2005年に豊川へ単身赴任し、PPS/6ナイロン/カーボンの配合による半導体無端ベルトの押出成形の量産を立ち上げた。前任者が6年近く研究開発された技術だったが、試作段階で歩留まりが10%以下であり、半年後の量産にそなえ、窓際だった当方にバトンタッチしたのである。
前任者は大変良い判断力の人である。窓際で平衡状態になっていなかった、まだ活性の高かった当方に相談に来たのが良かった。窓際で2-3年過ごしたサラリーマンは大抵平衡状態になり、そのまま定年を迎えることになる。
窓際の居心地が悪かった当方は、2010年に早期退職する覚悟を決めて、ゴム会社の新入社員時代に指導社員から宿題として出されたカオス混合プロセスをいきなり量産で試してみる決断をした。
また、技術が暗礁に乗り上げた状態だっただけでなく、配合はそのままで、と言う条件付きだったのもこの決断をしなければいけない要因だった。
窓際で非平衡状態だったので決断も早くできた。コンパウンドメーカーの技術者にアイデアを話したところ断られた話は、この欄に何度も書いているが、断られても活性の高い状態は収まらず、中古機を集めて半年でカオス混合によるコンパウンド工場を立ち上げている。
この時、プラントが完成した最初の混練では、PPS/6ナイロンはじめ各種のナイロンとのプレンドサンプルを作成している。カオス混合の効果を確認するためである。この時当方は驚かなかったが、中途採用した優秀な若者は最初に流れ出したPPS/6ナイロンの溶融樹脂を見て腰を抜かしている。
この腰を抜かすところが大変優秀な証拠であり、高分子科学を知らない人ならば驚かない現象が目の前で起きたのである。フローリー・ハギンズ理論に従えば、不透明で白い溶融樹脂が吐出されるはずだった。
それが透明な樹脂液として出てきて、透明ストランドを引くことができたのだ。それもPPS単独よりも透明度の高いストランドを引くことができた。
PPS単独よりも透明度が高くなった理由として、完全に6ナイロンが相溶し、PPSがアモルファス状態だったからである。当方はこの時は驚かなかったが、12ナイロンまで透明だったのは少しびっくりした。
その後、在職中密かにこのストランドを机の引き出しから出して眺めるのが楽しみの一つになった。誰も見ていないことを確認して、こっそりと引き出し、ストランドを眺めて、にやりとする、と書くと誤解を受けるかもしれないが、いつ透明度が下がり不透明になるのか心配だっただけである。
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イーロンマスク氏が度を過ぎたリストラを行ったために、ニューヨーク本社では悪臭が漂っている、という。原因は清掃の外部発注までリストラしたため、とか。
その結果、トイレだけでなく室内にもゴミが散らかり、モラールまで落ちてきたという。このようなニュースが流れるのは、現場のマネージメントまで崩壊しているからだろう。
ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げたときも大変だった。2億4千万円の先行投資が決まり、ファインセラミックス研究棟の起工式の日に倒れ入院していたリーダーが竣工式の日に胃がんで亡くなった。
その後人員が補強されたが、本部長が交代するや否やテーマの見直しが行われ、管理職が2人から一人となり、担当者も5名となった。
やがて、管理職もリストラされ当方一人となって、さあどうしよう、と本部長に相談したら営業をやれという。高純度SiCの粉末が売れるかどうか自分で確認しろ、と言われた。
企画検討会で管理職に「女学生より甘い」という迷言を発した厳しい本部長だったが、指示と判断はいつも的確であり、当方にとって厳しい命令だったが反論せず納得して従っている。
その結果、住友金属工業とのJVについて社長印を頂き(注)、立ち上げることができたのだが、本部長が交代したところで、電気粘性流体の耐久性問題解決のため、加硫剤も老化防止剤もすべての添加剤が入っていないゴムを開発することになった。
その結果どうしたかは、すでにこの欄で書いているが、一人でファインセラミックス研究棟で仕事をしているとき、何も問題解決しなければ、ツイッター社の現状と同様になるところだった。
一人になることが分かった時に、大掃除をしている。そして、自分が行動する範囲の必要なところにPC9801を配置している。当時LANなど無かった時代であり、FDを持ち歩きデータ移動していた。
ゴミの原因となる紙の使用を辞めた。そしてトイレは他部署のトイレを使用するなどファインセラミックス棟を汚さないことを心掛けた。コンピューターの出力も研究所の共有プリンターを使っている。
