが、成果を使うだけであれば、その敷居は低い。まず、使ってみることが重要となってくる。
ちなみに、生成系AIでは、質問の回答に事実と異なる内容や文脈と無関係な内容を生成するハルシネーション(幻覚)が問題となっている。
これを防止するための工夫として、システムプロンプトを制御する方法がある。例えば、情報が無ければ回答しないことを命じたり、グラウンディング(grounding)というテクニックがあるが、質問内容をChain of Thought(CoT)、すなわち前向きの推論だけでなく逆向きの推論も含め、思考過程や推論の展開過程を指示するテクニックを駆使するとハルシネーションの発生率を下げることができる。
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社会実装も始まったが、材料技術者が、これからAIに関する学問を学ぼうとしても難解な数学と対峙することになる。
また、ソフトウェア工学の視点からアプローチしても数学以上に難解だけでなく膨大なプログラムコードと格闘することになる。
しかし、基本となるパラダイムは、知識を表現するための「知識表現」と、知識を利用するための「推論」であり、この大枠の中で、これまでのAIブームが起きていることに着目するとその理解が容易となる。
推論については、第一次AIブームで大きな進歩があり、逆向きの推論により特定の問題にコンピューターを使って解を提示できることが示された。
例えば、E.J.Coreyは、1970年ごろ逆合成のアルゴリズムを提唱し、第二次AIブームの時に有機化合物をデザインするためのエキスパートシステムを発表している。
当方は、この時初めてAIの研究に接し、彼の論文に従い逆合成を行って、シントンとなるジケテンからシクラメンの香りの成分であるゲラニオールの全合成に成功している。
ここで、シクラメンの香りを選んだのは、布施明の「シクラメンの香り」がヒットしていたからにすぎず、合成ターゲットは何でもよかった。
第一次AIブームで成果が出た「推論と探索の方法」について、実際に活用したかっただけである。専門外の難解なAI技術であるが、その成果をブラックボックスとして活用するだけであれば、難しくない。「使い方の手順」を理解するだけで良いのだ。
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第三次AIブームで登場したデータ駆動による生成系AIについて、先にその動作概略を説明したが、過去のAIブームについて改めて説明したい。
「コンピューターを使って問題を解く」という視点では、細々であるがTRIZの研究は進められている、と述べた。また、知の研究成果が注目されて生まれた過去二度のAIブームでは、エージェント指向という新しいパラダイムが生まれて現在でも研究されている。
これは、1999年に派手なワイヤーアクションが注目された映画「マトリックス」にその世界観が表現されていた。多数のエージェントが自ら情報を探し出し、その情報から状況を判断して各エージェントが振る舞いを決めるアルゴリズムを主人公との戦いの場で表現していたのだが、データ駆動よりも高度なソフトウェア技術が必要であり、未だ実現されていない。
ところで、第三次AIブームは、従来のオブジェクト指向で作り上げた深層学習のソフトウェア、生成系AIの成功で始まっている。そもそも機械学習という手法はAIの研究において一分野に過ぎない。
また、このパラダイムにおいて、知識は単なるデータにすぎず、パターン認識で動作しているソフトウェアという見方もできる。
A.M.Turingが1950年に提起した「機械は人間のように論理的に考えることができるか」という問いで始まったAI研究であるが、一つの解となる期待から生成系AIブームとなっている。
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日産自動車の社長が交代し、改めて新車の販売計画が発表されたが、社内の苦悩が垣間見える内容だった。恐らく、今回発表された新たな計画は、今年度中に再度見直しが行われるのだろう。
また、ニュースによればインドネシアはじめ海外工場の生産体制見直しも行われており、インドネシア市場について完全撤退の様子が見えてきた。社長交代でこうも経営の様子が変わるのか、と思える変化だ。
