化学系の大学生ならば知っていなければいけない理論にフローリー・ハギンズ理論というのがある。ノーベル賞を受賞したフローリーの理論である。当方の時代には高分子物理はまだ流行していなかったので、授業でほんの少し顔を出しただけだが、試験に出題され慌てた思い出がある。
式の形など憶えていなかったので知っていることを文章で書き連ねた答だったので△だったらしい。助手の方からあれは有名な理論だから試験に出るのは当たり前だ、とたしなめられた(有名な理論ならば授業で時間をかけて説明してほしかった。)。
このような悔しい経験があるとその後の人生に少なからず影響を与える。ゴム会社で出会った指導社員に、高分子のブレンドではフローリーハギンズのχで評価するよりも溶媒を使ってSP値をきちんと測定するように指導されたときには、この指導社員が神様に見えた。
そして「あれは単なる理論だから、実務では当てにならない」と言われたときには救われたような気持ちになった。指導社員は、実務では平衡状態を扱った理論というのは使い物にならない、という考え方で、この考え方はプロセシングを技術で捉える重要性を学ぶのに役だった。
このフローリーハギンズ理論に反するポリマーブレンドを最初にためしたのは、高純度SiCの前駆体であり、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂が相容し透明となった材料が得られていた。その後ポリオレフィンとポリスチレンの相溶を成功させたり、カオス混合装置の開発によりPPSと6ナイロンを相溶させて中間転写ベルトを開発したりした。
χが正でも相容する現象はあるのだ。それでも科学の世界でこの理論を用いて高分子のブレンドを議論するのはお約束ごとである。フローリー・ハギンズ理論が間違った理論というつもりはないが、かなりどんぶり勘定の理論であると、写真会社で高分子技術を担当し感じた。
フローリー・ハギンズ理論を信奉していた外部コンパウンドメーカー(日本で有名な研究所から生まれたコンパウンドメーカーである)が供給する電子写真の部品用樹脂では製品化が難しかったので、ゴム会社に入社して以来温めてきたアイデアをもとに、中古機を寄せ集めて3ケ月でカオス混合プロセスのプラントを立ち上げた。PPSと6ナイロンが相溶して透明な樹脂(注)として押し出された瞬間に、学生時代のトラウマから解放された。
(注)フローリー・ハギンズ理論が正しければ、このような現象は起きない。ただしこの理論では、エントロピー項について明確に論じていないので、ここを修正して説明することができるかもしれない。しかし、この理論、何となく早く言ったもの勝ち的に見える。
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科学では論理の整合性を取るために、すなわちつじつま合わせに精力を使う。ゴム会社に配属され、ポリウレタンの仕事を担当してから、悩む日々が多くなった。この部署には高分子合成研究室という看板がかかっていた。これが高分子合成グループとすぐに名前が変わってもリーダーは代わらなかった。リーダーは科学こそ命、あるいは科学と心中しそうな上司だった。
科学に対する思いは人それぞれだが、メーカーにいながらこれほど科学を信奉した人を知らない。しかし、科学に対して盲目の恋をしているようなところがあり、実験結果に科学的な香りをまぶせば、それが非科学的なプロセスで得られた結果であっても高い評価をしてくださった。ただ、そのような評価は上司を騙しているようであまり気持ちの良いものではなかった。
その方が高分子学会の「高分子の崩壊と安定化研究会」の委員をしていた都合で、開発したての成果でも学会発表することになった。発表内容をまとめる過程で新入社員の当方が技術の漏洩を心配したぐらいである。それでも科学の発展のため、と熱心だった。
ある日研究会で発表するネタは無いか、と尋ねられて、工場試作前のホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームの研究はいかがですか、と提案してみた。燃焼時に無機高分子であるボロンホスフェートができ、オルソリン酸の揮発が押さえられている分析結果もあったので30分程度の発表ができる内容にまとめられる自信があった。