ペーパーレスと徹底して他部署のインフラを使用する工夫により、ファインセラミックス棟の掃除の負担はじめ人件費以外の予算を減らしたのだ。営業結果は直接本部長に報告していたので、わざわざまとめる必要は無かった(余分な報告は不要と言われた。)。
売れたかどうかだけで十分だった。ゆえに住友金属工業とのJV立ち上げも迅速に決まり、半導体治工具事業へまっしぐら、というところで本部長が交代してFDを壊されるようになった。そして転職である。
ファインセラミックス棟はツイッター社本社のようにゴミで溢れることは無かった。事業は当方が転職後も続き、住友金属工業が新日鉄住金となった時に高純度SiC事業はゴム会社で継承されることになり、事業開始から30年続き、愛知県にあるMARUWAへ事業譲渡されている。
ゴム会社で異色の新事業「高純度SiCの半導体治工具事業」は、日本化学会化学技術賞はじめ数々の賞を頂いている。この事業は、「女学生より」と書けない時代となったが、「女学生より甘い」と言われないように仕事をした成果である。すなわちU本部長のマネジメントの成果である。
(注)この時の契約書は、本部長が交代するというので当時閑職だった管理職が起案し、当方が転職後はその方がリーダーとなり事業を推進している。この方は、一人になった当方の面倒をよく見てくれて、転職する相談をしたときには、ゴム会社の子会社をいくつか紹介してくださった。興味を持った1社には子会社社長にもあいさつのため出張している。(子会社の紹介がFD事件の答えと知り、U本部長からI本部長に交代したテーマの扱いの変化を知った。臭いものにはすべて見えないようにふたをするマネジメントになった。正しい問題は、FDを壊したりするような他人の業務妨害が起きる風土の是正である。そもそもタイヤ開発部門と研究部門とは当時大きく風土が異なっていた。)。結局ヘッドハンティングの会社が写真会社を紹介してくれて、セラミックス以外の業務、フィルムの開発業務ということで円満退社となっている。円満退社であるが最後まで人事部が押印してくれなかったので年金手帳はじめ転職のための手続きは写真会社へ出勤してから進められた。これもサラリーマンとしておかしな体験で、I本部長に追い出されたようなものである。また、給与明細書を見るとこの年の10月度の年金はゴム会社と写真会社から支払われている。これも消えた年金問題の一例である。送別会も転職後有志による開催で、茨城カントリークラブ1泊2日の豪華なものだった。その結果、転職後もしばらく高純度SiCの業務を手伝うことになった。当方の体験は、恐らく自殺したくなる体験ともいえる。パワハラなどで自殺するニュースが後を絶たないが、死ぬ前に考えていただきたいのが、命をかけて仕事をやったとしても報われない世の中である、と言う事実だ。この高純度SiCの仕事が転職後どのように扱われたのか、あるいは関係者のその後の行動を思う時に、日本のGDPが上がらない原因の一つのように思えたりする。ドラッカーが誠実な人をリーダーに、とわざわざ著書に書いているのは、そのような人がリーダーとして選ばれていない事例が多いためだろう。これは日本社会に限ったことではない。不誠実な人間が風土を悪化させていることは明らかであり、そのために命をささげる、と考えたときにばかばかしい、と思っていただきたい。組織で活動する期間よりも人間の寿命の方が長いのである。誠実に生きることの大切さをドラッカーは指摘しているが、大切というよりも気持ちが良い生き方である。ゴム会社のある管理職の葬儀の連絡を受け参加したが、そこにFDを壊した犯人の出席は無かった。出席すべき人間関係の故人の葬儀に出られない、ということをどのようにとらえるか。この世の幸不幸、楽しみの味わいその他は、自然災害や不慮の事故を除けば、結局人間関係の中の出来事である。家族との交流、友人との交流、職場における交流など様々あるが、血のつながっていない職場における交流は容易に避けることができる交流である。それゆえ、マネジメントによる風土の向上が重要となってくる。かつてハーズバーグの衛生要因は動機づけとはならない、と習ったが、不満が充満してくると良からぬことを考える人がでてくる。結果その人によりモラールダウンする人が出てくるので衛生要因といっても軽視できない。やはり動機づけと同様に衛生要因にもリーダーは配慮すべきである。ゆえにツイッター社の混乱はマネジメントの崩壊と感じた。
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材料技術者としてのスタートにおいて混練の神様と呼びたくなるような指導社員の指導を受けることができて幸運だった。指導社員はレオロジーが専門であり物理系の技術者と言える。化学系の技術者はゴムの緩和時間など意識しない人が多い。