前の社長はじめ経営陣が仕事をしていなかった、といううがった見方もできるぐらいの変化である。見ていて勉強になる。
さて、現在の日産車について国内のラインアップは、売れ筋商品以外並んでいない効率の良いラインアップという見方ができる反面、これでは市場に変革を起こし売り上げを伸ばすことはできないだろうと心配になる。
あたかも日本市場はこの程度で良いと判断しているようにも思われる。この数年は、フェアレディ-Zやスカイラインの限定販売を行っているが、効率が良い反面次代への夢がない。
インターネットには、これまでのある女性役員が、ことごとく商品企画を潰してきたという恨み節が書かれていたが、明らかにこの数年のラインアップは、かつての日産とは異なり、あたかも店じまい前を思わせるような状態だった。
若者の自動車離れが言われて、少子化もあり、今後国内の自動車市場は縮小傾向にあるらしいが、それでもトヨタは売り上げを伸ばしている。
かつて80点主義の車つくりが批判されたりしたが、この20年の新車を見ていると、市場に対する提案が明確である。クラウンやプリウスの新たな方向も市場に受け入れられた。
商品企画と経営がうまくかみ合っているかのように見える。あのような劇的な方向転換は、経営の強力なサポート(注)が無ければできない。
ところが日産から今回発表された内容では、以前よりも改善された様子がうかがわれ、経営刷新の効果がこんなにも早く現れるものかと驚く内容ではあるが、それでも不満を感じるのは、どこか中途半端なところが垣間見えるからかもしれない。
(注)ゴム会社で高純度SiCの事業を起業して分かったのは、経営陣によるサポートの重要性である。特に新事業の起業では、経営陣が成り行きに任せているのか、そうでないかは明確に現れる。経営陣が成り行きに任せているような状態では、いくら良いシーズでも育たない。高純度SiCの事業では、住友金属工業とのJV立ち上げまで、研究所内の反対勢力による妨害のため大変苦しい展開となったが、予算含め経営陣のバックアップがあったのである。しかし、研究開発本部長が反対勢力になったとたんつぶれかかったが、住友金属工業とのJVは社長がリーダーとなっていったので結局潰されることなく今でも他社に事業は継承され技術が生きている。このような体験をしてみると、トヨタにおけるクラウンやプリウスの開発を担当された方々は幸せだったと思うと同時に、日産に勤務する技術陣はゴーン退陣後大変だったのだろうと心配したりしている。
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過去の2度のAIブームでは、例えば創薬のデザインなどの特定の専門分野に特化したエキスパートシステムを提供できた。しかし、今回のAIブームで登場した生成系AIでは、知を学習データに表現して人間のように柔軟に答えを出してくれるので、一過性のブームではなく、AIの本命と期待されている。
但し、データとなる知識を明文化しなければいけないので、形式知と経験知しか扱えない。それでも生成系AIに接していると、あたかも人間と話しているような錯覚になる。
しかし、人間のヒューリスティックな回答の動作とそれが本質的に同じかどうか不明である(注1)。現在のAI(大規模言語モデルLLM)は、推論型モデルを含めて、本質的に暗黙知を獲得することはない。
しかし、ChatGPTに搭載されているメモリ機能やRAG(検索強化生成)を活用することで、過去の情報を参照し、あたかも暗黙知から経験知を創り出しているかのような振る舞いを見せることはある。
ただし、これは人間の暗黙知による活動とは異なる。つまり、AIが暗黙知を持っているように見えても、その動作は外部情報の言語連鎖を活用した疑似的連想であり、技術(注2)や芸術の創造を促す人間の暗黙知とは異なる。
AIの本命と言われている生成系AIではあるが、人間が暗黙知から芸術や技術(注3)を生み出すような動作は、まだ確認されていない。
(注1)
