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2019.08/08 高分子のプロセシング(30)

混練で得られたコンパウンドの粘度(流動性)を簡便に計測するために、ヒーターで加熱された円筒容器内で一定量のコンパウンドを定められた温度で加熱・加圧し10分間当たりの押し出された量(g/10min)を指標にしたMFR(Melt Flow Rate)あるいはMFI(Melt Flow Index)が用いられるが、できれば粘弾性測定装置で計測される動的粘性率で品質管理を行いたい。

 

 

ただ粘弾性装置は1式揃えると1000万円前後かかるので150万円前後で購入可能な流動性測定器であるMFR装置がコンパウンドの粘度管理に使用されているのが実情である。

 

 

機能性高分子材料の混練では、成形体で求められている機能を混練プロセスで十分に創りこむ必要がある。

 

 

可能な限り、コンパウンド段階の評価結果で成形体の機能まで品質管理できる体制を構築したい。

 

 

高分子材料に求められる特殊な機能として、半導体機能もしくは熱伝導性機能、難燃性機能がある。

 

 

高分子材料は一般に絶縁体であり熱伝導性も悪く、可燃性なので、これらの機能実現のためには、その機能を一次構造で実現された高分子を用いない限り、導電性もしくは熱伝導性、あるいは難燃性などの機能を付与する添加剤を添加することになる。

カテゴリー : 高分子

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2019.08/07 高分子のプロセシング(29)

試料に規則正しい振動を与え、センサーで試料を伝わった信号を検知して、それを記録する装置である。

 

 

この時、時間をそろえて入出力のデータを比較すると応答の遅れ角を計算できる。それをδとするとtanδという値が求まる。

 

 

この値は損失係数と呼ばれるもので、試料内部でどれだけのエネルギー損失があったのかを示している。

 

 

二枚の円盤の力学的パラメーターと、試料に入力された信号、そこで発生した応力及び歪量(変位量)から剪断弾性率G’が求まる。

 

 

エネルギー損失が試料内部の粘性により生じていると考え、その値(弾性率の次元を有する)をG’’とすると、G’’=G’ tanδ として求めるのは経験知として違和感は無い。

 

 

レオロジーの教科書では、複素弾性率G*なるものを次のように定義し、tanδを実部と虚部の比率と定義し、実部を貯蔵弾性率G‘と呼び、虚部を損失弾性率G’‘と呼んでいる。

 

   G*=G‘ + iG’’   tanδ = G’‘/G’

 

 レオロジーについては後述するが、粘弾性測定装置を混練や成形条件を調べるために活用するには、G‘もしくはG’‘、tanδの温度分散を調べるとよい。

 

 

また動的粘性率は、動的粘弾性においてG’‘を角振動数ω(周波数をfとするとω=2πf)で除したものであり、毛管粘度計などで測定される絶対粘度を密度で除する動粘度とは異なるので注意が必要である。

カテゴリー : 高分子

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2019.08/06 高分子のプロセシング(28)

ところで、TGAはコンパウンドの組成を簡便に調べる方法として利用できる。例えば添加剤を計量できる場合がある。

 

 

また、DSCで観察される高分子のTgやTc,Tm以外の変曲点には、添加剤の情報が隠されている場合がある。

 

 

Tg以上の温度領域に観察されるTMA曲線には高次構造の情報が現れる。

 

 

使用方法に習熟してくると、この3種の計測結果から品質問題のヒントが得られる。

 

 

TGAとDSC、TMAについて実務で活用するときには、測定原理を参考に高分子の形式知を活用して測定された結果を十分考察したい。

 

 

熱分析装置として一般に分類されないが、高分子の状態についてその熱的変化を調べるのに便利な装置が粘弾性測定装置である。

 

カテゴリー : 高分子

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2019.08/05 高分子のプロセシング(27)

連続式混練機では、混練機から吐出された組成物を水で冷却しストランドの形態で引き出し、粉砕してペレットにする場合がある。

 

 

この時、結晶成長速度が、何らかの要因で変化すると、ストランドの形状変化が起きる。その結果、ペレット形状がばらつくことになる。

 

 

例えば結晶性高分子をコンパウンディングしている時に、水槽の温度管理が不十分であると、円柱状のペレットが扁平な断面あるいは歪んだ星形断面のペレットになったりする。

 