力学的緩和以外に電気でも緩和現象が存在する。電気の場合には電子のキャリアとその環境に依存した緩和時間をとる。高分子材料の導電性測定をするとゆっくりと抵抗が低下する現象(抵抗が上がる場合もある)に出会う。
ISOの抵抗測定法には、電圧印加後一定時間経過してから抵抗測定をするように書かれている。ゆえに高分子材料の電気特性については、どのように計測されたデータかどうかが重要になってくる。
50年ほど前に高分子の緩和現象の一つとして誘電緩和について活発に研究がされた時代があった。高分子材料では、あらゆる物性がサンプル製造直後から変化することを知っておいた方が良い。
すなわち、プロセシングにより高分子材料の内部に歪が発生するが、これが十分に緩和し平衡状態になるまで物性が安定しない、と言うことを忘れないでいただきたい。
緩和時間については、力学的な測定法と電気的な測定法で異なる値が得られるが、これは観察している対象が異なるためである。また、高分子の側鎖と主鎖それぞれについても異なる。
このあたりの物性に対する「感覚」あるいは「勘所」が、樹脂技術者とゴム技術者で異なる場合がある。樹脂とゴムでは、室温において前者はTg以下の状態であるが、後者はTg以上の状態の物性を示していることを忘れてはいけない。
TPEは悩ましい材料であるが、LGBTなど多様性が叫ばれている現代においては、昔より抵抗なく接することができる。40年近く前にはポリウレタンを弾性体として扱いたくない人がいた。
ただし、ゴムのように硫黄で架橋しなくてもウレアの凝集部分が架橋点となり、ソフトセグメントの存在で弾性を示す軟質ポリウレタンは、立派な弾性体である。そしてソフトセグメントのTgは室温以下である。
ソフトセグメントの存在しないポリウレタンは、硬質ポリウレタンで樹脂だった。硬質ポリウレタンと軟質ポリウレタンでは、合成後の物性が安定するまでの時間が異なっていた。
加硫ゴムの研究とTPEの研究、そしてセラミックスの研究まで経験してみると、高分子材料はその物性の扱いが難しい材料と感じている。
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先週第一回を見たときに書こうと思ったが、我慢して第二回まで見た感想を。おそらく当方と同じような年代は、大物役者陣のファン以外はこのドラマ、面白くないのではないか。
当方はどこか楽しめる要素が無いのか探しながら第二回まで見て、ようやく娯楽番組として楽しむことができた。ただし、まるでゲームを見ているようで少々疲れた。
これは結果の分かっているゲームの再現であると理解してみれば、十分に面白いドラマである。しかし、昔ながらの歴史ドラマとして楽しもうとするとその軽い描写に興味が減退する。
歴史ドラマというものは、やはり歴史の重さを感じさせてもらわなければつまらないのだ。例えばあの水戸黄門でさえ歴史ドラマとして楽しまれていたので、電線が映りこんでいたりするとクレームが放送局に届いたりしていた。
しかし、「どうする家康」では、面白さを追求した描写になっており、いくらその時代を見た人がいないと言ってもやりすぎの描写が多かった。若い人にはゲームあるいは漫画的であり楽しいかもしれないが、歴史ドラマについて一定のパラダイムを形成した頭脳の年代には「楽しめない」可能性がある。
当方は昨日見るつもりは無かったが、どこか面白いところは無いのか探す目的で我慢して見たところ、歴史ドラマという枠を取り払って娯楽番組として見たならば面白いことに気がついた。
CGなどをふんだんに使い、テンポよく(年寄りにはついていけないが)ゲームのように場面が変わる展開は、若い人に大いに楽しめる番組ではないのかと感じた。頭を若いモードに切り替えるとそこそこ面白い番組である。
これは、従来の科学的に実験を進める研究の方法と、データサイエンスを用いてヒューリスティックな解を得て実験を進める研究の方法との違いに似ている。
DXが進展し、コンピューター資源をほぼ無料で使える時代に従来のパラダイムで研究を進めている企業の研究者は時代遅れであり、データサイエンスを取り入れた方法を科学的と感じられるような研究者となることを求めているように今年の大河ドラマを感じたのである。
どうする技術者、と言いたいところだが、弊社で一日一万円の安価なコースを準備中なので安心してほしい。DX時代の技術開発が可能となるスキルを習得できるプログラムを近く公開予定です。
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材料関係の教科書に書かれている話は、大半が平衡時の現象についてである。この重要性について意識していない人がいる。もっとも意識していなくても大きな問題とならないので無視されているのかもしれない。