発表資料ができあがってリーダーに検討していただいたら、高分子学会に無機高分子研究会というのがあるから、無機高分子という表現をガラスにしようと言うことになった。そしてガラスができている、というデータはないか、と議論が展開されていった。
熱天秤で分析評価したときに、ある温度間隔でサンプルの状態を撮影した写真があったことを思いだした。その写真は都合の良いことに350℃あたりから、きらきら輝くアモルファス質の物質ができている様子をうまく捉えていた。すなわち、アモルファスのボロンホスフェートができていたのだが、これはガラスではない。
しかし、その輝きを見たリーダーは、これならばガラスだろう、と言われたので燃焼時にガラスを生成して高分子を難燃化という表題になった。ただしリーダーはガラスの定義をご存じなく、Tgの存在を示す実験を指示されなかった。
ただ発表するのが当方だったので少し心配になり、発表資料を学会に送ってからこっそりと実験を行ったところ、驚いたことにそのアモルファス相を集めてDSCを測定したらTgが現れたのだ。信じられないことが起きるのが自然現象である。この時のトラウマがあり、酸化スズゾルから取り出した非晶質酸化スズについて何度もDSC測定を行ったがTgは現れなかった。
一連の実験は、科学的な仮説が発端になっていない。上司への忖度からガラスであって欲しい、と念じてDSCを測定したらTgが現れたのだ。この時正しい姿勢は、なぜ現れないはずの化合物でTgが現れたのか、科学的に解明する作業が必要である。
ただ予稿集も送付し、上司にもガラスだと言われ、なんと学会で発表してもどなたもTgが現れたことに対する質問が飛んでこなかったことでその機会を失った。
このあたりの問題については、写真会社へ転職し、酸化スズゾルが非晶質であることを証明するために、アカデミアで無機の専門家の先生にTEM写真やX線回折データをもとに議論した時にわかった(注)。
すなわち、アモルファス=ガラスと勘違いをされている先生がアカデミアでもいらっしゃったことで理解できた。すなわち知識が欠落していたなら、科学で展開される議論は、単なるつじつま合わせの議論になってしまう。STAP細胞事件でもニュースや「あの日」を読むとつじつま合わせの議論が展開されていた可能性が伝わってきた。
(注)写真会社では主任研究員の立場で部下をどのように指導したら良いのか悩んだときにアカデミアの先生にご相談することが多かった。組織風土が科学を重視する風土だったからである。真摯に「科学」と向き合っていた。この時の経験から、STAP細胞事件では、生化学分野がひどい状況であることを知った。特にW大学における小保方氏の学位の処理は、どなたかそれなりの立場の方は声を大にして批判し、問題とすべきである。「知識の砦」の終焉というと言い過ぎか?
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ニュートン力学誕生以後生まれた科学のおかげで技術の進歩の速度は速まった。20世紀はまさにこの科学の世紀と呼ぶにふさわしい成果がたくさん生まれている。しかしだからといって科学的ではない技術を軽視してはいけない。
それが無ければ商品の生産ができない場合も多い。生産現場は必ずしも科学的成果だけで成り立っているわけではない。
技術は科学誕生以前に人間の営みとして存在していた。科学の誕生により、自然界の理解が進み、その中に潜む機能を取り出しやすくなった。また、その機能の取り出し方法や使い方を科学的に伝承することにより、科学を学んだ人間であれば誰でも容易に再現できる。
これは一つの真理を追究する科学ゆえの恩恵で、学校教育でも科学を教育の中心にすえて大半の人は12年以上科学について学ぶことになる。しかし、技術の方法について学校教育で取り上げていないのは問題である。
全く取り上げていないわけでなく芸術分野の授業で少しそれを学ぶ。しかしメーカーの製造現場を経験しない限り、技術を技術として学ぶ機会は乏しい。はじめて本格的に技術を学んだのはゴム会社における2ケ月近い工場実習においてである。
