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2022.02/19 高分子材料の寿命予測(2)

高分子材料の力学物性について問題となるのは破壊力学の形式知が完成していない点である。例えば引張強度のばらつきは、金属よりも大きい場合が多い。


金属の破壊について線形破壊力学でうまく説明できるが、高分子材料では破壊現象についてうまく説明できない場合が多い。それでも金属でよく用いられるフラクトグラフィーを適用すると破壊の起点を知ることができる。


その他、金属材料で実績のある方法を破壊現象について適用してみるとうまくあてはまるところがあったりする。ゆえに、時間温度換算則を用いてクリープ破壊を解析できそうに錯覚する。


温度領域に十分配慮して実験を行えば、マスターカーブを描くことができ、それなりに予測ができてしまう。実はこれが品質問題を引き起こす原因となる。


高分子材料のクリープ速度は金属のそれよりも密度の影響を受けやすい。それどころか高分子材料は射出成形条件のばらつきから密度が大きくばらつく。


仮にこのことを理解してマスターカーブについて密度依存性を確認したりする。このときどれだけの密度ばらつきを見込んで実験を行うのかという問題が存在する。


防湿庫に保管していたカメラの裏蓋フックの破壊は、カメラを静置したままだったので、クリープ破壊の可能性が高い。破面のフラクトグラフィーを行ってもそれを理解できた。


裏蓋を開けるためにスプリングがついているが、これにより一定応力がフックにかかりクリープ破壊に至った可能性が高いのだが、高分子材料の物性をよく理解しそれなりの実験を行えば品質問題を防げたはずである。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2022.02/18 高分子材料の寿命予測(1)

金属材料で材料力学や破壊力学の学問、形式知が体系づけられ、セラミックスフィーバーの時にセラミックスでもその確かさが確認されて、ワイブル統計が劣化予測に有効なことなど確認された。


しかし、高分子材料では線形破壊力学に当てはまらない例が出てきて、非線形破壊力学なども提唱されたが、有効な方法が無いまま、現在に至りマテリアルインフォマティクスの研究の一分野として推進されている。


劣化寿命予測について、実務ではアーレニウスプロットや時間温度換算則を用い、化学的な劣化と物理的な劣化の両面から実験室でモデル実験を行い、その材料の寿命予測を行う。


金属やセラミックスではそれがうまくいっても、高分子ではしばしば材料の寿命について品質問題を引き起こしている。例えばN社のフィルム裏蓋が壊れた事例をここで紹介している。


防湿庫の中に静置していただけで、フィルムの感光を保護する裏蓋のフックが壊れたのだ。明らかに耐久試験の失敗による設計ミスである。


機能が優れた製品を市場に送り出しているメーカーであっても、細かい品質設計技術が存在しないことは明らかで、これでは市場を失う、と心配していたら、一眼カメラ業界3位に転落していた。


写真撮影が趣味であり、長い間ペンタックスを使用してきた。某世界大会でもペンタックスカメラは1位を撮らしてくれたが、ミラーレス一眼を開発しないとのことでニコンカメラを購入した。


新品で購入して4か月目、ストロボを外した時にホットシューのバネが一緒に飛び出した。びっくりして保証書と一緒にサービスセンターに持ち込んで修理していただいたら、ストロボが古いタイプなので、とかなんとか言われた。


帰り道専用のストロボを購入し、カメラの接続部分のサイズをノギスで計測したところ、ノギスで測った限りでは古いタイプと同一だった。ちなみにペンタックスは50年近く7台愛用してきたが、サービスセンターのお世話になったことは無い。

カテゴリー : 一般 高分子

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2022.02/09 熱分析

1980年代まで熱分析装置は高分子材料を開発するときに必須であり、分析機器メーカーの売れ筋商品だった。しかし、1990年代にはいると、熱分析装置の開発を終了したメーカーや商品としてカタログ掲載をやめるところまで現れた。


当方は高純度SiC開発において、前駆体の品質管理用に2000℃まで1分で昇温可能な熱重量分析装置を開発している。このとき、共同開発したメーカーは、もう熱重量分析装置や熱膨張計など一部の分析装置の販売を終了している。


高分子材料を扱っている企業には1台くらい熱分析装置はあると思うが、ホコリをかぶっているところもあるのかもしれない。驚いたのは化学系の大学で熱分析を詳しく講義しない大学も現れたことだ。