ChatGPTのo1、o3モデル、GoogleのGemini Flash Thinking、Deepseek R1は推論型モデル(Reasoning Model)と呼ばれ、内部で「reasoning」という処理を行っている。これは一度生成した回答をそのまま確定させるのではなく、自己修正(Self-Reflection)や試行錯誤を繰り返し、より良い解を求めるように動作をしている。これは、従来の言葉の連想ゲームのような動作ではなく、探索木(Tree Search)のように「分岐して戻る」動作に近い。最近の研究(Aoki et al., 2024、https://arxiv.org/pdf/2406.16078)では、LLMが推論を行う際、まず直感的な推測(ヒューリスティック)を行い、その後、より論理的な精査を加える動作をしていることが確認されている。
(注2)
技術の中には、試行錯誤を繰り返し目標とした機能を生み出して出来上がった、科学の成果ではない技術も世の中には存在する。試行錯誤では、暗黙知の寄与によると思われる閃きで飛躍的な成果が生まれる場合がある。
(注3)
カオス混合装置や高純度SiCの合成法、FDを壊されたりする嫌がらせを受ける原因となった電気粘性流体の耐久性防止技術、写真学会から賞を頂いた有機無機複合ラテックスは暗黙知の成果で、瞬間芸のように技術が生まれている。データサイエンスによるデータ駆動の手法は暗黙知を刺激する方法である。
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身の回りには高分子材料が溢れているが、その耐久性に関する記述には怪しい内容がある。例えば高分子材料は酸化劣化するので酸化劣化防止剤を添加しなければいけないとか、エステル系高分子は加水分解を受けやすいとかである。
50年前の一般教養の教科書には平気で書かれていたりしたが、さすがに最近の教科書ではこのような記述を見ないだけでなく、劣化や耐久性に触れていない。
高分子の劣化や耐久性に関する学問は高分子材料を実用化するために重要なのだが、学問として扱うには難しい分野である。
1980年代の学会では、高分子の劣化機構に関する研究発表が多かった。ただ大半は溶液の中で酸化劣化を研究しているような内容だった。すなわち、研究成果に実用性が無いのが大半だった。
そもそも高分子の破壊についての形式知の体系がまだ完成していない。高分子材料の一次構造の酸化劣化を溶液中で研究してみたところで、実用化されている高分子材料は溶媒の無い状態で使われている。
いろいろ書きたいことがあるが、これは形式知が怪しいだけでなく、経験知も怪しいものが多い世界であり、セラミックスから高分子まであらゆる材料を扱った当方だけが知りうる世界かもしれないので、まだ公開するのは控えようと思っている。ただし有料セミナーでは問題解決した事例とともに、ノウハウまで公開している。
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これは10年前の話である。中国のローカル企業から、コンパウンド事業を始めたい、と相談があった。日本の混練機メーカーを紹介したところ、価格が高いから中国製で選んでほしい、と言われた。
そこで、UL94-V0合格の配合組成であるPC/ABS原料を用意し、南京にあるコペリオン社とこの会社からスピンアウトした技術者が立ち上げたK社の二社で試作した。
中国には1970年代の日本のように当時混練機メーカーが多数事業を始めていた。大手4社ほど見学し、この2社に絞り、試作を実施したのである。
この2社にした理由は、型式名称は異なるが、同一性能の混練機を比較できたからである。K社はコペリオン社のコピー機を2割ほど安い価格で販売していた。
さらに工場もそっくりであり、比較しやすかった。そこで、300kg/hの吐出量の混練機を用意してもらい、スクリューセグメントを同一にして、ドライ分散した難燃性PC/ABS原料を持ち込んで試作したのだが、驚くべきことが起きた。
コペリオン社の装置では、2条件で製造した2種のコンパウンドそれぞれが、同一難燃性能V0で合格したのだが、K社の二軸混練機では条件を5種類ほど変えても、V2レベルだった。
さらに、引張強度の平均値はスペックを満たしたのだが、衝撃強度はスペックアウトし大きくばらついた。コペリオン社でも衝撃強度に問題があったので、条件を変えて力学物性と難燃性能のスペックを満たすコンパウンドを得たのだが、K社の二軸混練機を用いた場合では、目標スペックを満たすコンパウンドが得られなかったのである。
