自動酸素指数測定装置を手動で操作できるように改良した成果は、改善提案賞を受賞した。この時素直に喜べず、何か奇妙な気持ちだったが、市販されていた手動の酸素指数測定装置よりも精度が高いところが評価された、と説明を受けた。
自動酸素指数測定装置が無駄な装置だったとか、新たに手動の設備導入を検討していたとか、といった負の情報は一切語られることはなかった。優れた設備をさらに改良した、というポジティブな評価となっていた。
確かに、一般の測定装置では計測できない柔らかい発泡体でも測定できたり、誤差を最小にできる仕掛けなど工夫をしていた。すなわち、ただ制御部分をはずしただけの改造ではないので受賞基準を十分に満たしていた。
しかし、一番うれしかったのは、始末書を書かされたり、実験中に「科学的に仕事を進めるように」とか、楽しく仕事をしていると「趣味で仕事をやるな」などと叱責ばかりしていた上司が、当方を推薦してくださったことである。
ところで、この自動酸素指数測定装置を開発したS社の人物は、優れた科学者だった可能性がある。まだマイコン制御など高価でこのような設備に使用できない時代に、単純なON-OFF制御だけで高精度の値を出せる評価装置に仕上げていた。特定の試料を測定するだけであれば、当時の科学力を駆使した優れた設備という評価ができ、設備担当者が購入判断した動機を理解できた。
しかし、プラスチックの難燃性評価試験器というカテゴリーでこの装置を眺めると、がらくたに等しい。このような、それだけを捉えると科学技術の塊のような設備であっても、おもちゃとなるような製品が身の回りに存在する。
完璧に動作しない自動車の自動ブレーキもその一例で、ニュースで事件が報じられる前に、自動ブレーキ付ジュークを購入し後悔している。トルクベクタリングもついた高性能車で、乗り心地等は問題ないのだが、オプションをいろいろつけたら、自動ブレーキをオプションでもつけられない高価格車ジュークニスモとほとんど値段が変わらなかった。
値段はほとんど同じだが、ジュークニスモの方が高価に見える。役に立たない自動ブレーキがついて、4駆であることを示すエンブレムも小さくて、下位グレードの車と見間違えるような商品を購入し、複雑な気持ちで車を運転している。
購入時には営業担当から単眼カメラで測距している優れた技術だと説明を受けたが、信頼性の低い安全装置は科学的に優れていても、技術としては欠陥品である。
(車の自動ブレーキの測距法)
障害物の検知ではレーダーが天候に左右されないのでもっともすぐれている、と言われており、トヨタはレーダーと単眼カメラの組み合わせで自動ブレーキを制御している。最近はCCDやC-MOSなどの画像センサーの感度が上がり、これを二つ組み合わせて人間の目のごとく使用しているのはスバルのアイサイトで、すでに追突防止に実績が出ている。画像センサー一つで測距する方法は特許を読めば書かれており、CPUの演算速度が速くなったので、これがうまく機能すれば最もコストの安い方法である。
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当方の努力で軟質ポリウレタンフォームのような自立できないサンプルまで測定できるように自動酸素指数測定装置を改良できた。その成果を披露したところ、この装置は購入時にもっと便利だった、という意見が出てきた。
すなわち、サンプルを取り付ければボタンを押すだけの操作で「誰でも」LOIを計測できたからだそうだ。だから、当方の改造後それが面倒な手順になった、という批判が出てきた。
発泡体では燃焼スピードが速くて計測できないので誰も使用しなかったのではないか、とこのような意見に反論してみたが、反論しながら疑問がわいてきた。設備導入直後の頃に、なぜ、この設備が使われていたのか、という疑問である。
すなわち、発泡体すべてがこの装置で測定できない燃焼速度ではなく、開発初期には、この装置で測定できる燃焼速度の遅い発泡体が存在したことになる。そして、難燃化技術の開発が進んだ結果、燃焼速度の速いサンプルができるようになって、この装置では測定できなくなった。
これは、開発初期に難燃性が高い材料(燃焼速度が遅い材料)だったのが、難燃性が低い材料(燃焼速度が速い材料)へ開発が進められたことを意味する。
詳細を省略(注)するが、この疑問から当時建材の難燃試験で採用されていたJIS難燃2級という評価試験法の問題を発見することができ、通産省建築研究所で新たな規格を策定しなおすときに、お手伝いをすることになった。
このあたりの状況は以前にも書いているのでそちらを読んでいただきたいが、科学的に決められた評価試験法のおかげで、この時代にとんでもない材料(注)が各社から開発され、高防火性天井材として認可されている。
JIS難燃試験法は、科学的に検討され制定されている。その結果、試験法の研究過程で用いられた仮説から排除された現象が生じた場合には、それに対応できない評価法となる。
燃焼という現象を防ぐ機能を備えた高分子の難燃化システムは、その評価法を基準に開発されている。しかし、実際の火災では様々な現象が発生しており、それらの現象をすべて包括して評価する方法を科学的に作り出すことができるのだろうか?