アカデミアにおいて高分子材料の分析に対する考え方がどのようであるのか知らないが、実務においてこれほど簡易に分析情報を与えてくれる装置はない。


例えば熱重量分析(TGA)を行えば、コンパウンドの組成の問題に関する情報が得られる。実務ではコンパウンドの組成がおおよそわかっているので、重量減少曲線に現れた情報を合理的に説明できるかどうか検討すればよい。


あるいは、成形体の異なる位置からサンプリングした粉の重量減少曲線が一致するかどうか調べるだけでもコンパウンドの問題について重要な情報を知ることができる。


TGAには恒温測定と定速昇温測定があり、それぞれ目的が異なるが、後者は他の熱分析と昇温速度を揃えて測定すると、高分子材料について立体的な情報整理が可能となる。

カテゴリー : 一般 高分子

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2022.02/07 高分子材料で発生した問題

高分子材料で発生した問題の中には、何が問題なのか不明の時がある。このような話をアカデミアの先生にお話しすると不思議に思われるかもしれないが、写真会社の20年間、このような相談が無かった年が無い。毎年相談されても即答が難しい問題があった。


市場で使用状態が限られているような写真フィルムでもこのようなことが起きるのだ。汎用製品ではかなりの頻度で何が問題なのかわからない問題が起きているはずである。


例えば、帯電防止された印刷感材(印刷業界で使用される写真用フィルム)が自動化された作業工程の途中で静電気が発生し、張り付いているようなトラブルである。


静電気が発生して張り付いているので、写真フィルムの帯電防止性能が不足している簡単な問題、と即答される方は、この問題を解決できない可能性が高い。


現場で観察していると、他社の感材でもその部分で動きがおかしい。しかし、張り付いていないので問題なしと扱われている。


他社の感材を借り受け解析評価しても張り付く動作をする写真フィルムの謎が分からなかったりする。このような場合に悩んでいると他社に市場を奪われるので、改良品と称して他のロットを持ち込み、とりあえず問題解決する。


他のロットで解決できたのだから、製品の帯電防止性能が他社よりも劣っていなかった、と安心していると、ロットが変わった瞬間にまた同じような問題が発生して悩むことになる。


解析評価しても十分にスペックを満たしていても問題が発生する不思議な現象が冬場だけならば、乾燥が原因でとかいろいろ屁理屈をこねて本質的な問題が解決されないまま、問題が起きるたびにロット交換し過ぎてゆく。


当方は転職して一番びっくりしたのは、このような問題を前にして本質的な問題解決までしようとしない姿勢である。市場の品質問題では、その回避方法が分かれば本質的な解決がされず放置されることが多い。


実務では仕方がないことだが、科学の進歩に配慮した場合にもったいない機会損失となっていることに気がついていない。当方は、技術開発に注力したサラリーマン生活を送ったが、このような場合に本質的な問題解決に努め科学の進歩にも少なからず貢献してきた。

カテゴリー : 一般 高分子

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2022.01/31 高分子の分類

金属材料やセラミックスの教科書を眺めると、結晶系を基にした分類が出てくる。セラミックスでは鉱物学の本を読んでいるような感覚になる。


学生の時にある先生が、機能性セラミックスについて問われたらペロブスカイトの説明をすればセラミストのような顔ができる、と授業で言われていた。


有機材料に比較してセラミックスという学問を簡単に感じたが、実際に両者を研究してみてもやはり有機材料、とりわけ高分子は難しいと感じている。


この原因の一つは、学術に耐えうる分類法が存在しないことによる、と思っている。また材料をリバースエンジニアリングしようと分析しても、セラミックスの様に明確な分析結果を示すことが難しい。


目の前に組成も何もわからない材料を置かれたときに、セラミックスならばX線分析法で大体の推定ができ、組成分析を行ってこの推定結果と照合すれば、リバースエンジニアリングの90%は成功する。


しかし、高分子ではこのようにいかない。例えばPPS/ナイロン/カーボンのコンパウンドの分析でもリバースエンジニアリングで類似コンパウンドを開発できないことを以前この欄で述べている。