これは驚くべきことのように思えるが、かつて高分子自由討論会で某社の技術者が、同一メーカー同一型番の二軸混練機で混練したコンパウンドのレオロジーが一致しない問題を発表していたので、当方はさほど驚かなかった。
しかし、ローカル企業の総経理は、高いコペリオン社の装置を購入しなければいけなかったので、当方に日を変えて試作をやり直したいと提案してきた。当方は無駄だから諦めてコペリオン社を購入するように勧めている。
この話には後日談があって、数台購入したコペリオン社の二軸混練機の性能ばらつきが問題となった。これはある条件を少し変えるだけで、揃えることができたが、このような体験話を信じていただけない場合がある。
ところが、これよりも驚く話があるので混練技術は面白い。科学で理解できないトランスサイエンスの世界である。
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PETボトル廃材をベースにUL94-V2に合格する難燃性樹脂を設計するのは難しい。開発目標が環境対応樹脂なのでノンハロゲンとしたい。しかし、ノンハロゲンであればリン酸エステル系難燃剤を10%以上添加する必要がある。
また、PETは射出成形が難しい樹脂なので、フィルムやボトルの用途すなわち押出成型あるいはブロー成型に限られているのだ。PC/PETであれば、PCの難燃性や射出成型性を活かすことができる。
PETを基材にして難燃性の射出成形体を開発する目標は難しい課題であったが、カオス混合技術とデータ駆動により、難燃剤無添加でPETボトル廃材が70%以上含まれる難燃性樹脂の開発に成功することができた。
幸運だったのは、6年間日本のトップメーカーから買い取っていた出来損ないのPPSコンパウンドが大量にあり、それを処分するのも当方の責任だと前任者の部長から言われていたことである。
詳細は書けないが、リーダーを代わってくれと言っていた背景の一つにこの怪しい仕事もあった。しかし、この怪しい仕事のおかげで、出来損ないのPPSコンパウンドを有価物として中国のローカル企業に輸出できた。
このPPSコンパウンドを難燃剤の代わりに使用し、ドリッピング型の黒色難燃性樹脂を設計することにした。カオス混合を用いるとPPSとPETは相溶し、難燃試験の時にほどよい粘度でドリッピングして消火した。
ところでPPSとPETは融点と溶融時の粘度が著しく異なるので、混練温度の設定が難しい。混練の教科書通りに設定するとPPSの分散ができない。なぜなら、溶融粘度が大きく異なるからである。
粘度差の大きい樹脂を二軸混練機で分散すると微細構造の高次構造を実現できない。伸長流動でそれが可能になると言われているが、二軸混練機で発生できる伸長流動では難しい。
当方のカオス混合の成功後、日本のトップメーカーから二軸混練機のスクリューデザインでカオス混合を実現したという特許が10件ほど出ている。退職後この特許の検討をしたところ当方のカオス混合装置のようにPPSと6ナイロンを相溶できない。
ただし、部分的に相溶しTgが下がっているので、特許は嘘ではないかもしれないが、この発明を凌ぐ当方の技術が存在する。また、これらの特許を検討していて、特許に書かれた条件以外にカオス混合を二軸混練機で実現する方法を思いついた。
関心のあるかたはお問い合わせください。特許出願可能なアイデアであり、弊社で明細書案作成から出願までの費用は、弁理士費用も含め50万円です。出願後の費用は含みませんので、ご希望の条件をご提示ください。7月までに希望者が現れない場合には、ナノポリスで実験予定にしております。
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カオス混合という、やや怪しい言葉の響きに思わず、「なんですか、それ」と失礼な言葉を発している。カオスを混練したらどうなるか、味噌糞一緒にするという言葉もすごいが、カオス混合という命名を考えた人はもっとすごいと思う。
ちなみに、今赤だし味噌は一度二軸混練機で混練されている。それにより、滑らかで簡単に溶けるようになった。昔は、味噌こしが必須だったが、今は手軽にお玉の上で分散できる。