樹脂補強ゴムの開発を担当した時に、指導社員からバンバリーで混練した材料は1週間ほど放置してからロール混練するように言われた。少なくとも24時間は放置するようにとの注意も受けている。
またロール混練したゴムも同様であり、混練した後少なくとも24時間以上放置してから加硫ゴムサンプルを製造するよう指導された。周囲の研究者には、ニーダーで混練している人もいたが、混練してすぐに加硫ゴムを作成している人が多かった。
指導社員は、他の人が異なる条件で実験をやっていたとしても、加硫ゴムサンプルを製造するときには混練後24時間以上静置したゴムを使用する条件は必ず守ること、と言われた。
水溶液のような粘度の低い物質の場合に混合撹拌後平衡状態になるのは早い。しかし、ゴムのような高粘度物質の場合に混練後平衡状態に達するまでの時間は、配合にもよるが、早くても10時間はかかるとのこと。
すなわちゴムの緩和時間は温度などの因子にも影響を受けるので、平衡状態に達する時間を一定と考えることができない。それで少なくとも24時間以上静置してから次のプロセスにかける必要がある、というのが指導社員の説明だった。
指導社員はこの静置時間についてもデータを採取しており、早いサンプルで10時間以上の静置によりゴム物性のバラつきが一定になっていた。
24時間以上というのは最低限の時間であり、できれば無限に静置してからが望ましいがそれでは仕事にならないので好ましくは1週間以上と言われたのだそうだ。
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仮説を立て実験を行い、仮説から外れたデータが得られた時にどうするのか。一つは仮説が間違っていたとして、否定証明に切り替える研究を進める方法がある。
イムレラカトシュも指摘しているように、科学的に厳密に突き詰めてゆくと、否定証明が唯一完璧な科学的方法だという。
電気粘性流体の耐久試験問題で、界面活性剤では問題解決できない、という否定証明の論文を転職直前に読んだが、確かに科学的に完璧な論文だった。
当方はこの論文の存在を知らなかったおかげで、この論文の内容を一晩でひっくり返す実験を行って、電気粘性流体の耐久性問題を界面活性剤で解決できた。
これは科学における実験を考えるために良い事例だと思う。ただしこの事例のために当方は転職までしなければいけなくなったのだが、これは誠実真摯な技術者であろうとした若い時の行動である。
話が横道にそれたが、仮説から外れたデータが得られた時にとる方法として、技術者ならば仮説に含まれていない因子を使って仮説に適合する結果を出す努力をする。すなわち、仮説から外れたデータが得られた時に科学者と技術者は異なる行動をとる。
これは、技術者というものは機能を実現することが使命として存在するからである。機能を実現する因子を探すために仮説を立てて実験を行い、その仮説が外れても、仮説が成立しなければ機能を実現できないとなると必死で他の因子を探し、仮説を成立させようと努力する。
この時効率の良い方法がタグチメソッドである。タグチメソッドでは想定される制御可能な因子をラテン方格に割り付け実験を行う。このときどの制御因子が有効かは考えていない(仮説が無くてもタグチメソッドの実験は成功する)。実験計画に基づく実験が終了して初めて制御因子が明らかになるのだ。
明らかになった制御因子を用いて再現実験を行いデータをだす。この時のデータは、機能を実現するためにロバストの高いデータであり、市場における再現性は高い。ただし、制御因子が科学的に納得できない場合も電気粘性流体の耐久性問題を解決したように制御因子は存在する。
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ゴム会社に入社し10月に研究所へ配属され樹脂補強ゴムの開発を担当していた時に、先輩社員から混練は楽しいでしょう、と話しかけられた。
これは皮肉を込めた言葉だったのだが、楽しいというよりも毎日疑心暗鬼の生活です、と正直に応えている。初めてロール混練を実験していた時で、指導社員から渡されたサンプルと同一配合のゴムを目的の物性が出るまで混練の練習をするのが課題だった。
先輩社員はその課題を知っていて話しかけてきたのである。その先輩は昨年まで大変な研究を担当していた、と言われた。何が大変だったのか尋ねたところ、主幹研究員の理論通りのデータを出すことが目標だった、という。
捏造が許されないので、予測式に合致するデータが出るまで実験を繰り返しやらされたという。その時どうしても予測式に合致するデータが出なかったので、混練条件を変更して実験したところ、予測式通りのデータを出すことができたという。