その現場には改善班が組織されており、工場の各種改善をQC手法で行っていた。QC手法は科学的なプロセスを現場で活用できるように工夫されていたが、現場ではこのQC手法以外にも試行錯誤による改善が主に行われていた。この実習は人間の営みとしての技術を体験した貴重な機会だった。
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モノ創りのプロセスで試行錯誤は科学の訓練を受けていなくてもできる、と思われがちだが、試行錯誤ぐらい難しい方法は無い。猿やカラスが行う程度の試行錯誤ならだれでもできるかもしれないが、現代の人間の試行錯誤は科学を道具としてうまく使えなければならないので、これは少しOJTが必要である。
このような試行錯誤が訓練を必要としても、すべての条件を手あたり次第実験する方法ならば試行錯誤法のなかでも易しい。すべての条件を実験するのが大変だというならばラテン方格を用いればよい。ラテン方格を用いるとすべての条件の一部実施となるが、統計学上すべての条件をみていることになる。
これを科学的に行うのが実験計画法であり、タグチメソッドである。ただしラテン方格を用いるので同じように見えるが、実験計画法とタグチメソッドは全く異なる。実験計画法は統計手法だが、タグチメソッドは統計手法ではない。タグチメソッドでは、すべての条件の一部実施を実現するためにラテン方格を使用しているに過ぎない。
1980年前後は、まだ日科技連すなわちのQC手法が問題解決の主流で、実験計画法も企業の研究開発で使われていた。当方も実験計画法を頻繁に用いたが困った問題に悩まされていた。すなわち実験計画法で求められた結果が最適条件からよく外れるのだ。QCの先生が妙な等高線図を描き、外れる理由を科学的に説明してくれてもどうも怪しい。
ある日実験計画法と相関係数を組み合わせて用いてみた。すなわち相関係数の最大値が得られる条件を実験計画法で求めたのだ。ドンピシャで最適条件が求められた。それ以後実験計画法では、実測値をそのまま用いるのではなく相関係数を採用していた。不思議なことにこの方法で最適条件が外れなくなった。
この方法ではタグチメソッドでいうところの感度が最大になる条件を求めていたことになる。このようなことを若い時に体験していたので、タグチメソッドの外側因子という概念をすぐに理解できた。また当方は相関係数をラテン方格に組み入れて喜んでいただけだったが、同じ頃、海の向こうでタグチメソッドの普及に尽力されていた故田口先生と講演でお会いして凄い先生だとすぐに実感できた。
ただ、故田口先生がタグチメソッドを一生懸命科学の体系で説明しようとされていたのには少し失望した。タグチメソッドは科学である必要はなく、技術開発の一つのプロセスとして体系を組み立ててもよかったように思っている。
先生の著書には科学的に説明しようとされたご苦労が随所に現れているが、「この場合には、こうしろ」といったノウハウ的な教科書の方が技術者には読みやすい。
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自動酸素指数測定装置を手動で操作できるように改良した成果は、改善提案賞を受賞した。この時素直に喜べず、何か奇妙な気持ちだったが、市販されていた手動の酸素指数測定装置よりも精度が高いところが評価された、と説明を受けた。
自動酸素指数測定装置が無駄な装置だったとか、新たに手動の設備導入を検討していたとか、といった負の情報は一切語られることはなかった。優れた設備をさらに改良した、というポジティブな評価となっていた。
確かに、一般の測定装置では計測できない柔らかい発泡体でも測定できたり、誤差を最小にできる仕掛けなど工夫をしていた。すなわち、ただ制御部分をはずしただけの改造ではないので受賞基準を十分に満たしていた。
しかし、一番うれしかったのは、始末書を書かされたり、実験中に「科学的に仕事を進めるように」とか、楽しく仕事をしていると「趣味で仕事をやるな」などと叱責ばかりしていた上司が、当方を推薦してくださったことである。