餅つきではカオス混合が発生している、と指導社員は教えてくださった。最近はパイ生地の練りにカオス混合が発生している、という人がいるが、当時はドミノピザはじめ手軽に日本でピザなど食べられなかった。
高橋英樹の越後侍が年末になると餅のCMをやっているが、当時もあった。ゆえにカオス混合は餅つき、と脳裏に刻まれたのだが、指導社員から二軸混練機でカオス混合を実現するのが当方の宿題と言われた。
残念ながら、当時在籍した部署は3カ月で解散となり、この宿題を研究することができなかったが、それから約30年後にそれを実現するチャンスがおとずれた。
PPS/6ナイロン/カーボンの配合によるコンパウンドを一流メーカーから購入し、押出成形していた部門の部長から、リーダーを代わってくれと、頼まれたのだ。
会社の統合前に大学の先輩上司により左遷された立場なので、あきらめておとなしく早期退職の年齢になるまで窓際で過ごすつもりでいた。先輩上司から「君のペースで仕事をやっておればよい」と言われていたので、成果が出ていたこともあり、安心して仕事をしていた。
サラリーマン、気楽に仕事をやっていてはダメである。常に出世を意識し、出世のためならこっそりと他人の足を引っ張るくらいの根性でいなければ、せいぜい中間管理職程度までである、と考えたりもした。
ただ、ドラッカーは誠実真摯な人物を選ぶのがリーダーの役割、と言っていたことを思い出し、誠実真摯に働けばもう少し出世できるのでは、と期待してみた。
しかし、奇特な人が現れた、と一瞬思った。もっとも半年後には量産しなければいけない状況で、半導体無端ベルトの歩留まりが10%に満たない仕事である。
これを80%以上まで引き上げなければ責任を取らされることは予想された。当方に依頼してきた気持ちをよく理解できた。恐らくこのような人物が出世するのだろうと思ったら、その後当方より出世してセンター長までなっている。
50を過ぎていたので仕事を成功させても出世できないかもしれないと思ったが、ドラッカーを信じ役目を引き継いだ当方は一流メーカーの技術サービスの部長にカオス混合を勧めた。しかし「素人は黙っとれ」と言われ、あえなく半年後はまた窓際かとため息をついた。
この溜息で一流メーカーの部長からは、「勝手にコンパウンドラインでも作ってカオス混合をやっとれ、うまくできたらそれを使えばよい」と言ってくれたので、当方の上司のセンター長にそのまま伝えたところ、決裁権は8000万円までだ、とありがたい言葉を言われた。
そこで、中古の二軸混練機を購入し、カオス混合ラインのコンパウンド工場を子会社の敷地に3カ月で建てて、コンパウンドの生産を始めた。驚くべきことに、同一配合のコンパウンドなのに、それを使用すると押出成形歩留まりは100%となった。
半世紀前の指導社員の言葉をずっと考え、思考実験から頭の中に出来上がった装置を実用化しただけであるが、ものすごい装置を実用化できた(注)。
もっとも、この思考実験の最中に、東工大扇沢教授の実験室から、プレス機を用いたアクリルポリマーの混練の研究や、PPSと4,6ナイロンの混練をその場観察した研究論文の発表があり、思考実験のレベルは急速に上がって、「素人は黙っとれ」という言葉に巡り合っている。
カオス混合プラントを3カ月で立ち上げ、量産開始までに押出成形歩留まりを100%まで引き上げる成果を出しても出世できなかった。そこで55歳に早期退職を決意したところ、環境対応樹脂の開発を役員から命じられた。
好きなようにやってよい、と言われたので、名古屋市長に高分子廃材の相談をしていたこともあり、高分子廃材から再生プラスチックを環境対応樹脂として開発する企画とした。
直後名古屋市の秘書室から、名古屋でのPETボトル以外の細かい分別回収は見直すことになった、との手紙をもらい、PETボトル廃材を用いたPC/PETの開発を提案している。
すると、同じようにPET廃材企画を考えていた人物から、70%以上PET廃材が入っていなければだめだ、と横やりが入った。70%以上PETを含む樹脂を難燃化するよりもPC/PETのほうが易しいが、データ駆動の方法やカオス混合の事例を増やす良いチャンスだった。
そこで、退職日を2011年3月11日(金)に設定して、期待通りの再生プラスチックを開発した。この材料は退職後の2012年に社長賞を受賞している。