それが可能となるためには、実火災について生じているすべての現象が不変の真理として解明される必要がある。
(注)JIS難燃2級試験法で試験を行ったときに、サンプルが熱変形し試験用の炎から遠ざかると、サンプルに着火せず不燃材という判定になる。この試験法が検討されたときにサンプルが炎から逃げるように変形し、さらにサンプルが爆裂しない状況を想定していなかったためである。天井材の開発過程で、熱で容易に餅のように膨らみ変形するサンプルが、高い難燃性を有している、との評価結果がJIS難燃2級試験法で得られた。そこでプラスチック天井材の業界で変形し安定に炎から逃れるようなサンプルが開発されるようになった。その結果、難燃化技術のあるべき姿である「燃えにくくする」ということが忘れられて、科学的に「うまく炎から逃れるように膨らむ材料」の開発が進められた。「燃えにくくする」開発が進められていた時には、自動酸素指数測定装置を使用できたのだが、「膨らむ材料」の開発を進めるうちにこの自動化装置では測定できないような燃えやすい材料へ退化していった。これは国の研究機関も含めて科学的研究開発が生んだ悲劇の事例である(実際に火事が多発するようになったので、喜劇ではない)。科学のプロセスでは、稀に、このような間抜けなことが起きているのではないか?この事件では偉い大学の先生まで「科学的に正しい論理」だが、「実用上は火災の原因となり、経験から判断して間違っている」とんでもない論理を展開したため業界すべてが間違った方向へ向かった。経験から判断すればおかしい見解でも、アカデミアの科学的な見解であればそれが正しいと判断される科学の時代に改めて疑問を持った。しかし、以前この欄でも書いたが、科学的に正しい、とされた見解について、その間違いを示すには、やはり科学的に示さなければ認めてもらえないのが、科学の時代である。経験上とか感覚的になどと言っていると軽蔑さえされる。しかし、技術者の経験上おかしい、という判断は重視すべきだと思う。STAP細胞では優秀な研究者が自殺する事態にまで至っている。
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この自動酸素指数測定装置には、現在普及しているS社の酸素指数測定装置よりも精度の高いガス混合装置がついていた。調べたところLOIで0.05の値を制御できるほどの高精度だった。一般の装置では、測定時にLOIで0.5程度のばらつきが出るものもあり、この制御系はかなり高性能に思われた。
さらにその仕組みは凝っていて、あたかもハイブリッド車のような仕組みだった。これは燃焼状態をモニターし、LOIを上げ下げするときにそのスピードが異なる仕組みになっているためらしい。しかし、この設備の説明書には、この機構も含め制御についての説明がまったく書かれておらず、ブラックボックス化されていた。
詳細な説明は省略するが、燃焼スピードの速いサンプルでも少し工夫すればこの装置で計測できる可能性があった。しかし、マニュアルにはその方法について書かれていなかっただけでなく、設備の操作盤にも当方が推定した方法を実施するためのスイッチやダイヤルがついていなかった。
もっともそれを行ったならば、マニュアルで操作した場合と同じになるので、燃焼スピードの速いサンプルについては仕様上除外した可能性が高い。
さらにこの装置は、マニュアル操作について細かい配慮がされておらず、むしろ自動化のためについているセンサや制御系を外して使用したほうが、すなわち一般の酸素指数測定装置の状態にしたほうが使い勝手がよくなるという奇妙な設計だった。
装置の仕組みをさらに調べていったところ、自動酸素指数測定装置という名前がついていてもサンプルの取り付けは手で毎回行わなければならず、測定が自動化されているために生まれるメリットは、「誰でも計測できる」という点だけである。あるいは、敬意を表して言えば、人為的な誤差が入らないようにした自動化装置と言うこともできる。
すなわち、材料組成が原因となって生じるLOIの誤差は少なくとも0.1以上あり、それを考慮し、装置の仕様や使い勝手をその前提で購入前に十分検討したならば、科学的な視点で人為的な誤差を排除できるメリットを重視しない限り、購入しない装置と思われた。
しかし仮に設備がこのように自動化されて人為的な誤差を最小にできる仕様になっていたとしても、その設備以外で発生する誤差が大きくなって、自動設備の仕様に対応できなくなり使用できない事態になる可能性があるならば、全体の作業プロセスの視点から見て判断するとその設備は使えない、ということになる。