ところで、この自動酸素指数測定装置を開発したS社の人物は、優れた科学者だった可能性がある。まだマイコン制御など高価でこのような設備に使用できない時代に、単純なON-OFF制御だけで高精度の値を出せる評価装置に仕上げていた。特定の試料を測定するだけであれば、当時の科学力を駆使した優れた設備という評価ができ、設備担当者が購入判断した動機を理解できた。
しかし、プラスチックの難燃性評価試験器というカテゴリーでこの装置を眺めると、がらくたに等しい。このような、それだけを捉えると科学技術の塊のような設備であっても、おもちゃとなるような製品が身の回りに存在する。
完璧に動作しない自動車の自動ブレーキもその一例で、ニュースで事件が報じられる前に、自動ブレーキ付ジュークを購入し後悔している。トルクベクタリングもついた高性能車で、乗り心地等は問題ないのだが、オプションをいろいろつけたら、自動ブレーキをオプションでもつけられない高価格車ジュークニスモとほとんど値段が変わらなかった。
値段はほとんど同じだが、ジュークニスモの方が高価に見える。役に立たない自動ブレーキがついて、4駆であることを示すエンブレムも小さくて、下位グレードの車と見間違えるような商品を購入し、複雑な気持ちで車を運転している。
購入時には営業担当から単眼カメラで測距している優れた技術だと説明を受けたが、信頼性の低い安全装置は科学的に優れていても、技術としては欠陥品である。
(車の自動ブレーキの測距法)
障害物の検知ではレーダーが天候に左右されないのでもっともすぐれている、と言われており、トヨタはレーダーと単眼カメラの組み合わせで自動ブレーキを制御している。最近はCCDやC-MOSなどの画像センサーの感度が上がり、これを二つ組み合わせて人間の目のごとく使用しているのはスバルのアイサイトで、すでに追突防止に実績が出ている。画像センサー一つで測距する方法は特許を読めば書かれており、CPUの演算速度が速くなったので、これがうまく機能すれば最もコストの安い方法である。
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当方の努力で軟質ポリウレタンフォームのような自立できないサンプルまで測定できるように自動酸素指数測定装置を改良できた。その成果を披露したところ、この装置は購入時にもっと便利だった、という意見が出てきた。
すなわち、サンプルを取り付ければボタンを押すだけの操作で「誰でも」LOIを計測できたからだそうだ。だから、当方の改造後それが面倒な手順になった、という批判が出てきた。
発泡体では燃焼スピードが速くて計測できないので誰も使用しなかったのではないか、とこのような意見に反論してみたが、反論しながら疑問がわいてきた。設備導入直後の頃に、なぜ、この設備が使われていたのか、という疑問である。
すなわち、発泡体すべてがこの装置で測定できない燃焼速度ではなく、開発初期には、この装置で測定できる燃焼速度の遅い発泡体が存在したことになる。そして、難燃化技術の開発が進んだ結果、燃焼速度の速いサンプルができるようになって、この装置では測定できなくなった。
これは、開発初期に難燃性が高い材料(燃焼速度が遅い材料)だったのが、難燃性が低い材料(燃焼速度が速い材料)へ開発が進められたことを意味する。
詳細を省略(注)するが、この疑問から当時建材の難燃試験で採用されていたJIS難燃2級という評価試験法の問題を発見することができ、通産省建築研究所で新たな規格を策定しなおすときに、お手伝いをすることになった。
このあたりの状況は以前にも書いているのでそちらを読んでいただきたいが、科学的に決められた評価試験法のおかげで、この時代にとんでもない材料(注)が各社から開発され、高防火性天井材として認可されている。
JIS難燃試験法は、科学的に検討され制定されている。その結果、試験法の研究過程で用いられた仮説から排除された現象が生じた場合には、それに対応できない評価法となる。
燃焼という現象を防ぐ機能を備えた高分子の難燃化システムは、その評価法を基準に開発されている。しかし、実際の火災では様々な現象が発生しており、それらの現象をすべて包括して評価する方法を科学的に作り出すことができるのだろうか?