(注)カオス混合プラントの立ち上げには3か月かかったが、高純度SiCの実証には4日で成功している。研究開発というのはそれに投入した時間で成果の大小は決まらない。「素人は黙っとれ」発言から、3カ月でカオス混合プラントは成功している。高純度SiCの実証実験は、ゴム会社の人事部長から無機材質研究所所長にかかってきた、当方の昇進試験の結果通知から始まっている。何がきっかけで発明が成功するのか、神のみぞ知る、と思っている。そのために誠実真摯に日々努力する必要があるのだ。サラリーマンの昇進は、神の指示でもないので、それが期待通りでないことを嘆く必要はない。間違った判断をした上司を恨んでみても仕方がないのである。日産自動車の社長の事例や、ホンダの役員の辞職を見れば、出世が必ずしも人生の幸福に結びつくわけではない。誠実真摯に努力し、思い通りにならない時に、突然現れる幸不幸の分かりにくいチャンスに、やはり誠実真摯に挑戦する、これが成功した時の感動は計り知れないほどの喜びである。このような喜びはお金では買えない。誠実真摯な努力の賜物であることを知ると、ドラッカーの言葉の深い意味を理解することになる。
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高校生の時に母親と姉、叔母の4人で1泊二日大阪万博を楽しんだ。大阪市内のホテルや旅館は万博価格で高く、同じ金額を払うならばと、今は閉館となった六甲山ホテルに宿泊している。
万博見学ならば学校を休むことができる、という特典があったように思う。しかし、あの六甲山ホテルに泊まった記憶は鮮明に覚えているが、2日間万博見学をしてアメリカ館の月の石とアフリカのどこの国か忘れてしまったが、そこで購入した紅茶以外詳しいことは忘れてしまった。
もちろん太陽の塔は、その後何度も見ているので今でも記憶に残っているが、長時間並んで見学したパビリオンの内容は月の石以外の記憶が無く、それも朝から並んでお昼ごろに月の石にたどり着いたと思ったら出口だった、と言う残念な記憶である。
アフリカからの参加国は、紅茶はじめドライフルーツなど食品関係が多かったように思い出す。物珍しさから母親がいろいろ購入していて、帰宅後ご近所に土産物として配っていたが、紅茶は3種類ほど家族で楽しんだ記憶がある。
いずれも味わったことのない味覚であり、驚いたのはスプーン1杯の茶葉で家族全員が飲んでもおいしかったことである。母親はこれならばもっと買ってくればよかった、と話していた記憶が残っている。
しかし、2日間苦労して並んで見学したいくつかのパビリオンの思い出を一切忘れている。TVで今日から始まる万博のニュースを見たが、開会式の様子を含めて何故か興味がわかない。
前売り券が売れ残って大変だと騒いでいたが、それでも7割以上売れたので大騒ぎするほどでもないだろう。名古屋のレゴランドは客入りが悪く周辺の店舗が撤退したニュースを10年近く前に報じていたが、今回万博周辺にそれを当て込んで出展した業者はいないので、万博の赤字ぐらいが心配事である。
筑波で開催された科学万博では、宿泊客を見込んでホテルが多数建設された。ラブホテルまで改装されて万博客を待っていたが、宿泊費用が都内の2倍では誰も利用しない。ホテル経営者の何人かが自殺して話題になっていた。
筑波学園都市周辺にラブホテルが多いのは当時の名残だが、夢洲に多数ホテル建設がなされた、というニュースは聞かない。ビジネスホテル含め宿泊料金の高騰がニュースになっていたが。
前売り券が売れない、とか、国民の関心が低いとかがニュースでよく報じられたのに、見どころが事前に騒がれていないのは何故か。事前のニュースで記憶にあるのは、トイレの価格が数億円とか、粗末なトイレとか、大便用のトイレがオープンになっているとか、トイレの話ばかりである。
世界一の木造建築にしてもその基礎部分が開会前に波で削られて崩れそうだ、などという信じられない話がニュースになっていた。およそ見学したくなるような話題が無かったように思う。
開会までパビリオン建設が間に合っていないのも驚く。メタンガスの問題は共産党の議員が検出器持参で事前見学会に出席し、発見したとのニュースがあったが、これが重大問題になっていないのも不思議である。事故が起きないことを祈っている。
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