これは、夕方や夜に使用できないという注意書きが前提の自動車用自動ブレーキの話に似ている。先日のニュースによれば、自動ブレーキ搭載の車で間抜けな事件(注)が起きたが、不完全で信頼できない科学的装置ほど無駄な技術の産物はない。
夕方や夜など明るさが不安定な時には使わないでください、と書かれた自動車の自動ブレーキは、使えないどころか、知らずに使えば危険な装置となる。これでは無いほうが安全である。
そこで、自動酸素指数測定装置についていた、センサーや制御系を取り外すことにした。ただ取り外すだけでは面白くないので、マニュアルで使用したときに便利なように改造も行った。
自動ブレーキや自動酸素指数測定装置のような意味不明の自動化設備が生まれる背景も科学の時代ゆえのような気がしている。
(注)
<以下は千葉日報2017年4月14日記事より一部抜粋した>
運転支援機能を搭載した日産のミニバン「セレナ」を試乗した客にブレーキを踏まないよう指示して事故を起こしたとして、県警交通捜査課と八千代署は14日、八千代市内の日産自動車販売店の店長男性(46)と同店の営業社員男性(28)を業務上過失傷害容疑で、試乗した客のトラック運転手男性(38)を自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで、千葉地検に書類送検した。運転支援機能付き車両の公道での試乗事故は全国初。
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自動酸素指数測定装置は、サンプルホルダーに自立している板状のサンプルの燃焼挙動をセンサーでモニターしながら酸素と窒素の配合比率を制御してLOIを自動で計測できる装置である。
LOIの測定についてJIS法が決まる前に開発された装置で、制御部分にお金がかかっており、当時日本で数台販売されただけ、と聞かされた。
建築用難燃断熱材「ダンフレーム」という商品を研究開発している時に評価装置として購入されたらしい。しかし、「使えない装置」と評価され、そのまま1年以上放置されていた。一方LOIのJIS化が検討されていた時なので、この自動装置とは異なるLOI評価装置を新たに購入する話が噂としてでていた。
これが大きな声となっていなかったのは自動酸素指数測定装置があるのにどのようにして新たな装置を設備申請するのか知恵が必要だったからである。JIS法の装置は自動酸素指数測定装置の半分程度の大きさである。おそらくそれが導入されたらこの高価なセンサーと自動制御装置のついた設備は廃棄されるだろうと思った。
そこでこれを改造して使えるようにしようと考え、設備担当者に自動酸素指数測定装置がどうして評価装置として使えなかったのかヒアリングをした。驚いたことに、サンプルの燃焼スピードが速すぎて制御が追いつかない、という理由だった。
設備を購入するときに使えるかどうか検討しているはずだが、それが十分に行われなかったようだ。この装置の問題はそれだけではなかった。科学が仕事の進め方まで支配し、技術を蝕んでいたのだ。
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ゴム会社へ入社し樹脂補強ゴムを開発後、高分子の難燃化研究を担当することになった。その時、ビニールのカバーがかかった事務机一つ分の大きさの装置を見つけた。これは1年ほど前に評価装置として検討され、「使えない装置」と結論された「自動酸素指数測定装置」である。
各種燃焼試験は科学的に開発されている評価技術だが、そもそも燃焼という現象を科学的に一つの真理として解明することは難しい。定義として「燃焼とは急激な酸化現象」というのがあるが、その現象を研究してみるとそこで起きているのは酸化だけではない(注)ことに気がつく。
この科学的な定義がおかしいのだが、未だにこの定義が教科書や論文に書かれている。仕方がないので、当方も論文執筆を頼まれると、一応この定義を書くが、当方はこの定義に納得しているわけではない。
ところで高分子の難燃化研究を担当したころにJISでLOI(極限酸素指数)という値の計測方法が難燃性の評価指数として決まった。これは、物質が継続燃焼するために必要な酸素濃度を指数で示したものだ。すなわち教科書に書かれた燃焼の定義に基づく燃焼評価法である。