実験している最中に何度も捏造の二文字が目の前に現れたが、技術者は捏造をやってはだめだと、先輩社員はまっとうな説教を始めた。
やや疲れ気味なイメージの方だったが、説教は精神論としてまともだった。誠実真摯な姿勢で実験をやってこそ最高の品質で世界に貢献できるというような内容だったが、データの捏造をやるぐらいなら実験条件を変えて実験を行い、自分の欲しいデータを出した方が良い、という一言には少し疑問を持った。
しかし、当時ロール混練の練習をしている目標は、まさに指導社員が欲しいデータと言ってよいものだった。ただしその目標は指導社員が予備実験で出されたデータだった。
指導社員が予備実験で出されたデータを当方が出すことができない、と言う事実は、混練技術の未熟さを示すものだと思っていたが、やがて混練技術の科学で解明されていない奥深い世界であることに気がついた。
仮説に基づく実験で仮説に入っていない因子を変えて都合の良いデータを出す行為と捏造とどこが違うのか、という疑問を持たれる方がいるかもしれないが、前者は実験事実という説得力がある。
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マテリアルズインフォマティクスはじめデータサイエンスの大流行であるが、そもそもデータサイエンスが何か、あるいは科学とは何か、を正しく理解しているのだろうか。
まず、科学が産業革命を加速したことを知らない人が多い。1800年前の女性科学者が、と書いている某女性「科学評論家」の記事を読み、初笑いした(TVでも見かける有名な方である。)。
およそ科学に対する理解はこの程度なのか、と笑った後にため息が出たが、論理学が完成して科学が誕生したことぐらいは知っておいてほしい。あのニュートンでさえ、科学者ではない、とマッハに言われているのだ。
データサイエンスにおけるデータは、科学では仮説に基づく実験により得られた、実験において発生した現象を記述できる実体である。
科学に基づく実験以外で得られるデータは、科学的に収集されたデータと言う意味ならば、それは統計的に正しく評価されたデータのことであることを忘れてはいけない。
すなわち、データサイエンスで扱うデータには、科学に基づく実験データとその他のデータの2種類が存在することを忘れてはいけない。後者は40年ほど前には非科学的データと呼ばれていたのである。
例えば、ゼロコロナ政策を180度転換した中国がコロナ死者数を少なく発表している。このデータについてWHOは非科学的データと非難しているように、データがすべて科学的では無いのだ。
一方、科学と非科学の境界を明確に理解していなければ、科学的データを見分けることができない。本日日本の宇宙飛行士のいいかげんな研究データ扱い(注)について、本人から釈明の記者会見が行われるが、STAP細胞であれだけ大騒ぎしても公的研究機関の研究者は懲りないのだ。
民間では常に市場という厳しい裁判所で研究データの審判を受けることになる。科学的データでなければ実験室の再現を市場で期待することができない。
また、科学的データでもそのばらつきにより、市場で痛い目に合うのだ。ロバストを追求した実験データについて科学的検証が加えられたデータではじめて市場で安心してその再現性データを収集することができる。
(注)本日この研究者の監督責任が公開され、最も軽い処分が下されたが、研究担当者はそれよりも2階級重い停職だった。
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製品化まで半年という状況で基盤技術など無かったコンパウンド製造工場を立ち上げるという仕事は、組織に大きなイノベーションを引き起こす。
まず、アジャイル開発というDXの進展で一般的になりはじめた開発手法が受け入れられるかどうか。さらに外部のコンパウンドメーカーも知らないカオス混合技術が成功するかどうかという心配。その上フローリー・ハギンズ理論に反するような現象をプロセスに導入しようという非科学的思考。
これ以外に、コンパウンドは一流コンパウンドメーカーから購入するのが一番確実と根拠なく信じてきた材料調達の考え方にもイノベーションを迫る。
そもそも一流コンパウンドメーカーでどうして歩留まりを改善できるコンパウンドを製造できないのか、という疑問を解消しなければ、どこの組織であってもコンパウンド工場を半年で立ち上げるというチャレンジを無謀と考えるだろう。
半導体無端ベルトの押出成形の成功は、半導体用高純度SiCの事業化で学んだ企画推進ノウハウを十分に発揮できた。