それが可能となるためには、実火災について生じているすべての現象が不変の真理として解明される必要がある。
(注)JIS難燃2級試験法で試験を行ったときに、サンプルが熱変形し試験用の炎から遠ざかると、サンプルに着火せず不燃材という判定になる。この試験法が検討されたときにサンプルが炎から逃げるように変形し、さらにサンプルが爆裂しない状況を想定していなかったためである。天井材の開発過程で、熱で容易に餅のように膨らみ変形するサンプルが、高い難燃性を有している、との評価結果がJIS難燃2級試験法で得られた。そこでプラスチック天井材の業界で変形し安定に炎から逃れるようなサンプルが開発されるようになった。その結果、難燃化技術のあるべき姿である「燃えにくくする」ということが忘れられて、科学的に「うまく炎から逃れるように膨らむ材料」の開発が進められた。「燃えにくくする」開発が進められていた時には、自動酸素指数測定装置を使用できたのだが、「膨らむ材料」の開発を進めるうちにこの自動化装置では測定できないような燃えやすい材料へ退化していった。これは国の研究機関も含めて科学的研究開発が生んだ悲劇の事例である(実際に火事が多発するようになったので、喜劇ではない)。科学のプロセスでは、稀に、このような間抜けなことが起きているのではないか?この事件では偉い大学の先生まで「科学的に正しい論理」だが、「実用上は火災の原因となり、経験から判断して間違っている」とんでもない論理を展開したため業界すべてが間違った方向へ向かった。経験から判断すればおかしい見解でも、アカデミアの科学的な見解であればそれが正しいと判断される科学の時代に改めて疑問を持った。しかし、以前この欄でも書いたが、科学的に正しい、とされた見解について、その間違いを示すには、やはり科学的に示さなければ認めてもらえないのが、科学の時代である。経験上とか感覚的になどと言っていると軽蔑さえされる。しかし、技術者の経験上おかしい、という判断は重視すべきだと思う。STAP細胞では優秀な研究者が自殺する事態にまで至っている。
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この自動酸素指数測定装置には、現在普及しているS社の酸素指数測定装置よりも精度の高いガス混合装置がついていた。調べたところLOIで0.05の値を制御できるほどの高精度だった。一般の装置では、測定時にLOIで0.5程度のばらつきが出るものもあり、この制御系はかなり高性能に思われた。
さらにその仕組みは凝っていて、あたかもハイブリッド車のような仕組みだった。これは燃焼状態をモニターし、LOIを上げ下げするときにそのスピードが異なる仕組みになっているためらしい。しかし、この設備の説明書には、この機構も含め制御についての説明がまったく書かれておらず、ブラックボックス化されていた。
詳細な説明は省略するが、燃焼スピードの速いサンプルでも少し工夫すればこの装置で計測できる可能性があった。しかし、マニュアルにはその方法について書かれていなかっただけでなく、設備の操作盤にも当方が推定した方法を実施するためのスイッチやダイヤルがついていなかった。
もっともそれを行ったならば、マニュアルで操作した場合と同じになるので、燃焼スピードの速いサンプルについては仕様上除外した可能性が高い。
さらにこの装置は、マニュアル操作について細かい配慮がされておらず、むしろ自動化のためについているセンサや制御系を外して使用したほうが、すなわち一般の酸素指数測定装置の状態にしたほうが使い勝手がよくなるという奇妙な設計だった。
装置の仕組みをさらに調べていったところ、自動酸素指数測定装置という名前がついていてもサンプルの取り付けは手で毎回行わなければならず、測定が自動化されているために生まれるメリットは、「誰でも計測できる」という点だけである。あるいは、敬意を表して言えば、人為的な誤差が入らないようにした自動化装置と言うこともできる。
すなわち、材料組成が原因となって生じるLOIの誤差は少なくとも0.1以上あり、それを考慮し、装置の仕様や使い勝手をその前提で購入前に十分検討したならば、科学的な視点で人為的な誤差を排除できるメリットを重視しない限り、購入しない装置と思われた。
しかし仮に設備がこのように自動化されて人為的な誤差を最小にできる仕様になっていたとしても、その設備以外で発生する誤差が大きくなって、自動設備の仕様に対応できなくなり使用できない事態になる可能性があるならば、全体の作業プロセスの視点から見て判断するとその設備は使えない、ということになる。