さすがに科学的だけあって、高分子に難燃剤を添加してゆくと、その添加量とLOIとの間に線形性が認められる。それゆえ自己消火性を示すのに必要となる難燃剤の添加量を決めるにはLOIが適している。ただし、難燃性を発現する機能の選択を変えたときに適していない場合もある。この科学の問題もセミナーで解説している。
(注)酸化が引き金になってラジカルが発生し、様々な反応が系統的に発生する図を見たことがあるが、これは科学でうそをついた図だと思っている。
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科学の方法で技術開発を進めると効率が悪い、と思っている。分析や解析は科学的プロセスで行わなければならないが、モノを創りだすプロセスは科学の方法ではなく、人類がはるか昔から行ってきた技術の方法が効率を上げるだけでなく仕事の仕方を変える。
技術者が開発を進めるときに20世紀には仮説を立てそれを確認するために実験を行え、とよく言われた。ゴム会社の研究所でも写真会社でも同様のことを言われたので多くの日本企業で科学の方法が推奨されていたのだろうと思っている。
しかし、仮説を確認するための実験で仮説を支持しない結果となったらどうするか。そのまま否定証明に走る問題をこの欄で紹介している。電気粘性流体の増粘問題や酸化スズゾルを用いた帯電防止層の開発では否定証明により、技術として選択されるべき手段が科学的に否定された。
仮に科学的に否定されたとしても技術としてある機能を実現しなければならないのなら、何とかしなければいけないのがメーカーの技術者の役割である。「水」を「金」にするような技術は、明らかに不可能だが、科学で未解明の現象であれば、そこから機能を取り出せるかもしれない。また、科学で未解明だからこそ宝物の機能が眠っているかもしれない。
技術の方法では、科学で解明されている現象であればそこから科学の真理に基づく機能を取り出して使えばよく、仮に科学で未解明の現象でもそこに人類に有益な機能が潜んでいるならば、試行錯誤をしてでも取り出さなければいけない。
科学で未解明の現象であれば、そこに潜んでいる機能を取り出すためにすべての条件について試行錯誤で実験を行えばそれが可能となる。タグチメソッドではこの合理化した方法を提供してくれる。
タグチメソッドの詳細は省略するが、その実験方法は科学の方法と異なる(注)。また実験は計画的に行われるので、仮説立案→実験→考察という細かい繰り返しが無くなり残業時間の管理が可能となる。また、科学の考察という、仕事をやっているのかやっていないのかわからないような業務も無くなる。
(注)タグチメソッドは実験計画法ではない、と故田口玄一先生はよく言われた。またこれが技術的方法であることも力説された。しかし、科学的ではない、とは言われなかった。当方はこのメソッドをなぜ非科学として指導されないのか不思議に思っている。指導者の中には、科学の権威のごとく態度でこれを指導される先生がいらっしゃるが、その先生を眺めていると滑稽である。当方は非科学でこのメソッドほど自然界から効率よく機能を取り出せる方法を知らない。また、当方もゴム会社で実験計画法を使い実験していた時に、自然とタグチメソッドもどきの方法を考案し使っていたので、小学校から学びながらその手法を使いこなすのに苦労する科学よりも自然な方法だと思っている。
<技術の方法>
タグチメソッド以外に技術の方法には様々な手法が存在する。また科学を道具として活用する方法は、多くの職場でよく見られる。当方のセミナーではこれらのいくつかを取り上げ、上手な使い方を指導している。
<科学で未解明だがうまく機能を取り出した事例>
1.高純度SiCの前駆体技術
→χ>0であるのに有機高分子と無機高分子を相溶させた。
2.電気粘性流体用3種の構造制御粉体
→電気粘性流体用粉体について科学的未解明の時代の発明。
→いわゆる「心眼」で設計。
*心眼を用いることは技術者ならば誰でも可能。
3.カオス混合技術
→あっと驚く技術である。すでに説明済み。
4.6ナイロンが相溶したPPS中間転写ベルト
→χ>0である6ナイロンとPPSを相溶。
5.各種高分子難燃化技術
6.PETボトルの再生樹脂を用いた樹脂
7.変性ポリスチレンを相溶させたポリオレフィン樹脂
→χ>0であるポリマーブレンドで透明になっている。
8.柄杓を用いたラテックス合成プロセス
→ラテックス合成後に柄杓で3回上澄みをとる技術。
→柄杓を用いると歩留まりが著しく改善された。
→他の方法では改善できなかった。
→古くから現場で密かに伝承されていた方法である。
<科学的否定証明をひっくり返した例>