カテゴリー : 一般 高分子

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2022.01/30 高分子材料の問題解決

ブリードアウトにケミカルアタック、想定外の劣化など開発段階でロバスト設計を行ったにもかかわらず、高分子材料はしばしば市場で問題を発生する。


厄介なのは、多くの場合にコンパウンド供給メーカーと成形メーカーとが異なる点である。どちらの問題なのか明確にする必要がある。


ところが、組み立てだけ行っているメーカーにとって、これは頭の痛い問題である。組み立てメーカーにも品質検査の必要性から材料担当が配置されているが、その担当者が学会活動を行っているケースは稀だろう。


高分子材料については未だに新しい現象について学会で報告されたりする。ところが最近問題に感じているのは、発表者が市場の様子をしらないので、研究で見出された現象が実務的に重要な現象であると気がついていない点である。


もっとも学会の目的は科学の発展のため、と考えておられる研究者が多いので、それが問題となっていないし、それを問題にしても笑われるだけかもしれない。


しかし、学会活動の目的の一つに人類への貢献がある以上、本来このような日常の問題についても議論すべきだと当方は考えている。しかし、それが難しいことなのでこうしてそれを補う活動を起業して行っている。


すなわち日常の材料に関する問題を高度な視点から根本的に解決するために当方は活動している。このような活動も行っている理由は、複写機の外装材で起きた問題の原因について某コンパウンドメーカーのCTOと議論した苦い経験があるからだ。


すなわち、状況証拠の数々がコンパウンド起因であることを示し、さらにコンパウンドそのものもスの入ったロットが混ざっていたりして、そのロットで市場問題が起きていても、CTOは無関係を主張していた。


このCTOは高分子技術には詳しいが大変不誠実な人でコンパウンドに問題があると気がついていても、今の科学では完璧にそれを証明することができないことを知っているので無関係を主張していたのだ。


当方はそれを見抜いたのだが、科学的に完璧に証明できない以上、追及が難しいと折れなければいけなかった(注)。ただし、再発を防がなければいけないので、ロットばらつきの是正だけでもCTOに納得していただいた。


コンパウンドメーカーのこのような不誠実な対応が存在するので、当方の起業の動機になっているが、中国ナノポリスに招聘されたときに、指導しているコンパウンドメーカーの総経理には市場問題について誠実真摯に対応することを求めている。


(注)ビジネスではこのような場合に折れた方が負けになる、という人がいるが、ドラッカーは、ビジネス交渉こそ誠実真摯に行うべきことを説いている。

カテゴリー : 一般 高分子

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2022.01/28 データ解析(2)

最近話題となっているビッグデータの解析では、必ずしも科学的な解析とは言い難い例も出てきた。そのような例では、解析結果が普遍的真理とはならず、単なるその場限りの現象理解に終わる。


これを科学的ではないから、という理由で否定的に見ていると時代に乗り遅れるか、あるいは間違った情報を形式知としてしまうミスを犯したりする。せめて解析プロセスも含め経験知の一つ程度に考えるとよい。


すなわち、現代のデータ解析事例を眺めるときに、科学的に解析された結果なのか、単なるデータを整理し傾向を記述しただけの結果なのか、あるいは眉唾も含むその他の結果なのか、それを自ら検討する必要がある。


一方で、科学的ではないデータ解析あるいは手法の中には、技術開発にうまく取り込むと業務を効率化できる可能性もあるので、その手法がどのようなプロセスで行われているのか調べてみると面白い。


よく使われる手法として、多変量解析あるいはマハラビノスのTMがあるが、これは技術開発で集められた大量のデータから、未知の情報を絞り出すときに使える。高分子の難燃化技術セミナーで一例を示す。


15年以上前に歩留まりを10倍近く改善できた中間転写ベルトの技術開発では、それまでの開発で収集されたデータを解析し歩留まり向上のヒントを導き出している。CMCリサーチのセミナーで手法を詳しく説明する。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2022.01/27 データ解析(1)

科学の時代なので、仮説に基づき実験を行いデータを収集し、仮説との整合性をすなわち仮説が成立するのかどうか確認する。


これは義務教育の理科実験にはじまり大学を卒業するまで指導されてきた方法である。このコロナ禍の感染者報道を見て、データ解析手法には、この学校で習った方法以外にもいろいろあることに気がつかれたのではなかろうか。


すなわち、実験を行うことなく、現象を数値化しそれを解析する手法である。実は実験を行っていなくても現象を数値化するときに仮説を設定しているので、これも学校で習ってきた方法と変わらない。