これは、夕方や夜に使用できないという注意書きが前提の自動車用自動ブレーキの話に似ている。先日のニュースによれば、自動ブレーキ搭載の車で間抜けな事件(注)が起きたが、不完全で信頼できない科学的装置ほど無駄な技術の産物はない。
夕方や夜など明るさが不安定な時には使わないでください、と書かれた自動車の自動ブレーキは、使えないどころか、知らずに使えば危険な装置となる。これでは無いほうが安全である。
そこで、自動酸素指数測定装置についていた、センサーや制御系を取り外すことにした。ただ取り外すだけでは面白くないので、マニュアルで使用したときに便利なように改造も行った。
自動ブレーキや自動酸素指数測定装置のような意味不明の自動化設備が生まれる背景も科学の時代ゆえのような気がしている。
(注)
<以下は千葉日報2017年4月14日記事より一部抜粋した>
運転支援機能を搭載した日産のミニバン「セレナ」を試乗した客にブレーキを踏まないよう指示して事故を起こしたとして、県警交通捜査課と八千代署は14日、八千代市内の日産自動車販売店の店長男性(46)と同店の営業社員男性(28)を業務上過失傷害容疑で、試乗した客のトラック運転手男性(38)を自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで、千葉地検に書類送検した。運転支援機能付き車両の公道での試乗事故は全国初。
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自動酸素指数測定装置は、サンプルホルダーに自立している板状のサンプルの燃焼挙動をセンサーでモニターしながら酸素と窒素の配合比率を制御してLOIを自動で計測できる装置である。
LOIの測定についてJIS法が決まる前に開発された装置で、制御部分にお金がかかっており、当時日本で数台販売されただけ、と聞かされた。
建築用難燃断熱材「ダンフレーム」という商品を研究開発している時に評価装置として購入されたらしい。しかし、「使えない装置」と評価され、そのまま1年以上放置されていた。一方LOIのJIS化が検討されていた時なので、この自動装置とは異なるLOI評価装置を新たに購入する話が噂としてでていた。
これが大きな声となっていなかったのは自動酸素指数測定装置があるのにどのようにして新たな装置を設備申請するのか知恵が必要だったからである。JIS法の装置は自動酸素指数測定装置の半分程度の大きさである。おそらくそれが導入されたらこの高価なセンサーと自動制御装置のついた設備は廃棄されるだろうと思った。
そこでこれを改造して使えるようにしようと考え、設備担当者に自動酸素指数測定装置がどうして評価装置として使えなかったのかヒアリングをした。驚いたことに、サンプルの燃焼スピードが速すぎて制御が追いつかない、という理由だった。
設備を購入するときに使えるかどうか検討しているはずだが、それが十分に行われなかったようだ。この装置の問題はそれだけではなかった。科学が仕事の進め方まで支配し、技術を蝕んでいたのだ。
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ゴム会社へ入社し樹脂補強ゴムを開発後、高分子の難燃化研究を担当することになった。その時、ビニールのカバーがかかった事務机一つ分の大きさの装置を見つけた。これは1年ほど前に評価装置として検討され、「使えない装置」と結論された「自動酸素指数測定装置」である。
各種燃焼試験は科学的に開発されている評価技術だが、そもそも燃焼という現象を科学的に一つの真理として解明することは難しい。定義として「燃焼とは急激な酸化現象」というのがあるが、その現象を研究してみるとそこで起きているのは酸化だけではない(注)ことに気がつく。
この科学的な定義がおかしいのだが、未だにこの定義が教科書や論文に書かれている。仕方がないので、当方も論文執筆を頼まれると、一応この定義を書くが、当方はこの定義に納得しているわけではない。
ところで高分子の難燃化研究を担当したころにJISでLOI(極限酸素指数)という値の計測方法が難燃性の評価指数として決まった。これは、物質が継続燃焼するために必要な酸素濃度を指数で示したものだ。すなわち教科書に書かれた燃焼の定義に基づく燃焼評価法である。
さすがに科学的だけあって、高分子に難燃剤を添加してゆくと、その添加量とLOIとの間に線形性が認められる。それゆえ自己消火性を示すのに必要となる難燃剤の添加量を決めるにはLOIが適している。ただし、難燃性を発現する機能の選択を変えたときに適していない場合もある。この科学の問題もセミナーで解説している。