どんな小さな成果でも従来と異なる新技術の実用化では、組織で大なり小なりイノベーションを引き起こす。ゴム会社でセラミックス事業を起業することがどれほどのイノベーションを引き起こすのか若い時には考えもしなかった。
しかし、半導体無端ベルトの押出成形では、イノベーションの大きさを十分に考慮し、組織内外の調整にまず全精力を費やした。特に身内には反感を買わないようにコンパウンド開発の人材を新たに外部から採用している。
企画は良かったけれどうまくゆかない原因の一つに組織内外の協力が得られず、失敗する例が日本では多いと聞いている。また、当方もその体験をしており、企画を成功させるために当方自ら転職するような選択までしなければいけなかった。
カオス混合プラントの建設では、もしセンター長が反対しておれば実現しなかった。また、品質保証部の協力が得られなければ、半年という短期間にQMSを満たすような開発などできなかった。
また部下の課長がへそでも曲げてコンパウンドの性能評価計画を1日でも遅らせたなら失敗していたかもしれない。大きなイノベーションを伴う技術開発では、周囲の協力が不可欠であるが、そのとき関係者が皆同じゴールの成功を喜べるイノベーションとなるように推進する努力が重要である。
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とりわけ日本では、当方の転職事例だけでなく、最近でも忖度自殺が財務省であったように、正義不正義などお構いなしの社会における組織であることを充分に認識してイノベーションを進めなければならない。これが意外と知られていない(注)。50年以上前からドラッカーが誠実な人物をリーダーにすべきと言っていた背景でもあり、日本だけというよりも人類の問題かもしれない。
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(注)著名人の日本人論におけるリーダーの扱いには、ドラッカーのような厳しい視点が欠けているような気がする。誠実でその地位にふさわしい人がリーダーとなっていないような組織というぐらいの気持ちでイノベーションを行う必要がある。
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300kg/h以上の吐出量の二軸混練機は、既製品として常時在庫がある商品ではない。1980年前後まで日本には混練機や押出機の製造メーカーが多数存在したが、それらの多くは倒産したか中国へ生産場所を移したかのどちらかである。今国内に残っているのは一流と呼べるメーカーだけである。老舗コペリオンさえ中国で活動している。
中国にはコペリオン始め著名なメーカーが混練機の生産を行っているが、皆注文生産である。コペリオンは日本で生産していた時よりも安価な価格で良質な混練機を販売している。
面白いのは、コペリオン社から中国人技術者がスピンアウトして始めたメーカーはコペリオン社と全く同じ混練機の生産を行っているのだが、品質は落ちる。
外観やスペックはそっくりであるが、難燃性PC/ABSを混練してみるとその差異が明らかになる。コペリオン社の装置で混練するとUL94-V0に合格するのだが、このメーカーの混練機で混練した場合にはUL94ーV2レベルに性能が落ちる。
混練機を押出機として使用しているだけならば問題は小さいが、混練機として使用する場合には大きな問題となる。スペックやスクリューセグメントの配置が同じでありながらこのようなことが起きるのは科学で説明ができない。
某ポリエチレンメーカー技術者が、メーカーが同じでも混練機のロットが異なると全く同じ条件でポリエチレンを混練してもレオロジーが異なったポリエチレンが得られることを高分子自由討論会で発表されていたが、混練では科学的に説明できないような現象が起きる。
これをただ混練に関わる制御因子をすべて把握していないためだ、と簡単に思っているとコンパウンドのプラント設計に失敗するリスクが高くなる。
中国で3つほどコンパウンド工場建設の指導をしてきたが、注意を払ったのはコンパウンド品質の再現性である。10kg/h程度の吐出量の混練機だけを扱っていては理解できない難しさがある。
PPS中間転写ベルト用コンパウンド工場をたった半年で立ち上げた実績はゴム会社で樹脂補強ゴム開発を行った経験を活かすことができた運のよかった経験である。
「運が良い」理由は、混練機では高性能で高級機にあたるメーカーの中古機を見つけることができたからである。それも新古機に近く、過去の履歴が混練機メーカーに残っていた。おそらく新品の価格は世界一高いだろうけれど「信頼できる」メーカーだったことが幸運だった。
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