1.電気粘性流体の増粘問題解決
2.酸化スズゾル帯電防止層
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ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの工場試作は大成功だった。その結果始末書を書いた話はこの欄で紹介している。その時の始末書ではリベンジとしてホウ酸エステル変性フォームを提案している。
この企画アイデアは、ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの高い難燃性がどこから由来するのか解析して得られた科学の成果である。この解析結果で、リン酸エステル系難燃剤とホスファゼン系難燃剤の燃焼時の挙動に差異が見つかった。
これは、燃焼試験で得られたサンプルの燃焼面を化学分析して発見された。得られた事実とは、「リン酸エステル系難燃剤を用いたサンプルでは、燃焼後、リン酸ユニットがほとんどその燃焼面に観察されないのに、ホスファゼン系難燃剤を用いた系では、反応型であれ添加型であれリン酸ユニットが燃焼面に添加量に相当する量で残っている」である。
この事実は、さらに「リン酸エステル系難燃剤は、それが添加された高分子の燃焼時に熱分解してオルソリン酸となり揮発している可能性があるのではないか」、という仮説につながっている。この仮説を確認するために、燃焼時に揮発しているガスの分析を行った。
すると、リン酸エステル系難燃剤を用いた系の燃焼時の炎の中にはオルソリン酸が検出されたが、ホスファゼンの系ではそれがまったく検出されなかった、という結果が得られた。
詳細を省略するが、この結果からさらに、「燃焼時にリン酸ユニットを燃焼面に補足する機能を系に備えれば、安価なリン酸エステル系難燃剤を使用してもホスファゼン同様の高い難燃効果が得られる」という仮説を立て、リン酸エステル系難燃剤とホウ酸エステル系化合物との組み合わせシステム(燃焼時に無機高分子を生成するシステム)を考え実験を進めた。
ところが、この仮説で排除された考え方の一つに、ホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤を単純に組み合わせて使用するというアイデアがある(詳細は当方のセミナーで説明しています)。退職後このアイデアをPC/ABSで試してみたら、ホスファゼンの少量添加とリン酸エステル系難燃剤の組み合わせで高い難燃効果が発現することが分かった。
30年以上前の気になっていたことが確認された瞬間、科学100%で技術開発を進めるリスクを改めて認識した。当時は仮説のすばらしさを褒められ、反省していないと指摘された始末書は人事部に提出されなかったそうだ。
そしてホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームという商品が完成し、高分子学会でも発表することになった。この過程で単純なアイデアが見落とされていることに誰も気がついていなかった。当方は開発途中で気がついたが、それを提案できる雰囲気ではなく(上司への忖度はサラリーマンの常である)、そのためチャンスがあったら確認しようと思い続け4年ほど前に実験を行った。
<仮説に基づく実験>
ある現象から見出した事実について、その真偽を確認するために仮説を設定する。事実がそのまま再現するかどうか、という実験は、再現実験であり、これは誰がやっても同じ実験になる(補足)が、仮説に基づく実験、すなわち仮説が「真」となるかどうか確認する実験は、それにより様々な実験が考えられる。この時に排除されるアイデアが生まれる。それを防ぐためには様々な可能性のある仮説を考えろ、と言われるが、本当にこれで防げるのか?ご興味のある方はお問い合わせいただくか、今後開催されるセミナーにご参加ください。
(補足)同じ実験を行っても再現されなかったのがSTAP細胞騒動である。実験にはノイズにより誤差が発生するので、同じ実験を行ったつもりでも、いつも同じ結果となるとは限らない。このときどう対応するのか、という問題もある。この対策が技術者と科学者で異なるアクションとなる。科学者ではモノづくりが出来ないといわれる所以である。実際にSTAP細胞騒動では特許を取り下げる愚行まで行っている。警鐘を鳴らす自殺者まで出たのに、国民の税金が無駄に使われた。STAP細胞騒動では、改めて科学とは何かを考える機会になった。