現象からパターンを抽出する方法もこのように数値化が行われるので何らかの仮説が設定されたうえでの方法と言える。パターンを解析し意味不明であればパターンの数値化方法を変えて自分の意図する結果となるように試行錯誤を繰り返す人もいる。


試行錯誤を繰り返していながら、何か最初に仮説があったかのように説明するので、すごい眼力だと感心させられたりするが、昔ならばともかく今はコンピューターがあるので大したことではない。


科学の便利なところは、データを解析するときに仮説が正しければうまく推論を展開できて答えを出せる点である。データ解析は科学的に行えば誰でもデータが意味している範囲の真理に到達できる。


解析とか分析では科学のありがたみを必ず感じるはずである。それゆえ当方は時間さえ許されれば、すでに完了した仕事でもデータ解析を行って考察したりしている。


この時実際の生データは特に必要は無いのだ。グラフの形さえ再現できれば良い。もっともこのような結果を学会で発表しにくいが、Wパーコレーションという現象については、高分子学会無機高分子研究会で7年ほど前に発表させていただいた。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2022.01/25 高分子の難燃化技術セミナー

弊社ホームページ新着情報にご案内しておりますが、テキストが出来上がりましたので見本としてテキストの一部を貼り付けました。


セミナー会社が主催する難燃化技術セミナーには20代からご招待いただき講演をしてきましたが、ポリウレタンの難燃化部分は、今回も昔発表した内容と同じです。科学でまとめられた実験結果は形式知として不変です。


20年ほど前からタグチメソッドの項目を加え、最近はマテリアルインフォマティクスも取り入れた内容で講演しております。


また、20年ほど前に高分子同友会で環境問題と高分子について開発部会で議論されましたが、今回の無料セミナーではこの辺りはご紹介程度の説明になっています。環境問題につきましてこの数年大きな変化がありました。


3年前に皮革の難燃化処方を開発しました時には、ノンハロゲンで技術を完成いたしましたが、プロセスもオイル分散を用いず、すべて水系の環境対応技術として完成しています。


水に不溶な物質を水に分散してコロイドとして仕上げるには、これまでオイル分散が唯一の方法だったのですが、最近新たな技術を開発し、ただいま特許の審査請求中です。詳細は弊社出願の特許をご覧ください。


高純度SiCの製造技術開発からカオス混合プロセス開発まで様々な技術開発を50年以上続けていますが、高分子の難燃化技術開発はライフワークのひとつになっています。


難燃化技術論文資料


セミナーテキストサンプル

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 電気/電子材料 高分子

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2022.01/23 問題解決法

20世紀にロジカルシンキングが流行し、会社でも係長になるまでに一度はそのような研修を受講したという人は50代以上に多いと思う。しかし、ロジカルシンキングでも解けない問題が多いのが実務である。


例えば高分子材料の品質問題では、科学的に未解明な部分が多いだけでなく、そもそも高分子材料の体系ができていない。その証拠に高分子の分類法について統一された分類法が存在しない。


このような材料で引き起こされた問題では、ロジカルシンキングを持ち出しても解が見つからないのはまだいい方で、おかしな答えを導き出して隘路にはまることがある。


弊社では研究開発必勝法という問題解決セミナーの教材を用意しているが、2月には高分子の品質問題の解き方でその一部を紹介予定である。


そもそも問題には構造がつきものだが、体系の無い材料の問題でそのような構造を見出すのは至難の業である。しかし、弊社の問題解決法ではこのような問題でも大丈夫だ。


そのためのツールを用意している。21世紀に入り、企業の新入社員面接試験でフェルミ推定を試す会社が多くなったようだ。ようだ、と言うのは人から聞いた話だからである。


フェルミ推定などと言うと馴染みが無いかもしれないが、問題の構造を見出し、構造因子について数値化できるものについて数値化するとともに概数との掛け算でおおよその規模を導き出す方法である。


趣味で多くの問題解決法の本を読んできたが、このようなフェルミ推定を用いてヒューリスティックな解を導いたりする方法などをあまり扱っていない。実務ではこのような方法を駆使して問題の一次回答を迅速に導くことが重要であるのに、である。


理由のひとつに問題の構造を考えるプロセス、数学でいえば因数分解のようなプロセスをどのように行うのかうまく説明している本に出合ったことが無い。問題を課題の構造としてとらえることができるかどうかは問題解決の第一歩である。課題の構造にできれば数値化なり、それを目標としたアクションの具体化なりができる。

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 高分子

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