 

この現象は成形プロセスまで影響しなければ異常として扱う必要はないが、仕様として「円柱状ペレットであること」と決められていた場合には品質規格外となる。結晶成長速度の問題が、このような品質問題として現れる場合もある。

 

 

ペレットのDSCを計測してやると、ペレットの断面がきれいなサンプルと、歪んだ形状のサンプルでは、異なるデータが得られる。

 

 

しかし、TGAを計測してみても差異が無い。歪んだペレットだけを集めて射出成形をしたサンプルについてTMAを計ってみても断面がきれいな丸形のペレットとの差異が無い、ということがある。

 

 

大切な注意として、TMAとTGA,DSCの3種類もしくは2種類のデータをそろえて比較したいときには、昇温速度を揃えて測定しなければいけない。

 

 

この3種の分析装置で昇温速度を揃えてデータ収集する場合には10℃/minの昇温速度が良いのではないか。

 

 

但し、DSCについては一般に20℃/minの条件が推奨されている。TGAでは、2から5℃/minの昇温速度が推奨される。

 

 

先に述べたように昇温速度は熱分析で得られる曲線の形状に影響を与えるので、運用にあたっては注意する必要がある。

カテゴリー : 高分子

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2019.08/02 高分子のプロセシング(26)

高分子材料のDSC測定で生じるTg曲線の昨日のような変位が現れるのを避けたいならば、DSCの昇温速度を変えて期待通りのTg曲線が得られるように条件を探す作業が必要になる。

 

このような変位以外に、現れるはずのTgが観察されない、といった現象も時折発生する。この現象では、Tgが現れる直前のところで昇温をいったん止めてその温度で2-5分程度保持後測定を開始すると、きれいなTg曲線が現れる。

 

これは、アニールと同じ効果を応用したDSC測定のコツであるが、なぜか分析関係の教科書に書かれていない。

 

やや胡散臭い方法に思われる方もいるかもしれないが、測定データについて不安がある時には、複数の試料を計測してTg曲線の異常の原因を探る必要がある。ただ、混練の実務でこの努力の優先順位は低い。

 

TGA同様にDSCを用いて動力学的解析を行うことが可能である。例えば結晶化速度の評価にDSCを使用できる。

 

ちなみに、無機材料の結晶成長に関する速度論では、結晶成長機構が多数存在するので速度式の解析は複雑になるが、高分子では核生成を仮定したアブラミ式だけが知られている。

 

これは、球晶の生成機構が必ず核の生成を伴うからである。すなわち紐の一部が局所的に規則正しく並び、そこから結晶成長が始まる。

 

そしてラメラが生成し集合体となり球晶となる。あたかもラメラの生成と球晶への成長との二段階で進んでいるかのように思える。

 

無機材料で一段階の結晶成長機構について速度論的解析を行うと、80%以上成長する領域までうまく解析できる。

 

ちなみに、高分子と同じように核生成機構で結晶成長が進行するシリカ還元法のSiC生成機構解析では、95%前後の結晶成長までグラフは直線になっていた。

 

ただし、高分子のこのようなグラフでは、30%過ぎたあたりからずれてくることもある。ここまでの指摘にとどめる。

カテゴリー : 高分子

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2019.08/01 高分子のプロセシング(25)

DSCの測定装置の試料室には、独立に制御されるヒーターが3組存在する。

 

Aのヒーターで、Bのヒーターの上に置かれた試料(アルミナ粉と混ぜ合わせるとよい)とCのヒーターの上に置かれた参照試料(一般にアルミナ粉を用いる)が常に同じ環境で加熱されるように設計されている。

 

 

Aのヒーターで炉の温度が制御されているときに試料に熱的変化が無ければ、チャートに変化は現れない。しかし、試料が吸熱的変化をした場合には参照試料との間に温度差が生じないようBのヒーターで試料を加熱する。

 

 

この時チャートには吸熱側へヒーターに流れた電流変化が現れる。試料が発熱的変化をした場合には、同様の動作として参照試料側のヒーターCに電流が流れそれがチャートに発熱変化として記録される。

 

 

測定結果の概念図を描けば、結晶化温度(Tc)と融解温度(Tm)は、それぞれ相転移に伴う熱量変化を示し、ガラス転移温度(Tg)は、単なる比熱変化によるベースラインの移動現象として記録されている点に注意してほしい。