(注)酸化が引き金になってラジカルが発生し、様々な反応が系統的に発生する図を見たことがあるが、これは科学でうそをついた図だと思っている。
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科学の方法で技術開発を進めると効率が悪い、と思っている。分析や解析は科学的プロセスで行わなければならないが、モノを創りだすプロセスは科学の方法ではなく、人類がはるか昔から行ってきた技術の方法が効率を上げるだけでなく仕事の仕方を変える。
技術者が開発を進めるときに20世紀には仮説を立てそれを確認するために実験を行え、とよく言われた。ゴム会社の研究所でも写真会社でも同様のことを言われたので多くの日本企業で科学の方法が推奨されていたのだろうと思っている。
しかし、仮説を確認するための実験で仮説を支持しない結果となったらどうするか。そのまま否定証明に走る問題をこの欄で紹介している。電気粘性流体の増粘問題や酸化スズゾルを用いた帯電防止層の開発では否定証明により、技術として選択されるべき手段が科学的に否定された。
仮に科学的に否定されたとしても技術としてある機能を実現しなければならないのなら、何とかしなければいけないのがメーカーの技術者の役割である。「水」を「金」にするような技術は、明らかに不可能だが、科学で未解明の現象であれば、そこから機能を取り出せるかもしれない。また、科学で未解明だからこそ宝物の機能が眠っているかもしれない。
技術の方法では、科学で解明されている現象であればそこから科学の真理に基づく機能を取り出して使えばよく、仮に科学で未解明の現象でもそこに人類に有益な機能が潜んでいるならば、試行錯誤をしてでも取り出さなければいけない。
科学で未解明の現象であれば、そこに潜んでいる機能を取り出すためにすべての条件について試行錯誤で実験を行えばそれが可能となる。タグチメソッドではこの合理化した方法を提供してくれる。
タグチメソッドの詳細は省略するが、その実験方法は科学の方法と異なる(注)。また実験は計画的に行われるので、仮説立案→実験→考察という細かい繰り返しが無くなり残業時間の管理が可能となる。また、科学の考察という、仕事をやっているのかやっていないのかわからないような業務も無くなる。
(注)タグチメソッドは実験計画法ではない、と故田口玄一先生はよく言われた。またこれが技術的方法であることも力説された。しかし、科学的ではない、とは言われなかった。当方はこのメソッドをなぜ非科学として指導されないのか不思議に思っている。指導者の中には、科学の権威のごとく態度でこれを指導される先生がいらっしゃるが、その先生を眺めていると滑稽である。当方は非科学でこのメソッドほど自然界から効率よく機能を取り出せる方法を知らない。また、当方もゴム会社で実験計画法を使い実験していた時に、自然とタグチメソッドもどきの方法を考案し使っていたので、小学校から学びながらその手法を使いこなすのに苦労する科学よりも自然な方法だと思っている。
<技術の方法>
タグチメソッド以外に技術の方法には様々な手法が存在する。また科学を道具として活用する方法は、多くの職場でよく見られる。当方のセミナーではこれらのいくつかを取り上げ、上手な使い方を指導している。
<科学で未解明だがうまく機能を取り出した事例>
1.高純度SiCの前駆体技術
→χ>0であるのに有機高分子と無機高分子を相溶させた。
2.電気粘性流体用3種の構造制御粉体
→電気粘性流体用粉体について科学的未解明の時代の発明。
→いわゆる「心眼」で設計。
*心眼を用いることは技術者ならば誰でも可能。
3.カオス混合技術
→あっと驚く技術である。すでに説明済み。
4.6ナイロンが相溶したPPS中間転写ベルト
→χ>0である6ナイロンとPPSを相溶。
5.各種高分子難燃化技術
6.PETボトルの再生樹脂を用いた樹脂
7.変性ポリスチレンを相溶させたポリオレフィン樹脂
→χ>0であるポリマーブレンドで透明になっている。
8.柄杓を用いたラテックス合成プロセス
→ラテックス合成後に柄杓で3回上澄みをとる技術。
→柄杓を用いると歩留まりが著しく改善された。
→他の方法では改善できなかった。
→古くから現場で密かに伝承されていた方法である。
<科学的否定証明をひっくり返した例>
1.電気粘性流体の増粘問題解決
2.酸化スズゾル帯電防止層
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