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科学のプロセスで技術開発を行うときに、仮説立案は注意しなければいけない過程である。電気粘性流体の例で示したように、仮説に基づく実験(仮説に基づいてHLB値が明確に定まる界面活性剤が用いられて実験が行われた)の結果から否定証明を始めている。そして仮説で排除された界面活性剤(実験で検討されたHLB値の範囲に含まれた界面活性剤でも曇点や分子量が異なれば界面活性効果は異なる場合があるが、どのように異なるのか科学的に解明されていない)から解決策が見つかっている。
「実験は仮説を確認するために行い、試行錯誤の実験などもう終わりにせよ」とは20世紀に研究所でよく叫ばれたかけ声である。そして仮説立案の苦手な研究員は研究職に向かない、という人事評価をされた例も見てきた。
科学の研究において仮説立案の能力は重要である。しかし、技術開発において仮説はそれほど重要ではないと、退職してから思うようになってきた。それは中国で技術指導してみて感じたことだ。
どのような実験をしたら良いのかコツを伝授するだけでうまく応用展開して行く。このような光景を見ていると仮説など無くても技術開発ができるのでは、と思って日本でも同様に試してみたら、科学などほど遠い仕事をしてきた若者が新しい技術を見つけてくれた。
コーチングのなせる技と言ってしまえば自画自賛になる。そもそも技術開発は人間の自然な営みで楽しい行為であることに気がつくべきで、楽しければ人間は無駄と思われる余分な作業でも喜んでする。新たな発見は案外そんなところから生まれがちである。
これは仮説を立案したために排除された現象に潜むアイデアをどうしたらよいか、という問題提起となる。答えは「対偶関係は真」というコツだが、これは機会があるときに説明する。アイデア創出法として当方のセミナーで扱っている。
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経済産業省若手の作成した資料がネットで話題になっている。日本を何とかしないとあと数年でだめになる、という現状認識で作られた資料だ。
バブル崩壊後20年かけて何とか経済復興の兆しが見えてきたかのようだが、彼らの認識は厳しく現状を捉えており好感が持てる。
日本の再生に高齢者をもっと働かせたらどうかという提言もあるそうだ。これには同感で、当方はそのつもりで起業し、死ぬまで働く覚悟で頑張っている。特に団塊の世代では組織で出世された方が多く高い給与を頂いているはずなので、投資だけでも良いからお願いすべきである。
当方が今取り組んでいるのは、行き過ぎた科学偏重の技術開発を人間らしい営みに変える取り組みである。当方は哲学者ではないから科学を批判するつもりはない。科学教育は今までどおりでもよいが研究開発も含めたビジネスプロセスについて、もう少し自由な発想があってもよいのではないかと思う。
科学は自然の理解を進めるためには大切な哲学であり、おそらく唯一の方法(注)だと思うが、自然から機能を取り出したり、それを応用したシステムを作る作業については科学的である必要はない。むしろ科学に拘りすぎると作業そのものが難解になる可能性がある。
恐らく分析や解析については、小学校から学んできた科学の方法を適用するのは難しくないだろう。しかしモノ造りでは、科学にとらわれることなく人間の発想力を生かすような方法をとったほうがよい。
科学と技術の間で悩みながら30年以上続けた研究開発で科学的方法と非科学的方法を試してきた。その結果非科学的なヒューマンプロセスを科学同様に活用した方が創造性豊かな技術開発が可能という結論に至った。
これまで科学に偏重しすぎた日本を少しでも変えることができればと頑張っている。中国では当方の考え方が素直に受け入れられて多数の成果が出ている。熱伝導性光散乱樹脂など光散乱樹脂をご存じの方は非科学的な仕掛の内容を想像できないのではないかと思う。ご興味のある方は問い合わせてほしい。
(注)市場も自然と同様に科学的方法で理解でき、最近はビッグデータがもてはやされている。ビッグデータから見えてくる姿について、科学的な処理を行えばだれでも同じ結果となるはずだ。そうでなければ科学的と言えない。しかし、イノベーションを起こす方法についてはヒューマンプロセスで独自のアプローチをしたものが市場の勝者となる。
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ようやく5月17日の補足である。否定証明の問題は、科学のプロセスを採用している技術開発で、そのゴール実現が難しいと思われるときに起きる。