 

 

なお、Tgについては、試料の熱履歴とDSCの昇温速度との関係で、吸熱ピークが現れたりする。まず、DSCで測定されたTgにこのような現象が生じる理由を説明する。

 

 

徐冷ガラスあるいは急冷後アニールされたガラスでは、昇温した時に、徐冷ガラスのT-V曲線に従い体積は膨張してゆく。

 

 

この時、溶融状態から冷却した時のT-V直線との交点や、さらに急冷ガラスのガラス転移温度よりも高い温度で急激に体積膨張し、溶融状態のT-V直線に合流する。

 

 

この急激な体積の増加では、徐冷あるいはアニール処理により生成した安定な構造を壊すために過剰な熱が必要になり、高い温度でガラス転移を起こすことになる。

 

カテゴリー : 高分子

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2019.07/31 高分子のプロセシング(24)

 混練の実務で役立つ熱分析装置には、先に紹介した機械的熱分析(TMA)と熱重量分析法(TGA)、示差走査熱量計(DSC)、粘弾性測定装置などがある。

 

TMAは熱膨張の測定だけでなく、粘弾性測定も可能な装置が市販されている。試料に押し棒を乗せ、温度を上昇あるいは下降させて押し棒の変位を計測するTMAの熱膨張測定では、各温度における線膨張率が求まり、そこには、主に高分子の一次構造や高次構造因子の情報が含まれている。

 

天秤と加熱炉を組み合わせたTGAは、試料を加熱してその重量減少を調べる装置だが、高分子の一次構造因子が測定データに反映される。昇温速度を変えて測定して熱分解の動的解析もできる。この原理を理解できると、TGA曲線の変化から混練時に化学反応の有無を予測できるようになる。

 

また、熱天秤の精度も高いので混練時の熱による微量ガス発生の有無を調べることが可能である。特に高分子の難燃化技術を検討するときには、経験知的方法になるが難燃剤の作用機構を調べる簡便な実験もできる。

 

TGAもTMAも測定装置を実際に使用すれば、その機構と原理をすぐに理解できるが、DSCは、外観からその測定原理が分かりにくい。

 

TGAは昇温条件で測定し、TMAやDSCは一定速度で昇温あるいは降温の両方向で測定できるが、TGAもTMAも試料で生じる現象を直接観察しているのに対してDSCでは比較サンプルに対する熱量変化を観察している点が異なる。

 

カテゴリー : 高分子

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2019.07/29 高分子のプロセシング(23)

自由体積部分では動ける範囲の運動が行われている。その他、高分子鎖が積み重なり運動が凍結された部分でもレピュテーション運動が起きているかもしれない。

 

 

その結果、分子同士のあたかも忖度が働いたような運動、すなわち、より構造的に全体が安定な状態になろう、あるいは歪を緩和しようとして全体で動く。この構造緩和現象により体積収縮が起きる。

 

 

ここで、急冷ガラスのTgをTgqとし、徐冷ガラスのそれをTgaとすると、Tgq>Tga。すなわち、冷却速度と高分子材料のTgは関係しており、高分子がプロセスの履歴をひきずる、と言われる原因の一つである。

 

 

ところで、高分子材料を混練できる温度領域について。二軸混練機を用いた熱可塑性樹脂の混練では、よくTm付近の温度がシリンダー温度として設定されるが、Tm以下でTg以上の低い温度に設定しても、モーターの能力さえあれば混練可能である。

 

 

ちなみに結晶性樹脂では、Tc前後の温度設定でも分子量低下を起こさず混練可能である。ゆえにシリンダー温度は、Tg付近に設定しても混練可能で、そのような特許出願もされている。

カテゴリー : 高分子

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2019.07/28 高分子のプロセシング(22)

このガラス化過程の歪について、昇温条件でDSCの測定を行うと、冷却時の履歴がTgに反映されてピークとして現れることもある。

この現象は、例えば結晶化速度の速い結晶性高分子で観察される。この時、体積が減少して高分子鎖の一部分が規則正しく並び、折れ曲がりながらラメラ晶を形成していく。

混練された高分子からペレットを製造するときの熱的変化は、急冷過程となる。このように溶融状態から冷却速度を早くした場合には、体積の収縮が冷却速度に追いつかず、そのままの構造が凍結されるので自由体積が多くなり、その結果密度は低くなる。

この時生成されるのは急冷ガラスであり、結晶化速度の遅い高分子であれば、全く結晶化しない場合もある。

結晶化速度が早い高分子でも結晶化しない場合や部分結晶化で止まる場合などまちまちで、これがペレットのばらつきの原因となる。

もし、これをゆっくりと平衡状態に近い条件で冷却をしたならば、徐冷ガラスとなる。厚みのある成形体の中心部はこのようになる可能性がある。

結晶性高分子であれば、昇温条件でDSC測定を行ったときに結晶化ピークが現れないほど結晶化が進む。

ここで注目していただきたいのは、急冷した場合と徐冷した場合では体積が異なる現象である。もし、急冷ガラスについて、Tg付近でアニールしたならば収縮して徐冷ガラスの密度に限りなく近づく。

余談だが、一般にアニールを行う時にはTg以下Tg-20℃以上の温度領域で長時間かけるが、Tg以上で急速アニールする特殊な技も開発されている。この場合も徐冷ガラスの密度に限りなく近づく。

いずれの条件で行っても、アニールにより急冷ガラスの体積収縮は生じる。もし結晶性高分子であれば、ラメラ間の非晶部分のパッキングが進み密度が上昇する。この現象を観察するための実験はガラス状態を理解するのに役立つ。

すなわち、ガラス状態はマクロな視点(通常の観察時間)で見る限り固体と同じであるが、紐のモデルの如く高分子鎖一本一本のレベルで見ると、高分子材料の温度に相当するエネルギーレベルで運動している融体(液体)の状態と同じである。

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2019.07/26 高分子のプロセシング(21)

これは、高分子材料では必ず非晶部分が存在するためである。すなわち、高分子材料について熱分析を行うと、測定条件の影響で相転移である結晶化は観察されないことはあっても、相転移ではなく緩和過程の現象を示すTgは、結晶性高分子でも必ず観察される。

 

 

Tgの理論的取り扱い方について、粘度が1012Pa・s付近になるとガラス転移が起きる、という等粘性状態の考え方や、自由体積分率が0.025になった時にガラス転移が起きる、という等自由体積状態の考え方、その他等配位エントロピーの考え方など多数存在する。

 

 

等自由体積状態の考え方ではVが自由体積となり、Tg以下に冷却された時に一定値Vhgとなる。

 

 

ところが、混練して得られるペレットの密度ばらつきや成形体の密度ばらつきなど同一配合処方でも自由体積の量がばらついている、と考えなければ説明がつかない現象は多い。 

 

 

これは、グラフが平衡状態における現象を示しており、混練で得られるペレットは非平衡状態で冷却されて作られるから、として説明できるが、V+ Vを自由体積とする考え方も存在したりするので、形式知によるTgの理解は難しい。

 

 

経験知的には、溶融糸まり状の高分子が、冷却により体積が減少し、隣り合っている高分子のヒモ同士がぶつかり、歪を抱えたまま動けなくなる温度がガラス転移点Tgである。

 

 

これは、満員になっていない80%程度の乗車率の電車で急ブレーキがかかった瞬間を想像してみると理解しやすいかもしれない。高分子を急冷したときには恐らく悲鳴を上げる様な分子も存在するかもしれない。

 

 

ただし、電車がゆっくり停車するような状況では、乗客は皆自分の快適なポジションを探しつつ、それぞれの位置で落ち着く。高分子も同様で、溶融状態から平衡を維持しつつ冷却していったなら、結晶性樹脂の場合にはラメラができてそれが球晶に成長し、そしてガラスを生成して固まる。このガラスを生成した時の温度がTgである。

 

 

混練プロセスで平衡を維持しつつ冷却するのは困難であり、ガラス化過程で何処かの高分子に歪が残っている。ゆえに、Tg付近で試料の熱処理、アニールを行うと歪が緩和されて密度が上ったりする。

 

 

あるいは、溶融状態からフィルムを製造した時に、表裏で冷却速度が異なると、歪も表と裏で異なる。その結果、室温で放置した時に内部の歪が緩和してフィルムが反ったりする。

カテゴリー : 高分子

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