だからといって、非科学的な根性論を取り入れて「完成するまで、頑張れ」とマネジメント(注1)すれば防げる、という訳でもない。
それを防ぐには、非科学的ではあるが、考えられる限り全ての条件について実験で確認するようなプロセスを採用すれば、何か技術を進歩させるネタが見つかるかもしれない。これを効率よく行うにはラテン方格を用いる。
酸化スズゾルの帯電防止層について特許の実施例を再現するにあたり、実施例に書かれていない条件をすべて書き出し、書き出された全ての条件の組み合わせについて処方を組み立て、それらの塗布条件で手当たり次第PETに手作業のワイヤーバー塗布を行い、出来立ての塗布膜の導電性を評価していった。
このようなプロセスは仮説に基づく科学的な実験のやり方とは異なり、効率の悪い非科学的方法として企業の研究所では忌み嫌われる。仮にラテン方格を使ったとしてもゴム会社の研究所では馬鹿にされている。
科学者と自称する人たちは、仮説に基づく実験こそ効率的、と信じている。しかし、技術開発でモノ造りのゴール実現が難しいテーマで、そのように進めると否定証明に走るリスクが高くなる(注2)。
仮説に基づく実験は重要である。しかし、それはモノができてから、「どうしてそれができたのか、もっと良い方法はないのか」と解析するときに行えばよい。モノが一度さえできれば、否定証明に走るリスクはほとんど無くなる。
だから酸化スズゾルの帯電防止層開発では、まず特許の実施例を再現してから、その再現された現象について解析を進めるといったプロセスで技術開発を行っている。この解析を進めるプロセスは100%科学的プロセスである。だから日本化学会で発表し講演賞を受賞できた。
(注1)高純度SiCの開発を担当していたときに、当事者である当方の気持ちなど無視して研究所内でこのような経営批判も聞かれたが、経営陣は決して根性論を持ち出さず、いつでもタオルを投げると優しく言ってくれていた。高純度SiCは非科学的プロセスで仕事を進めたので30年以上続く事業となったのである。また、その成果を解析する仕事(反応速度論による解析)で学位を取得している。技術を創り上げてから科学で技術を伝承しやすいようにまとめたのである。このスタイルは技術開発において否定証明を避ける良い方法である。技術開発は事業を生み出してこそ意味がある。科学の研究が目的ではない。
(注2)不適切な仮説を立てたために否定証明に走ってしまうのだが、仮説が適切かどうかについては、論理の視点で評価している。これを忘れている。自然現象がすべて論理的に説明できるためには、自然現象のすべてが科学的に解明され、その論理的つながりが明らかになっているときだけである。技術開発の過程で、二律背反の現象に時々遭遇するが、その中には、完璧に科学的に矛盾する現象もあれば、表層に現れた現象だけが科学的に矛盾する場合なども存在する。前者は回避手段はないが後者はすりあわせやKKDを駆使して解消する。商品開発では、ありがたいことにたいていは後者で対応可能な現象が多い。電気粘性流体でもすべての界面活性剤の機能をHLB値で説明できるという勘違いをしたために否定証明に走っている。アカデミアの先生が書かれた教科書の中には未だに間違った記述がなされている本も存在する。科学の研究は、自分で解きやすい問題を設定して進められている、というやや皮肉的な見方をしたほうがアイデアを出しやすい。小生のアイデア創出法の一つに「科学を疑ってみる」というのがある。
<企業における研究開発>
30数年間企業における研究開発の現場で様々な科学者と自称する人々の仕事の進め方を見てきたが、厳密な科学のプロセスを踏んでいる人はほとんどいなかった。分析や解析業務でもいい加減に進める人がいる。ただ報告書だけはさすがに論理的に書いている。だからねつ造のような報告書も多い。すなわち論理に厳密になるためにこじつけを行うのである。科学雑誌に投稿したらアウトになるような報告書をたくさん見てきた。そろそろ科学科学と叫ぶことをやめてもいいのではないかと思う。もう21世紀である。技術開発を真摯に目指すべきである。科学は自然を理解するための哲学であって、自然を理解し(これは小学校から学んでいる科学の方法で行う)そこに潜む人類に有用な機能をとりだすのは技術の方法で行うのが一番良い。
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